空箱と困惑
『□ぬき □っこ』だけなら可能性は様々だ。
「居抜き、毛抜き、讃岐、たぬき」や「1個、カッコ、だっこ、やっこ、らっこ」といくらでも組み合わせがある。
E男が持っていた紙が一番最初にでてきたならば、確かに混乱しただろう。
しかし、『宝島の鍵』を持っていたおかけで、1番分かりやすく間違えようのないヒントが最初に手に入った。
『コンピュー□ あきはば□』
と来れば入るのは「た」と「ら」だ。つまり、『□ぬき □っこ』も『たぬき らっこ』となるだろうと推測できる。
こういった法則性を探すものは3つあればまず間違えない。
『か□□□き か□あげ』
後半は「かき揚げ、嵩上げ、格上げ」などもあるが、「唐揚げ」とすると3つの紙は共通した文字が入る、
前半にいたっては、依里亜と朔太が『謎かけばばあ』との戦いのあとで話題にでたものだ。『同じ文字が続くのは珍しいよね』と。つまり「肩たたき」確定。
「つまり、3つの紙に共通するのは『た』それから『ら』で、これがなに? 朔太」
「さあ?」
推理小説において、名探偵の助手は読者よりは賢くないと相場が決まっている。
(ピー! )
ブンジが声をかけた。
「ならべたら ぜんぶたからが でてきたね」
「ん?そうそう。全部『た』か『ら』が……っ」
依里亜が思わずブンジを2度見したあと、凝視し始めた。
ブンジが表示できる液晶パネルは『ひらがな』『カタカナ』のみで『20文字』という制限がある。5,7,5の17音で喋る時には余計な『 』などは省いて表示する。
依里亜たちが「『た』と『ら』」や「『た』か『ら』」などと分けて考えていた文字が「『たから』」と並べることでひとつの言葉になった。
「ナイス!……ブンジ!『たから』ら『宝』よ! 」
「え、何が? 」
何も分かってない朔太と全員に説明をする。
「ここは『宝島』だから『たから』がキーワードなんだわ」
「で、それでなにがわかるの? 」
「あ、いや、それはこれから……」
「ふーん、小学校の時のなぞなぞで、『たぬきの宝箱』とかあったよね。『た』を抜くから『空箱』みたいなね。キーワードで『たぬき』あるし」
「あ!朔太もナイス! 」
「え?たぬき? 」
「違う、空箱よ」
助手は助けになることはあるが、賢くはない。
アイテムボックスから紙を出した。砂浜の最後の宝箱から出てきたものだ。空箱だったものだ。
『| | | | | (最後に使ってください)』
依里亜「これ、なんに見える?」
朔太「棒線」
レビ『縦線』
ブンジ(ピー! )『バーコード』
以蔵『バタン!』
A子「ドミノ」
B子「ハゲ頭」
E男「鉛筆」
F男「ストライプ」
依里亜「ストライプまで出てきて、なぜ答えがでない! 」
朔太「縞模様! 」
依里亜「朔太くん正解! 」
朔太「で、それがなに? 」
依里亜「『縞=しま』と読ませるのよ。つまり今回のヒントからは『宝島=たからしま』を導くのよ」
朔太「まだよくわからん」
依里亜「そうね。『たからしま』はあくまで、あの4枚の暗号を解くためのキーワード。並べてみるわね」
というと、おそらく指紋は関係ないとは思いながらも依里亜は一応ビニール手袋をはめ、4枚のダイイングメッセージの紙を取り出し、空箱から出てきた紙と一緒に並べた。縞模様の紙には数字はないが、『最後に使え』との指示があるので一番下に置く。
ははた1
おんす2
ににけ3
だんて4
| | | | |
「この中で、『た』はどこにある? 1番上の右よね。で、『しま』はどこにある? 一番下。『たからしま』はつまり『た』から『しま』まで読めってことよ。つまりなんてこともない縦読みよ。」
朔太が声を出して読み上げる。
「そんなさー縦読みとかの訳ないじゃん。た、す、け……『助けて犯人は鬼だ』ってなった!!ほんまや! 依里亜すご! ……でも、犯人は『鬼』かよ」
B子「あ……でも、この島には雨が降ると鬼が出るって噂があるって……」
依里亜「え、じゃあ、ほんとに鬼が出てD男を殺したってことなの? 推理小説の謎解きはオカルトに走ったらダメなはずだけど……」
朔太「そういや、僕さ、この別荘に入る前に建物の裏手でおばあさんを見てるんだよね。だから、お手伝いさんはいるの? って聞いたんだけど」
全員がえっと驚く。依里亜も初耳だったので、なぜ言わなかったんだ、と思った。
朔太「雨が降る直前だったし、もしかして、あれ鬼だったのかな? 」
大学生たちも顔を見合わせて困惑した表情を浮かべている。
朔太「つまり、この別荘というか島には今ここにいる僕たちの他にもう1人、人を殺す鬼が……あああ!」
B子が言った。
「たぶん、それC子ね」
今度は依里亜と朔太がこれ以上ないくらい困惑した。




