宝島と鬼ヶ島
B子たちはC子を『大学生』としか説明していない。そして、依里亜たちは誰一人直接C子に会っていない。
『先入観や思い込み』による『事実誤認』である。だれでも『大学生』と聞けば若者を想像する。しかし、実際の大学入学には年齢制限はない。
話を聞くと、C子は65歳。経済的には厳しかったが努力し大学に入学したという。料理も上手で人柄もよく一生懸命勉強にも取り組む。周囲の学生は、おばあちゃんやお母さんのように慕い、尊敬していた。
まあ、失礼ながら、『女にだらしない男子大学生』がなかなかおばあちゃんを口説くことはなかなか考えづらい。そりゃ、みんなも口を揃えて否定する訳だ。
そして、料理も教えてもらえるし、ということで普段から仲良くしていたB子が別荘に誘ったということだった。
朔太の質問も悪かった。
「この別荘にはお手伝いさんとかはいるんですか? 」
お婆さんだからお手伝いさんだろうという決めつけ、思い込み。
「お婆さんを見かけましたけど誰ですか」という質問であればその時点で謎にはならなかったはずだ。
ただ、C子がお婆さんと分かったからと言って、犯人がわかった訳でもなかった。
果たして『鬼』は本当にいるのか、いないのか。
ふと依里亜は閃いた。B子に声を掛け確認をすると、依里亜の仮定は確信に変わった。
「C子さんに話を聞く必要があるようね」
依里亜はその時点でC子が犯人と断定していた。
みんなでC子の部屋に行く。依里亜が自分たちがここにいる経緯。具合の悪い中に伺ったことの非礼と、D男の死。これまでの流れを掻い摘んで説明した。
そしてまずこう聞いた。
依里亜「D男さんに何をされたんですか? 」
B子「ちょ、なに、いきな……」
C子「……」
依里亜「ここに来る前から面識があったんですよね」
C子「ふぅー、そうよ。あいつは殺されるべき人間だった」
一同が息を飲んだ。
依里亜「では、何をされたんですか? 」
C子「若い頃からずっと大学に入って勉強したかったの。でも、若いうちはお金がなくて、ずっと働いて貯めたわ。で、気づいたら60を超えていた。そして、大学への入学を決めた時にあいつが現れて……」
依里亜が頷き、話の続きを促す。
C子「詐欺グループの受け子として、私の貯金を奪っていったのよ」
そこにいる全員が驚きと後悔と同情の入り交じった顔をした。
C子「だから、お金が足りなくてその年の入学はできなかったわ。また貯めたり子供からお金を借りたりしてやっと入学できた時には63歳になっていたの。学年も違うから会うことはなかったけど、今回の出発地に行ったらあいつがいたのよ。絶対に顔は忘れないし、間違える訳がない」
C子は殺してしまったことについての後悔は感じていなかったように見えた。
C子「だから、ご飯を作る前に問い詰めに言ったのよ。そしたらあいつ、『そんな事は知らない』と言いながら、『お孫さんが落としたお金は見つかったのかい?』って笑ったのよ。『孫がお金を落とした』っていう手で騙されたことを知ってて自分が実はやったってことをアピールしてきたの。だから、私もう我慢できなくて、冷凍室から冷凍肉を持ってきて後頭部を殴りつけたわ。もちろん鍵はマスターキーで閉めた」
A子「え!肉?」
E男「え、まさかさっき食べた!?」
F男はトイレに走る。
C子「大丈夫よ。料理には使ってない。あなたたちにそんなものは食べさせない」
依里亜はどっちにしろご飯を遠慮してよかったと思った。
C子「その肉はすぐにビニールにいれて、血が垂れないようにして、裏庭に埋めたわ。その時そちらの方に見られたのでしょうね」
『Who done it?(誰がやったのか?=C子)』
『How done it?(どうやったのか?=冷凍肉で撲殺』
『Why done it?(なぜしたのか?=詐欺でお金を取られた)』
これで事件は解決した。が、朔太はどうしても「鬼」のことが気になっていた。そして、依里亜がどうしてC子を犯人だと断定したのかがわからなかった。依里亜に聞いてみる。
「助手ならそのくらいは考えなさいよ。今までの流れでヒントはあったわよ。この島についてもう一度考えることとC子の本名を思い出してみてね。……これつくった人なかなかすごいわ、初めて運営を尊敬したわ」
「僕、別に助手じゃないのに……」
夜も更けてきていたが、『謎解き成功パーティ』が行われた。普通にC子も元気にニコニコしているし、殺されたはずのD男も参加している。物凄く違和感は覚えたが、まあイベントだしと思った。
D男「僕ね、死体キャラなんで、設定で最初から息もしないし心臓も動かないんですよ」
というと学生たちが大笑いをする、というシュールな飲み会だ。そういえばD男の声は初めて聞いたなとも気づいた。
D男「殺されるところは見られない設定なんで、最初からずっと頭が陥没してるんですよ」
D男が自分の頭を撫でると学生たちはどっと盛り上がるが、依里亜たちは「はーそうですかー」としか言えない。ブラックジョークすぎる。
C子は本当に料理が上手かった。盛り付けも綺麗だし、味付けも高級店で食べてるかのように感じた。
「私ね、ずっとレストランで働いてお金を貯めたの」
というC子のセリフは設定なのか現実なのか、酔ってきた依里亜にはよくわからなかったが、現実だとすると詐欺でお金を取られたことも本当だしなあ、とも思った。それでもいま幸せそうに居られるならいいや、とも思った。
朔太も酔ってきていて「鬼って本当にいるんですか? 」とか聞いてるが、C子に「鬼がいるとしたらあなたの心の中よ」と言われ、みんなに笑われていた。
かなり遅い時間になって『謎解き記念アイテム』贈答式があった。リボンのついた箱を開けるとなにやら黒くて四角くて小さいアイテムが入っていた。聞くと、これをつけていると『パーティ全体の獲得経験値が5倍になる』という超レアアイテムだった。
かなり酔ってきていたし、雨も降り続いていたので1晩泊まることした。部屋は沢山あると言っていた通りだったので、久しぶりに伸び伸びと1人で寝ることにした。家電たちはリビングだ。
ベッドに入った朔太は、再び「鬼」のことを思い出していた。気になって寝れない。「そういえば桃太郎はこの島を『鬼ヶ島』って言ってたよな。この島は『宝島』であり『鬼ヶ島』でもある」と思い出した。寝る前に聞いたC子の本名は『島田椎子』。
なんか同じく『島』が入ってるな、と気づいた瞬間謎が解けた。朔太はおもわずベッドから飛び起きた。
『鬼ヶ島』は『おにがしま』つまり『おに』が『しま』。
4枚の紙から出てきた『助けて犯人は鬼だ』にあてはめる。『鬼』が『島』に変わる。『助けて犯人は島田』だ!
「ああ、鬼もいなくなるし、犯人も名指しか。島の2つの名前が最後までヒントになっているとは……」
朔太は思わず叫びたくなったが、隣の部屋の依里亜に怒られそうだったので、布団を被ってから叫んだ。
次の日、別荘からすぐ降りたところの桟橋に依里亜たちの船が来ていたので、桃太郎洞窟をもう一度通る必要はなかった。
20階の中ボスには『リヴァイアサン』が出てきたが、瞬殺して21階に登った。




