サバイバルとスイカ
サバイバルも試そうということで、砂浜の奥に広がる森に足を踏み入れてみた。
「私サバイバルやってみたかったのよねー。つか、イベントっていつまでだっけ? この島寄らなくていいやつだからなんか途中で終わりそう」
「イベントは2週間だね。なんか色々やってるけどまだ2日目だよ」
「あれ、そうだっけ。余りにたくさんありすぎてわかんなくなってた。明日香ちゃんの過去をたくさん見てたからどうしても何日も経ってる気がしちゃう。……明日香ちゃん、家族とかマントのお兄ちゃんに会えたかしらねえ」
思わず話題にしてしまったが、今でも明日香のことを思うと鼻の奥がツンとして涙がぼやっと溢れそうになるのでできるだけ避けていた。
「会えたに決まってんだろ。みんなで仲良くやってるに決まってる。あれで会えなかったら、おれはカード全部使ってでも神様でもぶん殴る」
朔太も声が震えている。涙を堪えてるいるのか顔を逸らしたのがわかったので、依里亜は話題を変える。
「……サバイバルと言えば焚き火だけど、朔太は『火起こし』とかできるの? 」
「やったことないけど、なんとなく動画で見たことあるレベルではできそうじゃん? たいていの男ってサバイバル出来るんじゃないの? 刃物があればだいたいできるじゃん。釣竿作って、魚捌いて、木の枝切って焚き火もできるし、小屋だって…… つか、依里亜【ファイア】あるじゃん」
「あ、そか、火の心配はしなくていいわね」
「それよりサバイバルでは『水』と『食べ物』が大事だよね」
「そうそう、それで思い出した。エチオピアにある世界一熱い砂漠にさ、『悪魔の実』って呼ばれてるのがあってさ。『コロシントウリ』だったかな? そんな名前で、ちょっと小さいスイカにそっくりなんだけど、食べると激しい下痢と脱水症状起こすのがあって」
「え」
「それがさ、暑っつい砂漠を歩いて来た挙句、目の前に現れたらどんな気持ちになるかなって。喉はカラカラで、美味しそうなスイカみたいのが目の前にあって、でもそれ食べると死んじゃうの。身体中の水分ぶちまけて死ぬの。ねえ、朔太ならどんな気持ちになると思う? どうする? 食べる?」
「いやー、その選択凄いな。僕だと、いや、あー、どーするかなあ」
依里亜はドSじゃないのかな疑惑が最近スゴく湧いてきている朔太であった。
「あ、見たことのない実とかは食べるまでに時間をかけて調べるといいらしいよ」
話題を変える朔太。
「どうやって? 」
「毒がないか色々試して、待って確認して待って確認してって手順を繰り返して、最終的に食べて飲み込むまでに8時間とかは掛けるみたいね。まずは、一部をとる。……。うん、今そこに美味しそうだけど見たことのない実がちょうどなってるね」
そんなに高くない木の枝にレモンのような形でミカンのような色合いの柑橘系にも見える実がたわわになっていた。
「これをね、手首とか肘の内側で擦ってみる。ちょっと皮膚が薄くて敏感な部分だよね。赤ちゃんのミルクの温度も手首の内側で確認したりするよね」
というと、もいだ実を双剣の1本を使って半分に切る。
「これで、押し付けて、ちょっと待ってみて赤くなったり腫れたりしたら害があるってことなんだよね」
1分も経たないうちに手首の内側の皮膚が真っ赤に爛れて来た。猛毒じゃないかな、これ。
「ギャアァァァァーーー!熱い!痛い!」
依里亜は黙って【キュア】を掛けた。すぐに良くなった。良くなってからも朔太は手首を気にしてフーフー息を掛けたりしている。
「ふむふむ。さすがサバイバル通を豪語するだけはあるわね。ふむふむ」
「いまのはたまたまだよ。外れることもある。うん。ほら、あそこになんか美味しそうな実がまた」
いかにも『偽バナナです』みたいな実がなっている。パッと見は鮮やかな黄色で美味しそうにも見えるが、禍々しいオーラが見えたので依里亜は絶対口にしたくないと思った。
朔太は再びその実をもぐと半分に切り、今度は肘の内側につけてみる。何も起きない。10分経ったが何も起きない。
「次はね、舌に乗せてみて、腫れたり、ヒリヒリする感じがないかチェッ『ぶへっ、ぺっ、ぺっ、おべっ、おえっ』
「ほほう、違和感がありましたか。それはそれは」
依里亜はすでにどうでも良くなっていた。男の自慢は女性にとってはそんなもんである。
「いや、待って待って。これで違和感がなければ……」
明日香の話の時とは違う意味で声が震える朔太。
「もういいって」
女性は宝島にいても残酷である。
しょぼくれて歩みが遅くなった朔太は気にせずどんどん道なき道を進んだ。それこそマイカの【悪路走行】もあるが、依里亜は『サバイバルをしたかった』のだから仕方がない。
新しいレイピアの切れ味のよさにも満足している依里亜は先頭でどんどん枝葉を払いながら進む。モンスターは出なかったが、とにかく歩きにくい。
しかも依里亜が払う枝葉はあくまで依里亜の幅でしかないので、ブンジやレビはいいとして、以蔵やマイカの幅には足りず、結果として力技でかき分けていくことになる。
唐突に洞窟が現れた。そして入口に鍵付きの鉄柵があって、いかにも「入ってはいけません」的にイメージを醸し出していた。でも、どう考えてもイベント内なのだから中にはなんかあるのは当然だった。
「洞窟入口」と書いてある看板を見つけた。当たり前すぎてムカついたので破壊しようとしたが、非破壊オブジェクトだったので、裏返してやった。
鉄柵も非破壊オブジェクトだった。朔太が閃く。
「あ、なんだ鍵ならあるじゃん。さっきの鍵、この島全体の共通の鍵だよ」
「そうなの? 朔太、素敵! 」
ほんと、女性は。
朔太が無限コピーをしていた『宝島の鍵』は、実はこの島の残り半分の秘密を解くために必要なものであった。最低でこの洞窟入口で一つ。できればもう1つ持っておきたいイベントアイテム。
200もの宝箱が転がり、まず3つしか渡されない鍵を使い切らない人はまずいない。先に島全体を巡ってから宝箱にチャレンジするような注意深さがあるような人くらいであろうか。
そして、おそらく砂浜の宝箱を全て開けられるパーティはごく僅かであろう。宝箱に自ら開けるように仕向けるテイムはともかくとして、物理的な力技で開けられるものではない。鍵はどうしても消化せざるを得ない。
だとすれば、この洞窟にたどり着けるのは決して難しくはないがここまで鍵を持ってこられるパーティとなるとほぼいないのだ。
朔太ですら今になって気づいたが、ヒントは鍵の名前だけ。『宝箱の鍵』ではなく『宝島の鍵』という名前。
こういうのが大好きな運営だから仕方がないのだが、1000人いて1人気づけばいいくらいのことを入れ込んでくる。仕方ない、この島のイベント自体が自由参加なのだ。
そして、実は鍵がなくとも、島の残り半分のイベントに参加することは可能だ。抜け道も常に用意するのもここの運営のスタンスだ。
普通に航行してくれば宝箱ゾーンの港がまず見えてくる。しかし、そこに停泊するのを我慢して、ぐるっと島の反対側にいけばもう1つの桟橋があり、『宝島の鍵』がなくとそこに船を泊めればイベントに参加できるという仕組みになっている。
簡単に言えば洞窟を通らなくても島の反対側につけるということだ。
しかし、これもまたできるかどうか。島が見え停泊場が見えたらまず泊めるだろう。あるいは宝箱ゲームが終わったら出航させてしまうのではないか。
でも、そういう細かくてくだらないことに拘りたいのが運営チームの男たちである。そして女性陣は「もっとわかりやすくすればいいのに」と常に揉めている。もちろんそんなことはプレイヤーたちには秘密だ。




