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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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兄ちゃんと姉ちゃん

「兄ちゃん、姉ちゃんってやっぱりセットだと思うのよね」


「んー、ちょっとまて、いま大変だから……。なんだって? 」


 依里亜が声を掛けるが朔太はそれどころではないらしい。


「いや、やっぱりね、兄ちゃん、姉ちゃんというのはいつも一緒だなって思って」


「どういうことか、わからん」


「現在の状況よ! もう勘弁して! 」



 21階まで来ると、床がとにかくめちゃくちゃ歩きにくくなっていた。


 ある所ではヌルヌルと滑りやすく転んでばかり、ある所ではベトベトと足にくっつき転ぶ。現在は鳥モチのような感じではないものの、温めたガムのように、『にちゃにちゃ、ねちゃねちゃ』している。それを依里亜は「()()()()()()()()」と形容していた。足が完全にくっつくこともないし、完全に滑ることはないが、くっつくし、滑る。


 トラップではないからダメージは入らない。洞窟を進むとちょっとした水溜まりで歩きにくいことがあるが、ああいうのを物凄く嫌な感じにし、精神的ダメージを食らうようにしたものだ。


 マイカの【悪路走行】も試したみたが、タイヤもくっつくし、滑った。21階ともなると運営の嫌がらせも念入りになってくる。しょうがなく全員で歩く。当然、家電たちも『兄ちゃん、姉ちゃん』してる。


「これ、あとでとれるのかなあ」


 そして、そこに現れる敵はすべて飛行生物の(たぐい)


「ずるい! 」


 依里亜は得意の足技も封じられている状態。【クイック】で動こうとしたら1歩目で転び、壁走りをしようと思ったが壁も『兄ちゃん、姉ちゃん』だった。


 歩くのに疲れた朔太が休憩のために、壁に手をついたあと、変な声を出し、手のひらを見つめ、大きくため息をついた。


 従って、現在モンスター退治には遠距離攻撃がほとんどである。もちろん、一つ一つの攻撃はそれなりの威力があったので、自分たちのHPが減るような間抜けなことはなく、敵は倒せた。が、とにかく歩きにくい。


 しかも、ビルの中のはずなのに、ドアは一切なく、まっすぐに「にちゃ廊下」と「ねちゃ壁」が続くだけである。どこに電灯があるのか、暗くて見えないことはなく昼間のオフィスの明るさではあるが、まあ、進まない。


 11階から20階まで海みたいなところで船に乗った訳だから、驚きはしないが、そういうことではない。


 しばらくいくと、さらに床の性質が変わった。『底なし沼』だ。全部ではなかった。廊下の端を通ればなんとか膝下まで『デロデロ』になりながらも進むことができた。


 依里亜たちはうまくそこを避けていくことができたのは、前にいたパーティが武器を廊下の端に落としていたが、沈んでいなかったので安全地帯と判断できたからだ。


 鎧をつけた割と高レベルの3人パーティだった。沼から出られないのは鎧が重たいだけではないだろう。もがいているうちに沈んでいき、頭まで浸かり、しばらくすると天井からまた同じ箇所に落ちる。それをずっと繰り返している。HPは減ってない。床と天井で空間が繋がっているのであろう。ただひたすらもがいて沈み、天井から降ってくる。


 地獄である。


「いっそ殺してくれ」と思っているだろうなあー、と思いながら横を通っていった。


 何もしなかった訳ではなかった。助ける方法が浮かばなかった。様々なことを試してみたが、フリーズレーザーでも沼に影響を与えることはできなかった。いちばん怖いのはダメージを与えない代わりになんの影響も受けないものだ。無敵だからしかたがない。


 タイミングを合わせてリタイアすりゃいいだけ、ということもわかっていた。遭難者をいちいち朔太のカードを使って助けてたら自分たちのクリアが遠のく。別に我々は救助隊ではない。『現場での生死は自己責任』という感じの言い訳を自分に言い聞かせた。


 しばらーくしてから、あー、朔太の『氷の盾』を使えばコストゼロでも助けられたな、とは思ったが、戻ろうという気持ちは全く起きなかった。自分たちで何とかしてくれ。


 せっかく思いついたアイディアだったので、自分たちで使うことにした。『にちゃにちゃ』や『ねちゃねちゃ』『デロデロ』『ズブズブ』『ヌルヌル』『ツルツル』な床はそれぞれのゾーンの切れ目にわずかに何もない箇所があった。


 そこに朔太の『氷の盾』から『氷の壁』を斜めに出し『()()()()()』を作った。凍りついた氷の壁は、床にあたるとそこにかなり強力にくっついた。別に切れ目に正確にくっつく必要はなかった。『底なし沼』でもなければ、歩きにくいだけで問題はない。


 氷の強度が気になったのでマイカは最後に滑ったが、問題はなかった。依里亜たちは滑り終わりでうまく着地したが、重さのある以蔵やマイカは滑り終わったあとにも勢いで進んだ。だから危なそうなところでは、『氷の滑り台』の方向を斜めに作った。『底なし沼』に落ちるより壁にぶつかった方がましだ。



 そうしているうちに、またもやまごまご進んでいる他のパーティに追いついた。


「あれ? 雪絵のパーティじゃん」


 依里亜とかつてソフトボール部でバッテリーを組んでいた白戸(しらと)雪絵(ゆきえ)だ。ギルドの申し込みに行った市役所で1度再会し、『ザゲコス(このゲーム)』について色々なことを教えてくれた。


 全部で8本の腕を操る【阿修羅】というチートスキルを使う元ピッチャー。


 あの時既にパーティメンバーの1人はレベル500を超えてるとかなんとか言っていたが、さすがにこの床に苦戦しているようだった。


 飛ぶことができるスキルがあれば、こんな床はなんてことはないが、なかなか飛行スキル持ちには出会わないのは確かだなあと思った。


「あ、依里亜だ。久しぶり」


 呑気か。


「雪絵たちも苦労してるみたいねー。もしよかったら、一緒に進む? 滑り台だと楽よ」


 雪絵パーティメンバーたちは一も二もなく賛成した。


 そういやギルドで雪絵の連絡先を聞いたのに、何も連絡してなかったな、と思い出した。あと、ギルドもほとんど活用していなかったことも忘れていた。依里亜はそんなにマメではない。


 足を進める前にお互いを紹介をした。依里亜の率いる家電たちは雪絵が既に話をしていたため、雪絵のパーティメンバーも驚いたりはしない。


「彼はマイクよ」


「Hello. You met at the city hall the other day.」


 わっ、英語じゃん。依里亜は英語が物凄く苦手だ。引きつった顔で、「あーはー」と訳もわからず頷いた。


「彼はマルタン。フランス人よ」


Bonjour(こんにちは)


 さらに依里亜の顔が引きつる。


「彼はイワン。ロシア人」


Привет(こんにちは)


 いかにもロシア人という顔をしていた。依里亜は既に何も喋れない。


 残りのインドの人の「アーヴァ」と、アラブ人の「ギヤースッディーン」の挨拶に至っては、聞いてもいなかった。


「よ、よくこのパーティーでやっていけるわね」


「まあ、なんとかなるもんよ」


 呑気か。




 進みながら雪絵から色々な情報を聞いた。レベルが高いメンバーのつながりがあるようだった。


 レビが外国人の皆さんと楽しそうに話していた。むむっ、そんな能力あったんか、レビ。


 画面にも『ヽ(*´∀`)ノ』とか出している。顔文字が進化してるな。



「ねえ、聞いた? もう最上階までたどり着いたパーティも出てきてるわよ。でも、クリアはまだみたいねえ」


「うちらは宝島でダラダラしてたからなあ」


「あ、あそこね。うちらは全滅するまでまやって宝箱は20くらいしか開けられなかったわ。大してアイテムも増えなくて、あんまり効率はよくなかったわね。そのあとすぐに正規ルートに戻ったけどなかなか進めなくて」


「そうなんだー」


 さすがに全部開けたとは言えなかった。やっぱり島の裏側は気づかなかったんだなーと思った。


「海賊船は戦艦になる前に沈めたけどね」


 それは得意不得意の差だな、と思った。


「なんかね、最上階の手前で『究極の2択』を迫られるらしいわよ。今のうちに覚悟しておくといいわね。内容まではわからないけど」


「ミートソースかカレーライスならミートソースを選ぶけど」


「いや、僕ならカレーライスを選ぶよ」


 朔太が話に割って入ってきた。かつて地球でまだ生きていたころ依里亜は朔太を雪絵に紹介したことがあった。全く初対面ということではなかった。


「そういう選択ではないみたいよ。よくあるじゃない、2人の親しい人が溺れていてどちらを助けるか、みたいなのを迫られるって噂よ。朔太さん久しぶりね。依里亜とはうまくいってる? 」


 雪絵は朔太に微笑みながら朔太に声を掛けた。


「あ、うん。え、あー、うまくいってるよ」


「そこは即答するところでしょ」


 と依里亜が朔太の脇を肘でつつく。


「そういや、朔太の知りあいってゲーム内では会ってないわね」


 依里亜が言うことはだいたい予知なようなものとなる。


 進んで行く先に、男女の2人組が『ツルツル床』に苦戦している。1人が、『ミシン』と『ドライヤー』と『掃除機』と『炊飯器』を連れている。えっ、こいつも家電をテイムしてるの!? と思った時に朔太が言った。


「あ、あれは……」


 知りあいか。


「兄ちゃん! 姉ちゃん! 」




 兄ちゃんと姉ちゃんはやはりセットだった。




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