戦艦と宝
空中戦艦の主砲から発射された弾は、海賊船の大砲とは違い爆発する。鉄砲の弾をバカでかくしたようなものを発射するのだから当たり前だ。また、大砲よりも遥かに命中率が高い。一斉に発射された砲弾は一斉に着弾し爆発する。
非破壊オブジェクトの船は壊れず、また【バリア】を張ってるとはいえ、これだけの猛攻と爆発では甲板にいたら吹っ飛ばされる。
船と船の戦いは、海流、風の向きや強さ、波などの船の性能とは違う自然の力に左右されることも多くある。
かつての戦いではお互いに有利なポジションを取るための追いかけっこをし、なかなか戦い自体が始まらないこともあったようだ。
大爆発による硝煙が周囲一体に立ち込める。お互いの船の姿すら見えない。
見えない、がそれでも空中戦艦は攻撃をやめない。全弾を撃ち尽くす勢いで砲撃が続く。
どのくらいの時間攻撃していただろうか。空中戦艦は砲撃をやめ漂う硝煙が風で流されるのを待つ。
目標地点には何もなかった。沈めたと確信したのか「ヒャッハー!! 」と言う声があがる。
その頃依里亜たちは、空中戦艦の斜め後ろにいた。
海賊船が空中戦艦に変化する時に、レビの【幻影】と【投影】を使い、マイカの【カメレオン】で本物は姿を消し、えっちらおっちら移動をしていた。
マイカの【カメレオン】スキル。【風景に溶け込み周りから見えなくなる。発動時に触れているものにも同じ効果を与えることができる】
つまり、触れているものを任意に見えなくすることができる。消すのも消さないのもさじ加減次第だ。そうでなければ地面も全て透明になってしまう。そして、マイカは当然船にも触れている。
「さ、とどめをさすか。以蔵やってみよう! 見たかったアレを」
というと、以蔵が空中戦艦の上にワープした。【巨大化】と【押し潰し】。巨大な冷蔵庫が主砲を上から押し潰す。敵が空中にいようがどこにいようがこのスキルには関係ない。ただ真上から落ちて押し潰す。
メキメキ、ベキベキと物凄い音を立てて、主砲は折り曲がり、以蔵は甲板にその体の半分までをめり込ませた。
「あら、引っかかって出れなくない? 」
と依里亜が心配したが、以蔵のスキルは『超スピードによる瞬間移動』でなく『空間を転送して移動する』ワープだ。再び姿を消すと後ろにある主砲の上にワープし、押し潰した。以蔵が甲板にめり込む。
次に船全体の指揮とコントロールをする船橋の上に現れ押し潰した。
コントロールを失った空中戦艦は落下し着水した。たった3発の発動で戦艦を沈める以蔵のスキルもまた恐ろしい。
もはや『空中』にはおらずただの『戦艦』となったそれは、あちこちで爆発が起こり、HPゲージが目で見てわかる勢いで減る。爆発に巻き込まれたヒャッハーたちが宙に舞い、水に落ちる。あまりの爆発にサメたちは離れてしまっているのか、姿は見えない。
「で、依里亜。以蔵はどうやって戻ってくるの? 確か、あの【押し潰し】って、【狙った敵の真上にワープしたあと、落下し押し潰す】スキルよね。あのままだと一緒に沈まない? 」
「そのための『捕虜』でしょ」
依里亜は、捕虜ヒャッハーを甲板の真ん中に掴んで投げ転がした。
「ヒャッハー……」
「あら、こいつらマジでこれしか言えないんだ。で、『汚物』はどうするんだっけ? 」
「……ヒャッ……ハー…」
「この世界での『汚物』は『消滅』するのよ」
というと、【巨大化】を解除した以蔵が、捕虜の上に降ってきた。
「あれ、依里亜ってこんなドSだったんだ」と朔太は思ったけど口にはしなかった。
捕虜たちのHPゲージが消えるのとほぼ同時に戦艦も沈んだ。
心配していた以蔵のスキルによる船の揺れは、スキルが捕虜を潰した時点で終わったので、何も影響がなく、ただの杞憂だった。
中ボスを倒してまた暇になった。依里亜はまたゴロゴロしている。サングラスをかけてデッキチェアに座って寛いでる。バカンスっぽい。
船にはレストランもあるが、料理人は乗っていない。料理でもするかと思ったがそれも面倒くさい。ゴロゴロゴロゴロ。
冷蔵庫の魚は全部『魚雷』として使ってしまったが、魚料理は苦手なのでどうでもよかった。ゴロゴロゴロゴロ。
『依里亜さーん、なんか島が見えますよー』
体の小ささを活かしてレビは船のいちばん高いところから周囲の見張りをしていた。レビ自身は地図を表示する能力を元々持っているが、イベント用のマップまではデータとして持っていない。もちろんマイカのカーナビでも無理だ。
「無人島かな? 宝島かな? よーし、寄ってみよー」
宝島だった。そう看板に書いてあるので間違えない。そして、今のところ人はいない。
ちゃんと船着場があったので、船を泊め桟橋を渡る。渡りきった所に看板があった『宝島へようこそ』。
島自体はわりと広く、割と先まで砂浜が広がりその向こうに森が見える。そのさらに奥には高い山も見え、道でもなければなかなか超えるのは難しそうだ。山の向こうは平地があるのか、それとも断崖絶壁かはここからはわからない。ただし、見える範囲は平地が多いのも確かだ。
そして、その平地いっぱいに『宝箱』が乱雑に落ちている。それとも置いてある? 海賊がよく持っている、カマボコ型の蓋のやつだ。積み重ねられない気もするが、そのおかげで最後に積まれ最初に下ろせるとか、埃や水が溜まりにくく蓋が痛まないとかの説があるようで。その宝島の蓋は全て閉まっている。お宝ざっくざくだ。
少し進むとセンサーでもあったのか、全員のステータス画面が勝手にポップアップした。依里亜以外の。
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【宝探しゲーム(みんなで開けようミミック)】
〇初めにパーティごとに『宝物仮ケース』1つと『宝島の鍵』が3つ配られます。
〇『宝島の鍵』1つで『宝箱』を1つ開けられます。
〇また『宝物』1つで『宝箱』を1つ開けられます。
〇『宝物』は『宝箱』から0~3個ランダムに出てきます。
〇『宝物仮ケース』には最大で3個の『宝物』を入れておくことができます。入りきらない『宝物』は消滅します。
〇『宝箱』からは50%の確率で『ミミック』が出てきます。
〇『ミミック』は宝箱が開いた時『即死魔法(単体)』を使います。
〇出てきた『宝者』はゴール時に『宝物仮ケース』に入れておいたもののみ手に入れます。
〇このイベントの終わりは次の4つです。
1.開ける箱がなくなる。2.箱を開けるための『宝島の鍵』と『宝物』がなくなる。3.パーティが全滅する。4.ステータス画面の終了ボタンを押す。
〇『宝物』は様々なものを用意しております。
〇このゲームで全滅するとパーティは桟橋に戻り、イベントのチャレンジ回数は減りますが、そこまでの『宝物』は手に入ります。
〇このゲームへの参加は任意です。このまま何もせずにイベントを続けても不都合はありません。
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「イベントボーナスみたいな感じだね。やればアイテムが増やせるよ、みたいな。まあ、海賊も出てきたから宝もあるんでしょう」
「つまりー、宝島の鍵と宝物で箱をあけていくけど、宝物が出るかはランダムだから、最悪の場合、宝島の鍵で開けた箱から3回連続で宝が出ないともう箱は開けられなくなるからその時点で終わり。アイテムは何もなしってことね」
ステータス画面の出ない依里亜は読み聞かせをしてもらっていた。しゃがんで砂浜の砂を弄っている。
「たとえば、『エクスカリバー』がでて、それが欲しかったとすれば、それは箱を開ける『鍵』としては使わずに『仮ケース』に入れたままにしておいて終わらせればいいということか。その時にでた宝物を『取っておくか』『鍵として使うか』を考えて選べってことよな。もっといい宝物が出るかもしれないし、出ないかもしれない、と」
「それから、私たちだと連続6回ミミックならその時点で終わり」
「家電も死ぬんだっけ? 」
「たぶん死ぬわね。バンパイアの時死んだし」
「複雑に思えるけど文が沢山あるほど抜け道はたくさんあるんよな」
なにか考えがありそうな朔太。
「どゆことー? 」
「たとえば、『初めにパーティごとに『宝物仮ケース』1つと『宝島の鍵』が3つ配られます』ってことは、あとから増やすことについては何も言いませんってことだ」
「おおお!無策太じゃない! これからは作戦太と呼ぶことにしよう。そか、朔太がなんか思いついた時は今後も先に聞いておくことにしよう」
「同じく、『宝箱仮ケース』を増やすことを前提にしてルールの文を作ってると思うんよな。『入りきらない『宝物』は消滅します』ってあるけど、でも、『入りきらないものは消える』ってことは『入ったものは消えない』ってことじゃん。『仮ケース』を増やせってことだよ。増やして欲しくないなら『4つ以上の『宝物』は消滅します』とすればいい」
「え、作戦太、なんかちょっと尊敬なんだけどー」
「まあ、そんな感じで『仮ケース』とあと『宝島の鍵』もコピーして大量に用意しますか。それからその呼び名やめて」
といって、朔太が『Copy』のために『C』カードを出そうと何枚かめくっている。
しゃがんでいた依里亜が立ち上がって言う。
「私も尊敬されちゃおうかなー。作戦太さー、『仮ケース』は増やして欲しいけど『宝島の鍵』はいらないよ。あと、みんなに手伝って欲しいことがあるんだけどー」
チラチラと周りを見る依里亜。最近この視線が依里亜の中ではブームだ。
みんなは「はいはい、わかったわかった」という感じをしながらも嬉しそうだった。テイムしているとはいえ、依里亜が家電たちに既に尊敬されているのか、これから尊敬されるのかはわからない。




