表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第1章 無生物テイマー、恋人を探す
6/83

移動とミートソース

『……ひっ!』


 レビの声に依里亜(いりあ)が振り返ると、2匹のコボルトが投げたナイフのうち1本が腕を掠めた。後ろで何かが割れる音がする。もう一本のナイフがレビに当たったと気づく。


 頭の中で何かが切れた音がした。目の前が赤くなるほどの怒りが沸き起こる。


「アレ!」


 フェンシングの開始の合図が自然と口をつく。何かを考えるわけではなく体が動く。一瞬のうちに3m程の距離を詰める。コボルトは何故か硬直している。


「トゥシュ!(突き)」


 右のコボルトの首をレイピアで貫くと、左のコボルトの腹を左足で蹴った。首に刺さったレイピアを手前に抜かずに、そのまま力を入れ横に()ぎ払う。コボルトの首が引きちぎれる。即死。

 地面を蹴る。左にいたコボルトが仰向けに倒れきるのを待たずその体に飛び乗る。着地と同時に全体重を掛けてレイピアを心臓に押し込んだ。きっちりと根元まで。


 デジタル的なモザイク状になっていくコボルトを最後まで見ることはなく、レビの元に駆け寄り、引ったくるようにして、公園から飛び出す。


「レビィ!! 」


 レビの画面が割れている。


「ああ……!!どうしよう!!レビ!私のせいだわ!」


 涙が自然と溢れる。


『大丈夫……別に死んだわけでもないし、痛みはないから……』


 レビの声は心なしか弱々しい。


「あ、そうだ!効くかどうかはわかんないけど、もしかして」


 依里亜はポーションを取り出すと、レビに掛けた。

 電化製品に液体を掛けるとダメなのでは、という疑問は一切浮かばなかった。


 すると、レビの割れていた画面は、まるで動画を巻き戻すかのように直っていった。


「あぁぁぁ……よかったあ……はぁ」


『機械にもポーションは効くんですね。ありがとうございます依里亜さん!』


「あんまり考えてなかったけれど、テイム家電もHPがなくなったらダメなのね。普通のテイムされた動物も死んだら終わりなんだから当たり前といえば当たり前の話だった。もう少しよく考えて戦わないとダメだったわね。ほんとにゴメン、レビ」


『いえいえ、全然気にしてないですよ。助けてもらえましたし。あっ、依里亜さん腕に怪我してますね。血はでてないけれど』


 ゲーム内だからか血は出ていないが、腕の肉が抉れモザイク状の分子がうごめいている。


「あ、痛くないしもうほっとくわ。自動で治るでしょこれ。もし、傷跡が残ったとしても、今日の戦いの反省のためには必要なものだと思うわ。…でも、なるほど、モンスターのレベルがいくら低くても、ナイフはナイフってことよね……」


『依里亜さんものすごく動き速かったですね。』


「フェンシングは小学生の時だけだったけど、ずっと運動部にはいたしね。あ、なんかコボルトが硬直してるように見えたの」


『あ、それレベルアップして得たスキル使いました! 【麻痺】です』


「レビがなんか『ひっ』って叫んでたのは、あれ悲鳴じゃなくて『()()()』って言ってたのね 」


『そうです。でも依里亜さん強すぎて麻痺がなくても関係なさそうでしたね』


「で、2人ともレベルアップしたんだよね?私も何かのスキルを覚えたのかしら? 」


『んーそうですね。まずは家に帰って落ち着いてからにしましょう』



 ――――――



「みんな! 第2回作戦会議よ!」


『はーい! 』


『バタン! 』


『バタン! 』


 うるさい。


「では早速、報告です!私とレビがレベルアップしました! 」


『バタンバタン! バタンバタン! 』


 以蔵とブンジのドアの開け閉めはうるさかったが、拍手的なニュアンスが伝わってきたので、黙って受け入れた。


「私もまだ見てないのよねぇ、でも私はあとかな。まずレビのから教えて」


 ――――――


【レビ】

 Lv:2

 職業:ポータブルテレビ

 スキル:【移動】【麻痺Lv1】【指令Lv1】


 ――――――


「え、なんかすごい!一気にスキルが3つも増えてる! というかポータブルテレビって職業なんだ」


『ふふふふふ』


「【麻痺】はさっき使ったわよね。順番にスキルの説明を見てみましょうか」


 依里亜はレビのタッチパネルを押す。以蔵とブンジもワクワクしながら期待に満ちた視線を送っている、ように思えた。実際には目がないのでわからない。



【移動】【移動することができる】



「おお!これで持ち歩かなくて済むのね! この説明文の必要性はあまりないわね。とりあえずレビ、移動してみて! 」


 すると、レビはススーっと、前後左右に動き出した。なかなかに滑らかな動き。空を飛べないドローンみたいなイメージかもしれない。


「私に着いてきてみて!」


 嬉しそうに依里亜が廊下を歩く。後ろからレビが着いてくる。スピード的にも遅れるということはなさそうだ。まるでペットが後ろからついてくるかのようで、依里亜は嬉しくて堪らなかった。足音がしないのもとてもいい。


 部屋に戻った依里亜はニコニコしながら楽しそうに次のスキルの確認をした。



【麻痺Lv1】【1匹の敵を短時間麻痺させる】



『スキルレベルがあるので、あげることで複数の敵を対象にできたり、麻痺の時間を長くすることが出来ると思います。たぶん私が電波を出せるんでそれを使ったスキルですよね』


「序盤ではものすごく便利そうよねえ。で、気になるのはこれよね」


 と最後のスキルの文字を押す。



【指令Lv1】【パーティ内の他のキャラに指令をすることができる。指令の内容はスキルレベルに依存するがMPは消費しない】



「よくわからないわね? テイムした対象がパーティ扱いになるのは知っているけど。だから、レビは以蔵とブンジ、場合によっては私に対しても何か行動させられるのかしら? 」


『では、試して見ましょう。以蔵さん【アイスシュート】』


 何も起こらない。


『以蔵さん【麻痺】』


 何も起こらない。


『んー、【アイスシュート】も【麻痺】も戦闘中のコマンドだからだめなんですかね? では以蔵さん【移動】』


 ガコッ、ドカッ、バタッ。


 冷蔵庫の以蔵が突然に移動し始めた。依里亜は驚いて思わず後ずさりをした。


 例えば引越し。冷蔵庫を動かす時はこうやる。あるいは、イースター島のモアイ像を運んだ方法とも言われている動き。ある程度の高さと重さがあるものを移動させるには都合がいい方法。()()()()()()()()()()()()()()()やりかただ。


 それを以蔵は1人でやってるので、知らない人が見たら大きな地震で冷蔵庫が揺れてる様にしか見えないだろう。


「あ、あら以蔵さん……うるさ、いや、すごいわね……自分で歩けるなんて……ははは」


『バタン!』


 喜ぶ以蔵。歩いたのでコンセントは既に抜けているが、テイムしているせいか関係ないらしい。冷蔵庫の揺れに合わせて抜けたコンセントがブラブラしている。


『ブンジさん【移動】』


 空気を読んだのか、読んでないのかわからないが、レビがブンジにもスキルを掛ける。


 ススー。静かなる平行移動。


「はっ!以蔵さん!この動きできないの? これ! 」


『バタンバタン! 』


 以蔵はドアを2回開け閉めすることで『NO』の意思表示をした。


 依里亜は、以蔵の移動音が余りにもうるさいので、下の階の住人からのクレームが来ないかどうかばかりが気になっていた。


「あ!試して見たいことがあるわ!以蔵さんとブンジさんこっち来て!以蔵さん冷凍庫あけて……うん。ブンジさんもドアあけて」


 依里亜は冷蔵庫から冷凍ミートソースパスタを出すとブンジに入れた。


「うん。よくわかったわ!距離は近くなったけど、手間は1mmも変わらなかった。試さなくてもわかってたけど。うん。なぜやったのだろうって今私が1番実感しているから何も言わないで」


『バタン!』


『バタン! 』


 2人は何が起こっても楽しそうである。

 そして、うるさい。


 パスタを食べながらレビに声を掛ける。


「モグモグ……、あ、忘れてたわ、私のステも見せて」


 ーーーーーー



【如月依里亜】

 Lv:3

 職業:テイマー

 スキル:【テイム】【キュアLv1】



 ーーーーーー


「お、なんか魔法っぽいの覚えてるー! うれしいー! ヒール魔法かしら? 」



【キュアLv1】【パーティ1人の状態異常回復】



「あ、あー、うん……。いいわね……なかなか地味で」


『今のところ異常状態って麻痺くらいしか知りませんね』


『バタン!』


『バタン!』


 依里亜にはもはや突っ込む元気もなかった。


「ずるいわーレビは3つも覚えたのにー」


『いや、あの……ほら、テイマーだと主に戦うのテイムされた方ですし』


「さっき戦ったの私よ? 」


『まあまあ、レベルがまた上がればたくさんスキル覚えますよ。えーと……あ、それより、これでみんなで戦えますよ!』


「あ、そうだった!よし作戦会議よ!」


 気持ちの切り替えは早い依里亜であった。



 色々と試した結果、レビの【指令】は今のところ残り2人の【移動】にしか使えなかった。レベルアップや誰かがスキルを覚える度に試してみるしかなさそうである。


 パーティとして歩く時は、依里亜、レビ、ブンジ、以蔵の順番で歩くことにした。言い換えれば、人、テレビ、レンジ、冷蔵庫の順番である。桃太郎っぽいし、ブレーメンの音楽隊っぽいし、ドラクエっぽいけど、多分違う感じ。


 会話をする都合上、依里亜とレビは近くにいたいが、レビを前にすると歩きながら蹴ってしまいそうなので後ろを移動させる。結局そのうち依里亜が持って歩くことになるだろうとは思っていた。


 以蔵はデカすぎるので、依里亜の前を歩くと邪魔だし、もちろんブンジの前に来ても邪魔だ。依里亜からブンジの姿が全く見えなくなる。


 ただし戦闘では以蔵は1番前でタンク役となる。依里亜とレビは中距離で横並び、ブンジは遠距離。とはいってもブンジは今のところ攻撃スキルがないので、後ろから【必中】を掛けまくる作戦となる。


 あと早めに確認しておかないといけないのは、各自がポーションと自分で使えるかどうかだ。テイムした家電にもHPがあるということはくれぐれも忘れてはいけない。


 リアルタイムバトルでよかった。もし、依里亜しかポーションが使えず、しかもターン制であれば、みんなにポーションを使うだけで3ターンが無駄になる。


 レビの分はなんとも方法がないので、依里亜が担当することにし、以蔵とブンジの分はドアを開けてポーションとマナポーションもついでに数本ずつ放り込んでおいた。あとはHPが減った時になんとかして欲しい。



 作戦会議では少し先のことまで話をした。ある程度の攻撃スキルを全員が覚えるまでは公園でレベル上げをする。そのあとは彼氏の朔太(さくた)を探しになんとかして横浜に行くことをみんなに伝える。



「では公園にむけてしゅっぱーつ! 」


 子供やペットと散歩に行くかのような勢いである。


 ガコッ、ドカッ、バタッ


 玄関を開けてあげれば以蔵は勝手に出てくるが、さすがにエレベーターでは「誰も乗ってきませんように」と祈る依里亜であった。


PVが150超えました~ありがとうございます~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ