巨大と壁
ロボットがデカすぎるので、ものすごく戦いにくい。
近距離攻撃をしようと近づくと足しか見えない。まあ、でかいので足を攻めて倒したりするのもありだろうとは思うが、その足もでかいので依里亜のレイピアでつんつんやっても、ロボットは蚊に刺されたくらいにしか感じてないんだろうなあと思った。
とっととやめて遠距離攻撃にシフト。なんか『でかさは正義』みたいのはやめて欲しい。
しかし、ロボットも戦いにくそうだった。なにせ『超電磁けん玉』で攻撃しようと腕を振り上げると、腕が、けん玉が、壁や天井にぶつかる。たまにうまく腕を振れても、飛んでくる『玉』が弧を描く軌道だとほぼ間違えなく壁に当たる。
従って直線的な軌道での攻撃がほとんどだが、いくらでかい玉であっても、そんな見え見えの攻撃が当たるようなやつは25階までは上ってこないだろ、と思った。運営なにやってんの。
しかし、ほんとにデカいとダメージが入らない。現状を把握する。
依里亜:バフデバフを除くと【ファイア】が攻撃主体。【クイック】使ってのレイピアは今のところ意味なし。【テイムII】は敵が自分より大きいので不可。
イワン:スキル【切り離し】を使う。体のどの部分でも任意に切り離し、操作することができる。切り離せる部分は基本は骨の切れ目。何ヶ所であろうが同時に切り離すことが可能。
アーヴァ:【酸素】スキルで『酸素』を操る。『アラジンぽいランプ』を使い周囲の『特定』の場所の酸素濃度を変える。スキルを発動させる場所にアーヴァやランプが触れる必要はない。
ギヤースッディーン:【計算】スキル。『+、-、×、÷』と『1から99』までを組み合わせて、極端なバフデバフを掛ける。最大『×99』で、攻撃力を約100倍にできるが、そんな数値は滅多に出ない。『÷99』は限界まで弱体化するが、バフでもデバフでも相手に触れないと発動しない。というか『÷』の時のデバフ効率は異常。『10』以上の数値がでたらステータスは即10分の1以下になる。当然『×』と『÷』の記号も滅多に出ない。
シン(ミシン):『針での攻撃』が得意。連射もできるし、ぶっとくて長い針を撃ち出すので、通常レベルの空中モンスターにはかなりメリットがあるが、ロボット相手だと厳しいか。
リーナ(掃除機):ある程度ダメージを与えてからはどんなものでも『吸い込む』ことができる。『風属性』の攻撃スキルもあるが、シンと同じくロボット相手では効果は期待できない。
「んー、とりあえずできることは、【計算】で攻撃力上げて【酸素】と【ファイア】くらいしかできないわね。ちょっとロボット相手だとこのパーティーはやばいわね。とりあえず【計算】唱えてみて」
「『-17』」
ギヤースッディーンが、壁を手で擦る。何をしているか聞く。
「デバフが出て、敵に触れるのが難しそうな時は、床や壁に擦り付けちゃう。壁の強度とかが下がるかもしれないけどそんなことは知ったこっちゃない」
おい。何度でもやり直し可能なスキルじゃねえか。
「いいバフの数値まで待ってもいいけど、デバフ出た時触れないかな? ロボットそんなに動き早くないよ? 」
「まーそうだな。ちと近づいてみるか。バフ出たら触るんで欲しい人も一緒に」
「一旦バフデバフかけた後に更に触ったらどうなるの? 」
「重ねがけは上書きだね。最後に触った数値が有効」
全員でぞろぞろ近づくのもなんなので、依里亜とイワンが同行。
アーヴァは自分一人でも『酸素濃度』を『0から100%』まで自由自在なので、バフは特に不要と判断した。
とりあえず近づきながらも数値を出していく。『+31』。依里亜にステータスにバフ。力を上げて依里亜は2人を抱えて【クイック】発動。
足元にいると、 ロボットから見えないようでけん玉は当たらないのだが、少し移動しただけで蹴られる。デカいので移動のために足を動かしただけでも車にはねられたレベルのダメージ。
『-18』が出たので、足に触る。このデカさだと移動速度に影響があるのか本体全部に効くのかはわからなかった。
近づいたついでに、ロボットの構造を見てみたが隙間もないし、ほんとどこから攻めるか迷う。
ロボットはの弱点は乗組員がいるかいないかで変わるが、共通するのは『バランス』だと考えられる。センサーと手足の動きをコントロールするのは難しいはずだ。だから、本当はここにでかい階段でも出現出来ればいいのだが、とも思うがそんなスキルは誰もない。そしてうまくバランスを取れたとして、それはたとえば腕が1本取れても持続できるのか?
また、電子部品がたくさんあるはずなので、強い電気には弱いはず。当然絶縁体をたくさん使っていたとしても、サンダー系の魔法は使いたい。誰も持ってないけど。
ロボットが自立式であれば、どこまで今の状況を理解しているかも問題になる。仮にプログラムで『敵をやっつけろ』とされていたとして、そして『目の前のやつは全て敵』だと仮定されていたとしても、自分のいる場所や自分の動きの意味を果たして理解出来ているのか。
また、対象物を感知する触感センサーは搭載されているのか? 『見る』ためのセンサーはあっても、では『音』で感知はできるのか? などなど。
乗組員がいるのだとすれば、もっと単純だ。見つけて殺せばいい。
「ねえ、ギヤーのスキルって、あんまり当たりの数字でないんでしょ? 自分のスキルとかステータスにバフ掛けたことある? 」
「え、あーないな。どーなるかわからない」
「ステータス値に『ラック』とかがあれば、それ強化すると、もしかしてもっといい数値連発しないもんかな?」
「OKやってみよう」
『+17』バフ。『+34』バフ。『+52』バフ。
「え、やべえなこれ」
『+73』バフ。『+89』バフ。『×45』
「あ、ヤバいのでた。お嬢さんにバフね。これで攻撃力が普段の45倍になった」
その後は同じくらいの数値で推移した。『+89』なら簡単にいえば『1.89倍』、掛け算の『45倍』がいかにとんでもないかわかる。
『÷38』ロボットにペタ。これで普段の防御力を『100』だとすると現在の防御力は『2.6』。めちゃくちゃだ。
アーヴァに濃いめの酸素ボールを作ってもらう。一般的な火災時の酸素濃度が20%程度で燃焼温度は2000℃。酸素濃度が100%だとその温度は2800℃まで上がる。この温度差は空気中の窒素が熱を奪うから。
けん玉攻撃がうざいので、右手の肘あたりを狙う。酸素濃度を増やしそこに【45倍ファイア】をぶち込んだ。発射した瞬間に自分で驚いた。なにせ45倍だから戦艦の主砲よりも発射が派手だ。別に自分のスキルだから反動などはない。
ロボットの腕は燃えるとかの前にまるで豆腐のようにファイアで切断された。いや、そこにあった部分が消滅したという方が正しい。その後に何もない空間が酸素の塊で大爆発を起こし、ロボット本体をも吹き飛ばし、壁を破壊しながら倒れた。ロボット全体にもデバフが入っていたようで、倒れた衝撃であちらこちらの部品が吹き飛んだ。
ここの壁は非破壊オブジェクトではなかったようだ。ギヤースッディーンが一生懸命デバフをなすりつけていたしなあ、と依里亜は思った。
デバフのお陰でロボットの装甲の防御力がペラッペラになっている。倒れて狙いやすくなったこともあり、イワンは腕を飛ばし、シンも針を飛ばし攻撃するとHPゲージが早回しのように減る。
依里亜がトドメとばかりに【45倍ファイア】をロボットの頭めがけて発射すると、首から上が紙のように燃え尽きた。
ゲージ消滅。「よし勝った」と喜ぶと、再びゴゴゴゴゴという振動。ロボット本体も消えずに残っている。
「まあ、これで済ませるような運営じゃないよね」
と何が起こるのかを見極めようとする。
周りを囲んでいる壁がすべて崩壊した。元々壊す設定だったのかと気づく。天井も崩れてきたが、柔らかくなっていたので発泡スチロール程度の硬さしかなかった。
すべての壁が崩れ落ちるとそこはだだっ広い草原だった。倒れているロボットが変形する。
「お、やっぱりロボットは変形、合体よね」
まーた、余計なことをいう依里亜。
とてつもなくどデカいロボットが空から降りてきた。超弩級というやつだった。どのくらいデカいのかと言うと、身長57m体重550t(推定)の変形ロボが、降りてきたロボットの足の小指として合体した、といえば想像ができるだろうか。
上の方は霞んでいた。胸より上は雲に隠れて見えなかった。




