銃と木の実
「私は闇の一族の王であるバンパイアです」
聞かれるまでもなく、男は丁寧に名乗った。
「部下からお姉さんのことを最近になって聞きました。ただ、それをやったのは我が一族ではないことをお話に参りました」
突然のことで呆気に取られた明日香たちであったが、父だけは、話を聞いて血が頭に上っているようだった。
「なんだと? 闇の王がなぜこんな村まで来る必要がある! そんな訳はないだろ。マントまで用意して俺らを騙して何が楽しい。何が目的だ! 」
王は明日香との関係について触れずに話をするべきだと思っていた。無事に話が終わったとしても繋がりがあることを父親に知られるのは今後まずいだろうと思っていた。
「正直に申し上げましょう。我が一族は『不殺の掟』があります。まして兵隊でもない一般の方を襲うことは厳しく禁止されていることです。我が一族の誇りをかけ、そうではないことをお伝えに来ました」
「も、もし、その話が本当だとしても、それを伝えてどうしようと言うんだ。いまさら何を聞いてもあの子は生き返ったりはしない! 」
と、父は銃を握った。
「そう勘違いをさせてしまう原因が我が一族にもあったのではないかと思い、ぜひ謝らせて頂きたいと思ったのです。そしてよろしければ、お姉様の冥福をお祈りさせていただければと思いました」
「おまえらなんかに会わせる訳ないだろ! あの子を返せ! 」
というと、父は男に銃を向けた。
咄嗟の判断だった。明日香は父に銃を撃って欲しくなかった。明日香は父に飛びついた。一緒に倒れるとそこにたまたまあった『ダガー』が父の背中に刺さった。そして倒れた時に誤射した銀の弾が母親に当たった。
「おまえは何をやっているんだ! こんなやつを庇うのか! 」
怒りに判断のつかなくなった父が起き上がった明日香に銃を向けた。引き金を引いた瞬間、バンパイア王は瞬間移動で明日香の前に立ち塞がった。銀の弾は心臓に当たった。
明日香は立ち尽くした。両親は既に絶命していた。
父に刺さったダガーは最後に倒れた時に刃が折れた。
「お父さん! お母さん! 」
現実感がなさすぎて理解と感情がついていかない。
男は心臓を中心にどんどん体が消えていく。
「マントのお兄ちゃん! どうして来たの、こんなところに!」
「……明日香に会いたかっただけさ。ごめん、結果的に御両親まで大変なことになってしまった。これは私のせいだ」
バンパイアは誇り高き種族である。今日来たら恐らく殺されるだろうと言うことも分かっていた。もちろんこんな形とは思っていなかったが。誇り高いが故に、生き様、死に方は選びたい、選ぶべきと常々思っていた。両親については申し訳なかったが、明日香を守り、その代わりに死んでいけることは、選べる死に方の中でも最も満足のいくものであった。
部下からの連絡を受けたのはほんとに最近のことであった。姉が亡くなり明日香が悲しみ、つらい生活をしていることも聞いた。
何ができるかわからなかったが、謝らなければならないと強く思った。たとえ、一族の行ったことではなかったにしても、そう思われるのは日々の我々の行いが原因だ。許してもらえるとは思えなかったが、その際はこの命を差し出そうとも思った。
そのことによって、少しでも明日香の家族が前向きになれるなら、少しでも明日香が幸せになれるならそれでいいと思った。
「うまくいかないもんだね……。随分と長く生きてきたのに、こういうのは苦手だな。ははは……」
「どうして私を助けたの! お兄ちゃんは王様なんでしょ!」
「そりゃ、明日香が『木の実』をくれたお礼だよ。私が1000年生きてきて明日香と話すのが1番楽しかったよ……また、あの景色を一緒にに見たかっ……」
バンパイア王の姿は黒い光の粒になって消えた。
子供が1人で生きていくことはとても難しいことであった。
明日香は、両親と姉の棺を引きながら、歌を歌いひたすら歩いた。刃の折れたダガーを腰に差して。後先は考えなかった。近所の人は止めたが、明日香はやめることはなかった。
マントのお兄ちゃんの棺も欲しかったが、お金もなく誰も姿を見ていない彼の分を用意することは叶わなかった。代わりに『木の実』をポケットに入れた。
歩きながら、ただ、自分のせいで両親を殺してしまったという罪悪感が心に渦巻いていた。
マントのお兄ちゃんを殺してしまったのも自分のせいだと自責の念でいっぱいだった。
だから、別にこのまま死んでしまってもいいと思っていた。
嘘はつかなかったのに、『正義の味方』は誰も助けてくれなかった。
「人を殺すのはなぜいけないのか」バンパイア王が決して譲らなかった掟はなんだったのか。
「人以外の、たとえば闇の一族は殺してもいいのか」
様々な思いが浮かんでいたのは最初の数日だけだった。
徐々に思考は低下していき、明日香はどこだかもわからない道中で力尽きた。
今から200年ほど前の話である。




