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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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反則とパーティ

 テイム家電炊飯ジャー『ハンジャ』のご飯が炊き上がった。


 そもそもなぜこんなところで、なぜこのタイミングでお米を炊いていたのか。


 総勢18名の3つのパーティが25階に来たのがちょうどお昼どき。腹ごしらえをしてから中ボスに挑もうと考え、テイムしている『大地』がお米を炊くように『ハンジャ』に指示。直後少し進んだところで強制ワープとパーティ分断が起こった。


 お米が炊き上がったピーピー音がした。朔太が蓋をあけ、しゃもじでほぐす。もちろん、しゃもじだけでなく、テーブル、お茶碗、お箸も『ハンジャ』の【アイテムボックス】に入っていた。



 炊き上がった時も、蓋を開けた時も特に何もなかったが、そのお米の香りが部屋に広がったくらいのタイミングで、戦っていた『不動明王』と『雪絵』がピクっと同時に反応した。



 雪絵は、【阿修羅】スキルで生やした6本の腕のうち右の3本を失っている。


 一方、不動明王は、他の明王からの力を受け、体力全回復の上、『三面六臂』つまり、顔が3つ腕が6本という姿に変わっていた。


『興福寺』の国宝『阿修羅像』と同じ数の顔と腕だが、顔は不動明王のまま。『阿修羅像』と違って美少年の顔をしていない分だけ、罰当たり感は逆に減った気もするが、化け物テイストは増加していた。


 そして、スピードも攻撃力も最初とは段違いにあがっていた。


 ある意味『阿修羅』対決なのだが、腕を失っている雪絵の方が不利だ。



 雪絵は【阿修羅】スキルを解除した。スキルで生やしていた腕へのダメージもきっちりくらっておりHPは残りは4割弱。



【薬師如来】



 雪絵の別スキル。左手に薬壷が現れる。


『如来』と呼ばれる仏のうち、()()を持つのは薬師如来だけ。



 そもそも、修行中の仏陀の姿を模したものが『菩薩』である。仏陀が元々王族だったこともあり、冠、首飾り、イヤリングなど装飾品を身に付けている。『如来』は、悟りを開いたあとの姿なので、大日如来を除くと質素な布だけをまとう。だから仏ランキング的には『菩薩』より悟っている『如来』の方が上。


 厳密には上下関係ではなく役割分担でしかないが、それでもランキングでいえば、『阿修羅』は、『如来』『菩薩』『明王』の下にある『天部』に属する。ゲームで考えれば『大日如来』の化身である『不動明王』と対抗するには、同じ『如来』として戦うのがベターなのだろう。



 雪絵の姿は変わった訳ではない。ただ、左手に薬壺が出ただけ。しかし、それだけでHPは全回復した。そして、雪絵の後ろに2体の仏が現れた。向かって左に『日光菩薩』と右に『月光(がっこう)菩薩』だ。それぞれ日輪と月輪を持っている。


 不動明王は6本の腕でそれぞれ別の印を結び、全ての手から別属性の攻撃を同時に出した。光と火と水と木と金と土属性の攻撃だった。


 キャラクターは仏像なのに、やってることは最新科学兵器による戦いだ。



 ちょうど朔太のつまみ食いが終わり、ご飯を茶碗に盛り付け食べ始めたくらいの時だ。



 雪絵の脇侍をしている『月光菩薩』が真言を唱える。戦況は本格的な仏同士の戦いになっている。


『オン・センダラ・ハラバヤ・ソワカ』


 時空が歪んで見えた。攻撃の全てが月光菩薩の持つ月輪に吸い込まれた。月光菩薩は物理だろうが魔法だろうが全ての攻撃を『ブラックホール』のように吸収し無効化する。たとえば剣による直接的な攻撃であろうが、その打撃が雪絵を狙ったものであれば全て吸収する。


 同時に『日光菩薩』が真言を唱える。


『オン・ソリヤ・ハラバヤ・ソワカ』


 今吸収した攻撃をそのまま『ホワイトホール』的に日輪から吐き出し、不動明王にそのままぶつける。敵の攻撃が強力であればあるほど効果的な攻撃。反射ではない、月の裏を通して太陽から返してやるのだ。


 まともに反撃をくらった不動明王の腕が何本かちぎれ、かろうじて残った腕も手首から先はもげていた。HPは3割ほどが飛んだ。


 不動明王の身体が光り、腕が元に戻る。HPは戻ってはいないが、まだまだ戦えるとばかりに不遜な笑いを浮かべる。



 朔太がカードで寸銅に入った大量の『カレー』を出現させる。



 雪絵と不動明王がはっきりと朔太の方を見た。動きが完全に止まる。空間に漂うカレーの香りに気持ちを持っていかれている。限られた空間でのカレーの香りは反則だ。



 朔太がカレーを食べ始めた。


「あっ、これは……うんうん」


 想像を遥かに超えた美味しさに思わず漏れる声。うまいお米とうまいカレーのコンビネーションは、本能を力ずくでがっちり捕らえる。甘美で魅惑的で暴力的だ。その瞬間、全神経はカレーを食べるためだけに存在する。



 雪絵と不動明王は、どちらからということもなく戦いをやめてしまった。朔太に近づいてくる。


「あ、食べます? どうぞどうぞ」



 カレーパーティが始まった。



『ハンジャ』の【アイテムボックス】から出したテーブルをみんなで囲む。『レビ』、『ライヤ』、『ハンジャ』は家電なのでご飯は食べないが、『朔太』、『雪絵』のパーティメンバーの『マルタン』。


 今回、『マルタン』の出番はなかったが主に『重力』を操るレベル512のプレイヤー。雪絵のパーティでレベル500を超えているのは彼のみだが、今回はカレーを食べるだけになった。一言も喋らずにバトルは終わりそうだ。


 大地のテイム家電のドライヤー『ライア』は、カレーすら食べてないのでほんとにそこにいただけになった。



 テーブルには、『不動明王』だけでなく、不動明王の呼んだ『降三世明王』、『軍荼利明王』、『大威徳明王』、『金剛夜叉明王』、そして、雪絵の脇侍の『日光菩薩』、『月光菩薩』まで座っている。かなりの大所帯だ。


「まじでうめえなこれ」


 と元の姿に戻った不動明王が言う。割とフランクだ。普段の忿怒の表情はどこいった。


 他の明王たちは静かだが、食べるスピードがすごい。早く1杯目を食べてお代わりをしようとする給食中の小学生のようだ。すぐに何人かがお代わりに向かった。


「いや、なかなかここにいると美味しいもの食べられなくてね」


 と、不動明王がお代わりを3杯して落ち着いたのか話し出す。


「これ食べ終わったら続きする? あのままやっても私が勝ってただろうけど」


 と勝気な雪絵が挑発的な笑みを向けながら問いかけるが、不動明王は首を横に振った。


「いや、もう負けでいい。もう満足。カレーに負けたってことで。というかお腹いっぱいで何もする気は全く起きない。戦うとか論外過ぎだって。ふー。ほんと美味かった。ご馳走様。というか、この水も随分美味しいなあ」


 ハンジャの用意している水は世界中の名水だ。


 朔太は、この敵キャラたちはどういう設定なのだろう、とも思ったが、まあ、そんなもんか、とも思った。


 他の4人の明王たちも同意見のようだった。これ以上ないという満足感でだらだらしてる。おなかがパンパンに膨らんでいる。互いに『うまいカレーだったなあ』『カレーうまかったなあ』という感想しか出てこない。幸福な『だらけ』タイム。



「まあ、この25階まで来れるやつはほんと強さだけに特化したやつばかりでさ。そりゃものすごく強くて、俺らも負けることもあるんだよ。というか、ある程度の強さがあれば倒せる設定だから、それでも全然構わないんだけど。んでも最上階はちと違うかな」


 不動明王が話し出す。カレーのお礼とでもいうような感じでもなかった。まるで、昔からの友達のようにも接してきた。うまい飯を一緒に食べることはそれほどに距離を近づける。


「1回かるーくこの最上階にいるボスとお試しで戦って見たことあるんだけど、いやあ、ありゃチートというかインチキよ。ダメダメ! 話になんなかった」


「そんな強いんかー」


 といいながら、みんなにデザートを配膳する。カレーの力強さに負けない『ガトーショコラ』。サイドにはバニラアイスも添えてある。『キャラメリゼ』までしてみた。ほんとに1口サイズのちょっとしたもの。ハンジャの【アイテムボックス】を勝手にいじり、カードも使ってこさえていた。


 すわ、こりゃ反則だしデザートは別腹、とばかりにあっという間に各皿が空になる。


 別に朔太は不動明王たちに恩を売る気も何もなかった。ただ一緒にうまい飯を食べたいだけであった。だから、別に何も要求しない。見返りは求めない。


「おいおい、このデザートもスペシャルじゃねえか、うますぎるぞ、おい」


 不動明王がうなる。


「今度さ、この米とカレーで()()()()()も作りたくなってきたよ。その時は呼ぶからアドレス交換しようぜ? 」


 朔太の前には行列ができた。全員が迷いなくその誘いに乗った。


「ラスボスはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 不動明王は、全部言わなくてもいいと分かった上で、それでもなにか伝えたいと思い、朔太に伝えた。


「OK。ありがとな」




 その頃、依里亜は、全く言葉が通じないメンバーにものすごく苦戦していた。


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