道案内と999
宝島の長い洞窟に入るとそこには桃太郎がいた。
座って焚き火に当たっている。その姿は前髪を分け頭頂部は剃り、後ろに髷を結っている。おでこにはハチマキ。ハチマキには桃のマークが入っている。
陣羽織を羽織り、腕には篭手をつけている。後ろには『日本一』と書いた旗が立ててある。
誰がどう見ても桃太郎だ。しかし、こいつは変なことを言い出した。
「皆様、鬼ヶ島へようこそ。さて、私は誰でしょう。当たったら道案内をしましょう。まずきびだんごどうぞ」
といって、家電たちにもきびだんごを渡す。家電たちには手がないので、ブンジと以蔵はドアを開けて中に。マイカはドアを開けてちょっと迷ってダッシュボードに。レビはさらに迷って目の前の地面に置いた。
というか、ここ鬼ヶ島だったのか。
「いやいや、あなた桃太郎でしょ。きびだんご配ってるし」
「あ、難しいかな? そうだねーなかなか難しいよねえ。わからないよねえ」
うわあやべえ、また面倒臭いやつ出てきたと思った。
「え? 桃太郎じゃないんだ? 」
朔太が桃太郎の言うことを真剣に聞いてしまっている。騙されるタイプだったのか朔太。
「さ、ヒントはもう少し出してるけどまだ難しいかな? じゃあこれをどうぞ」
と何故かそこにおいてあるテーブルに「キンメダイの煮付け」と「雷おこし」を置いた。
依里亜はそこで桃太郎が聞こえないふりをしてまでもやりたいことがわかってしまったが黙っていた。
こいつ、話聞かないで面倒臭いやつじゃなくて、頭が固くて面倒臭いやつじゃねえかとわかった。
朔太は何も考えてないのか、躊躇なくキンメダイを食べ始め「お、なかなかうまいなこれ」とか言っている。
朔太が「桃太郎じゃなければ誰かなあ」とか本気で言ってるのはさすがに引く。
「さあ、ヒントは全部出しました。私は誰でしょう。当たったら道案内をしましょう。」
台本読んでるかのような棒読みだった。
『桃太郎!』とレビ。
『桃太郎ですね』とマイカ。
(ピー! )
『ももたろう どこからみても ももたろう』とブンジ。
『バタン!』と以蔵。
「みんな難しいのかなあー、しょうがないなあ、今出したヒントを説明するよ? 」
「あー1番この説明をしたかったんだね」と依里亜はわかったので黙っていた。口を挟んでも長くなるだけな気がしたので。
「えっ、なんかヒント出てたの? 」
分かりすぎるのもまったく分からないのも辛いなあと思った。
「じゃあ、まず、私が座っていたところには何がありました? 」
「んーと、岩! テーブル!」
「あ、こりゃ時間かかるわ」と思ったので依里亜は、以蔵からコーラを取り出し、そこら辺の岩に座って飲み始めた。ほんとに長引きそうなら答えを全部言っちまおうとも思ったが、それはそれで桃太郎がへそを曲げそうで面倒臭いなあ、とさらに二口目を飲んだ。
「いやいや、もっと目立つのがあるでしょ? 」
「日本一の旗! 」
コーラをぶっ掛けてやろうとおもったが、さすがにやめて、歩いていって焚き火を指さした。桃太郎がやや嫌な顔をしたが、怒りはしなかった。
「焚き火! 」
「じゃあ、次に私からもらったのは? 」
「きびだんご! 」
お、いいぞ。
「では、テーブルの上にあったものはなんでしょう」
「キンメダイ! 雷おこし! 」
まあ、そうだろうな。
「このキンメダイの料理法は? 」
「しらん」
ギャー! あーもうダメだ。待てない。依里亜は口を挟んだ。
「煮付けじゃない? そして、おこしと、焚き火と、だんごよ。それを上手く並べたらヒントじゃない? 私はよくわからないけど。うん」
「んー、どういうこと? 」
「順番も変えよう。うん。おこし、煮付け、焚き火、だんご、の順でゆっくり言ってみるといいかも。全然私はわかんないけど」
「うんうん、そうだね。いいところに気づいた」
桃太郎も嬉しそうだ。あ、ここまで来たら当ててもいいんだとわかった。
「おこし、につけ、たきび、だんご……おこしにつけたきびだんご……お腰につけたきびだんご! やっぱり桃太郎じゃねえか、おまえ」
今度は朔太が不機嫌になった。めんどくせえ。
「そうです。私が桃太郎です」
とか、どっかで聞いたい言い回しだなと思った。踊るかと思ったが踊らなかった。何故かわからないが祈りたい気持ちに一瞬なったのは気のせいだろう。
「ということで、道案内をしますね……家来ども! 今ここへ! 」
今までなんの気配もなかったのに、気づいたら桃太郎を囲むように3匹の家来が現れ……。
「依里亜、知ってるかい? 桃太郎の家来の『猿、キジ、犬』は、十二支の鬼門の方角である北東から見て反対側にある『申、酉、戌』から取ってあって、鬼に対抗するために…あれ? なんか家来めちゃくちゃでかくね? 」
桃太郎の元には猿の代わりにはインドの猿神『ハヌマーン』、キジの代わりには猛禽類の上半身とライオンの下半身を持つ『グリフォン』、犬の代わりには冥界の番犬、3つの頭を持つ『ケルベロス』が現れた。
「やべえ」
洞窟が戦闘フィールドなのであろう。HPゲージが見えたが、全員Lvが999だった。こりゃ戦ったら瞬殺されるが、仲間であれば鼻くそほじりながらゴロゴロしてても余裕だなと思った。ほじらないけど。
『宝島の鍵』を持って洞窟にたどり着くだけレアである。これは運営からのボーナスだった。洞窟内ではそれなりに強いモンスターが現れたが、桃太郎たちはかすり傷すら負わず殲滅していく。パーティを組んでいる訳でもないのにがっつりと経験値が入っていく。レベルがガンガン上がる。
そういや、桃太郎たちもパーティだなと気づいた。
それにしても強い。ほとんど動いているのが見えないのにモンスターは出てきた瞬間に死んでいる状態。死体だけが転がり消えていくところしか見えない。
おそらく、『ハヌマーン』は長い尻尾を振り雷を当てているはずだし、『グリフォン』は空中からの特攻。『ケルベロス』は誰であろうと構わず貪り食い、そこからトリカブトが生まれたとも言われる猛毒の唾液を撒き散らしているのであろう。見えないけど。
あ、桃太郎も攻撃してるはず。たぶん。
鬼ヶ島という割に鬼は1匹も出てこないな、と気づいた時には洞窟の出口についていた。
あと2往復くらいしてさらにレベル上げたいと思ったが、おそらくモンスターの数は決まっているのだろう。出口近くで家来たちはいなくなっていた。レベルはホクホクしてしまうくらい上がった。
桃太郎はお土産に『桃』まで持たせてくれた。ごめん、桃太郎結構いいやつだった。手まで振っている。
洞窟を抜けると草原が広がっており、坂を登った遥か先には別荘のような建物が1軒だけ建っているのが見える。
「わー素敵な別荘ねー、でもこんな島に1軒だけの家とか、いわゆるクローズドサークルよね。殺人事件でも起こったりして。ははは」
依里亜はいつも余計なことしか言わない。そして大抵余計なことはその通りになる。やめておけ。




