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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第1章 無生物テイマー、恋人を探す
7/83

カラスと氷

 ガコッ、ドカッ、バタッ、『バタン』

 ガコッ、ドカッ、バタッ、『バタン』


 テイム冷蔵庫の以蔵の歩く音は物凄くうるさい。レビのスキル【指令】で強制的に【移動】能力を付加されているとはいえ、そのスキルレベルは1であるためすぐ消えてしまう。そうすると道路に取り残される。


 しかし、以蔵は話すことができないので、止まったらドアの開け閉めで前を歩く依里亜(いりあ)とレビに伝えるしかない。依里亜に「ちょっと待って」、レビには「また【指令】で【移動】をかけて」と。


 それが


 ガコッ、ドカッ、バタッ、『バタン』


 という音になる。


 レンジのブンジも同じく止まるし話せないが、大人しく止まったままなのは性格によるのか、それともどうせ以蔵が合図を送るとわかっているからか。


「はいー!公園に到着ー!さっきの公園は嫌なことがあったから少し遠いところに来てみました。どうせ出るモンスターはレベル帯で制御されているからどこでもいいでしょ。ここでみんなのレベルをあげましょう」


 おかしな4人組で道路をぞろぞろと歩いてきたものの、すれ違っても誰も振り返ることもなかった。確かに天狗や、サイクロプスや、首なし騎士な人たち? と同じ道路を歩いてれば、冷蔵庫やレンジなどは単なる日常的な家電に過ぎない。もちろん道路を歩いていることの是非は別として。


「以蔵とブンジは初バトルなのでHPには十分気をつけること。HPが6割くらいになったら遠慮なくポーションを使って。公園でのバトル自体は割とお手軽なので、できることは出し惜しみしないで。といっても2人ともスキルはひとつしかないか」


 この公園の戦闘用料金は壺に入れるシステムだった。戦闘ができる曜日は月水金。看板のようなものに『壺にお金をいれて回せばスタート』と手書きで書いてある。その下には『月曜は3倍サービスデー』と書いてある。


「ポイントカードとかあるのかしら? 」


『経験値が3倍になるなら嬉しいですねえ』


 早速110円を入れて壺をくるくると回す。

 魔法陣が描く円が最大になる前に戦闘の隊列になる。以蔵は壁役、依里亜とレビは中距離。ブンジは1番後ろに構える。



「うわあ……」


『あらあ……出現モンスターが3倍かあ』



 魔法陣からは100匹を超えるカラスが現れた。



「もう!飛んでたらレイピア当たらないって! 」


『とりあえず、ブンジさん【必中】かけてー! 【麻痺!⠀】【麻痺! 】【麻痺! 】』


「麻痺して落ちてきたのは任せて! 」


 以蔵も【アイスシュート】のスキルを発動している。初めて見たスキルであったが、当たればカラスは一撃で倒せているのでそれなりの攻撃力はありそうだ。製氷室のドアを開き、そこから魔力で撃ち出しているようだった。


 テイムと魔力によって製氷スピードもあがっているのであろう。できあがった氷が次々と製氷室に落ちてくる音が聞こえる。


 しかし、【麻痺】も【アイスシュート】も【必中】で当たるものの【麻痺】の対象は1匹だけ。【アイスシュート】も1回に飛ばせる氷は1個だけ。しかもリロードに時間がかかってタイムラグが酷い。キリがない。



 ほとんどのカラスは空中でホバリング。そこを狙っているうちに反対側の数十羽が四方八方からヒット&ウエイの攻撃をしてくる。遠距離とか隊列は関係なかった。


 見た目は普通のカラスだが、バトルフィールドに出てくるだけはあってかなり好戦的だ。カラスのレベルが高くはないためクチバシでの攻撃はダメージは大きくない。しかしその複数攻撃は速く、とてつもなく鬱陶しい。攻撃を全部かわせる訳はなく、チクリチクリと全員のHPを削る。


「レビ、みんなのHP見て!」


『大丈夫ですね、みんなポーション使えてます!どうやってるかはわかりませんが』


 懸案事項1つ解決。


『あ、やばい、私のMPがなくなるー。依里亜さんマナポを……あ、でも、いや、ちょっと待てよ。以蔵!【指令!アイスシュート!⠀】』


「レビ、マナポいるの? いらないの? 」


 依里亜はレビにマナポーションを渡そうとするというか、ぶっかけようとした時以蔵の様子が目に入った。【アイスシュート】を撃つペースが上がっている。


 さっきまでのおよそ倍のペースで撃っている。


『依里亜さん!【指令】で【アイスシュート】使えました!』


 確かに【アイスシュート】に【指令】が使えるかは賭けであったが、戦闘時なら使えるとは思っていた。勝率の高い賭けであった。



 我々の日常生活においても、文字だけを読んで全てを理解するのはなかなか難しい。それが厳密な「ルール」だとしても、実感として把握し使いこなすには繰り返しの体験が必要なことは多い。



 レビは【指令】を使って何度も何度も以蔵たちを移動させていたため、そのルールを実感として理解していた。つまり、()()()()()使()()()()M()P()()()()()()ということを。


 ――――――


【指令Lv1】【パーティ内の他のキャラに指令をすることができる。指令の内容はスキルレベルに依存するがM()P()()()()()()()


 ――――――


 ルール通りだ。


 そしてレビは考えた。自分はMPが必要な【麻痺】を使わず、以蔵にMPなしで【指令】することで、パーティ全体のMP消費を抑え、さらに攻撃回数を増やそう、と。それはマナポーションの温存にも繋がる。


 レビは以蔵のスキルとスキルの間のタイムラグに()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。



 依里亜は全ての仕組みが分かった訳ではなかった。ただ、レビの言葉と以蔵の【アイスシュート】のペースを見て「あーそれならこういう方法もあるな」と思っただけだった。


 おもむろに以蔵に近づくと開いている製氷室に手を突っ込み、氷を3、4個握りカラスに向かって投げつけた。


 ブンジの【必中】スキルがパーティ全体に掛かっているため、適当に投げてもどれかのカラスには当たる。ほとんどはそれで倒すことができた。倒し切れなくても落ちてきたものはレイピアでトドメを刺した。


【アイスシュート】に【擬似アイスシュート】が加わり、最初の5倍以上のペースでカラスを撃墜する。


「これはチートね!チート!」


『さすが依里亜さん!以蔵さんよりたくさん倒してますよ!』


「チートよ!チートなのよ!」


『依里亜さん落ち着いて!それになかなかのスピードで投げますね!』


「レビ!言ったでしょ!元ソフトボール部よ私! 強肩のキャッチャーをやってたわ!」


『あー』




 戦闘開始から小一時間が経過し、カラスは数を減らしてきた。あと30羽くらいか。パーティ全体のマナポーションはあと1本。依里亜以外のMPが底をついてきた。そして順調に思えた【アイスシュート】が急に止まった。製氷室の氷がなくなったのだ。


 ここでよく確認すべきだった。依里亜は焦っていた。戦闘を早く終わらせたいと思っていた。自分たちが絶対に勝てると思っていた。


 自分が持っていた最後のマナポーションを迷わず以蔵に使った。MPが回復した。全回復である。


 しかし、【アイスシュート】は撃てなかった。


 氷を作るためのタンクの水が()()()()()()()()()


【アイスシュート】は冷蔵庫の仕組みで作られた氷を魔力で飛ばすスキルだ。魔力で氷を作るのではない。テイムと魔法の力で氷を作るスピードは圧倒的にあがっている。それこそ瞬間的に作ることが可能だ。しかしそれは、タンクに水が入っていればの話だ。


 依里亜は【アイスシュート】が止まった時に、タンクの水を確認すべきだったのだ。そして最後のマナポーションはレビに使い、再び【麻痺】スキルでカラスを落としていくべきであった。



「あ、ごめん。私やっちゃったかも……」


『依里亜さん!氷がない!ないよ!』


『バタン!』


『バタン!バタン!』


 以蔵とブンジもさすがに慌てているようだが、何もできることはない。特にブンジは何度もドアの開け閉めをする。


「……離脱する? 」


 公園での戦闘はモンスターが出てくるというだけで、どこか異次元に行く訳ではない。戦うのはあくまで公園内だ。公園から出れば離脱することができるだろうと単純に思い込んでいた。


『しかたないですね。いずれにせよこのままではジリ貧です』


 依里亜は公園の出口に走ったが、結界のような見えない壁にはじかれて尻もちをついた。


「……あ、やばいかも」


 本当は何度かトライすれば離脱することは可能だったが、依里亜は諦めのよさと戦いの混乱で1度しか試さなかった。


 倒れている依里亜に3羽のカラスが襲いかかる。近距離ならば攻撃は届く。尻もちの体勢から起き上がりながらレイピアを振る。


『あ、依里亜さんレベル上がりましたよ!』


 HPとMPが全回復する。


「私の新しく憶えたスキル教えて! 」


『【スローLv4】【ヒールLv3】【バリアLv2】レベルは7まで上がってます!! 』


 出てきた集団のカラスは決してパーティを組んでいる訳ではないため、全滅させることでいっぺんに経験値が入るのではなく、倒す度にその都度その都度入っていたのだ。


「攻撃系のスキルはないわね!とりあえず【スロー】【ヒール】【バリア】!! 」


 依里亜はMPは最初から全く使っていない。これでしばらくはもつはず。


「3人のレベルとスキルは!?」


『以蔵はレベル5!【アイテムボックスLv1】と【アイスシュートLv5】、ブンジはレベル4!【表示】、私はレベル5!【弱点サーチ】【声真似】!』


 レベルがあがっても「テレレテッテレー」みたいなファンファーレはならないため、戦闘中のレベルアップには気づかなかった。ステータスが見えているレビも気にする暇がなかった。


「攻撃系のスキルみたいのがないわね!でもレベルアップしてMPも回復してるはず!以蔵は氷がないけど、レビ、【麻痺】使って!」


『……ごめんなさい!レベルアップして回復した分のMPも前半で使い切ってます』


「攻撃の手段が私のレイピアしかないわ」


『バタンバタン!!』


 ブンジが騒いでいる。


「ブンジの【表示】スキル詳しく教えて!」


 依里亜は突進してくるカラスをレイピアで突き刺しながら叫ぶ。


『【液晶パネルで会話できる】ってあります!』


「え、じゃあ、ブンジはなんか言いたいことがあるからさっきから騒いでるっていうの? 」


 依里亜はブンジに駆け寄ると、レンジ前面の液晶パネルに表示される文字列を見つめた。


『こうえんだ だからすいどう ありますよ』


「あ!」




 カラスは全滅した。



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