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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第1章 無生物テイマー、恋人を探す
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レイピアと公園

 テイムした冷蔵庫は【以蔵】という名前になった。もちろん「れ()()()こ」だから。人をたくさん斬りそうな名前でカッコイイと依里亜(いりあ)は気に入った。


 レベル1でのスキルは【アイスシュート】。レビのモニターで全員のステータスは一目瞭然である。技の名前をタップすると詳しい説明が表示された。


【冷蔵庫内で作った氷を敵にぶつける】


 魔法攻撃なのか物理攻撃なのかよくわからない。氷属性が得意なのは冷蔵庫の普段の性能通りだ。戦闘の時はそのガタイの良さを生かして是非タンク役になって欲しい。



 スチームオーブンレンジは【ブンジ】。名前は「レン」にすると、テレビの「レビ」と被り気味だからわかりやすくしたかった。昭和の俳優みたいな名前も、慣れたらきっといいに違いない。そう思いたい。


 レベル1でのスキルは【必中】。【赤外線センサーでパーティ全体の攻撃を必中にする】まだ直接的な攻撃手段はないが、今後は雷属性の技を覚えそうだ。おそらく遠距離攻撃に向いているのではと思った。



 今のところテイムできたものはこれだけだ。


 料理好きの依里亜が1番使うのは包丁である。もちろんテイムできると思ったのだが、今の段階では無理だった。せっかくの物理攻撃がと思ったが、これはあとで考えることにした。


 ガスコンロもだめだった。火属性魔法攻撃には一番向いているはずなので、これはかなり残念だった。もちろんレベルアップと共にテイムできるものは増えるだろうと前向きな期待は捨てないでおく。



 テイムの可否は、きっと愛情的なエネルギーを電気の代わりに働き掛けることができるかどうか、なのだ。


 確かに人間は脳内のシナプスに微弱電流が流れることで思考している。そういう意味では人と家電をつなぐ媒介としては相性がいいのは「電気」なのかもしれない。共通項としての「電気」。人間の体内にあって増幅できるものは、電気と水分くらいである。


 家電にとって思考する場所、つまりLSIなどの半導体チップに依里亜(いりあ)の「魂」を送り込み、定着させ、原動力としての「愛情」を「電気」の代わりに送ることで継続的で自立的な思考と行動をさせる、と考えると、うまく説明はつきそうである。


 だから、LSIを持たない包丁などは魂が定着せず、コンセントを使わないコンロは動き続けるエネルギーが足りないのだ。


 IHクッキングヒーターならどうかなとも思ったが、依里亜が長年使い込んできたのはガスコンロである。


 もちろんゲーム内のシステムだから決まったルールや計算式がある訳で、それを見つけられるかどうか、気づけるかどうかではあるのだが。



 そして、スマホは予想通りトイレに落ちて水没していた。電源が入らなかったので朔太に電話することはできず、また電話番号もわからないままであった。


 修理とかデータ吸出しとか方法はまだまだあるとは思ったが、電話は朔太(さくた)の居場所を見つけるための手段の一つでしかない。そして、朔太はおそらく横浜にいるはずと依里亜は確信していたので、スマホは放置してもいいやと思った。他にやるべき事が山積みなのだ。


 故障しているスマホもテイムすることははできなかった。電気が流れないからかもしれない。


 さらに言うなら洗濯機はテイムできなかった。依里亜は洗濯があまり好きではないからだろう。



 テイムした家電を集めて作戦会議をする。死んではいけない依里亜が死なないためにはどうするか。まずはレベルアップと装備の充実を目指すのは確かだが、その方法について話し合うのが目的である。


 とはいえ、以蔵とブンジは喋れなかった。2人とも嬉しそうにドアをバタバタしてる。


 うるさい。


 が、そうも言ってられないので、「YESは1回、NOは2回」とドアの開け閉めで合図を決めた。


 作戦会議の合間に冷凍ミートソースパスタを食べた。以蔵とブンジに指示をしたため、ドアの開閉はオートではあったが、冷蔵庫からレンジにパスタを移動したのは依里亜だった。テイムってそんなに便利じゃないかもとも思ってしまったが、別に調理のためにテイムした訳ではない。


 さて、一番の問題は移動である。スチームオーブンレンジですら20Kgを超えるのだから、60Kg以上ある冷蔵庫を戦いの度に1人で運ぶことは現実的ではない。できれば自立して移動してくれるといいのだが、レベル1の状態の2人のスキルにそういったものはなかった。動くように話しかけてみるたが2人ともドアを2回開けて閉めた。


「確か、レビがレベルアップすれば移動できるってブラフも言ってたから、この2人も絶対できるはず! 」


 でも今できないのが問題。移動ができなければレベルアップができない。


 依里亜がレベルアップすれば、テイムしたものを移動させられるのか? それとも家の中にモンスターを連れてくる? モンスターの出る森まで行って、モンスターを車に乗せ、家に連れて帰る想像は余りにも馬鹿げていた。


「ということで、まず私がレビと2人でレベルアップするための装備を揃えに行きまーす。以蔵とブンジはお留守番」


『分かりました』


『バタン』


『バタン』


 うるさい。



 ――――――



 ホームセンターでは、予想通り装備が売っていた。ペットコーナーの隣にかなりのスペースを割いて武器や装備、アイテムが並んでいる。


「そもそも私に合う武器がわからないのよねえ」


『主に戦うのはテイムされたモンス……いや、家電ですからー。テイマー自体のステータスってわりと自由度高いですよね』


 レビのアドバイスは、基本的に独り言の延長くらいのレベルだとは思うが、うすぼんやりとした意識も言語化することで答えになることは多い。


「戦うイメージとして、テイム家電が戦ってる間、私はバフやデバフ支援をかけると思うのよね。だとすると、魔力は上げたいけど、接近戦で何も出来ないのも困るわよね」


『割とこういうフルダイブ系のゲームはプレイヤースキルも大事だったりすると聞きますよ。依里亜さん、昔やってた格闘技とか武道とかなんかないんですか? 』


「中高とソフトボールしかやってないわよ。」


『ちっ』


「いやいや、なんか舌打ち聞こえたから、いま! あ、小学校でフェンシングクラブには入ってたわよ。週に1回だけやってた」


『それでいきましょうよ!』


 レイピアを買うことにした。細くて軽い。初心者に毛が生えた程度レベルであっても、フェンシングの経験者というのはアドバンテージになる、はず、きっと。


 レイピアは手数で勝負。クリティカルも出やすい。体力に依存せずに振り回せるから、ステ振りをある程度魔法に振っても大丈夫だろうと考えた。



 そもそも前提として依里亜が魔法覚えるの? ということにはまだ気づいていない2人ではあった。



 防具は軽めのHPアップがついてるものにした。ブーツとかアクセもHPアップがついている最低限のものにした。まだそんなに使えるほどのお金はない。


 ポーションとマナポーションも買ったが、「ほらほら、マナポーション買ってる私カッコイイ? 」みたいな感じで買う依里亜の顔は軽薄だなあとレビは思ってみていた。


「初心者あるあるかよ」


 最小限のボリュームにして思わず呟いたレビの声は依里亜には届かなかった。依里亜はドヤ顔をしたままレイピアをレジに置いている。店員がレイピアの握りの部分に店のシールを貼っていた。



 買い物を終えた依里亜はふと思いつきサービスカウンターに向かった。なるほど、運営への問い合わせ、ヘルプを読む、クエストで情報を集める前に聞いてしまおうってことだ。


「経験値を上げる方法ってどんなのがありますか? 」


「モンスターの出るところにいくか、高額な経験値チケットを買うかですねー。モンスターが出るところは、市の周縁部の壁を出たらどこでも出ますけど、レベルは選べません。なにせ、ゲームのスタート地点はここだけではありませんから、『はじまりの森』的なものはありません。」


「すごーい、ブラフのチュートリアルよりわかりやすいわね。で、そのチケットはどのくらいするの?」


「3万円からになりますけど……。レベル1で使えば10までは上がります」


「微妙に高くて迷うわね。買わないけど。他にモンスター出るところはないのかしら?」


「市内の公園は全てモンスタースポットですよ。」


「え?」


『え?』


「あ、ただし、公園ごとに曜日は決まってます。人数制限はないといえ、子供も遊びたいし」


「曜日決まってるとかゴミの日かよ」


「あと、有料です。一応街の外にいるモンスターを転送させているので、その手数料を取られます。一応市営のシステムなので。でも、制御というかフィルターを使うので、その人のレベルにあったモンスターがでるからお手軽ではありますね」


「あらー、なんでもお金が掛かるのねー。高そうね。」


「時間無制限で1回110円ですね」


「安い!」


『でも消費税はとられてる! 』


「まあ、複数のパーティがいた時には巻き込まれることはありますけど……ははは」


「……あれ?でも私、公園でアリをお金払わずに潰しまくったわね」


「初心者はチュートリアルを受ける前までは無料でいくらでもできますので。攻略サイト見てから始める人はだいたいチュートリアルまでにレベル5まではあげ……」


「ちっ」


『舌打ちしてますね』



 ――――――



 家から1番近い公園に来てみた。入口には戦闘できる曜日の記載と、お金を入れるおみくじ箱レベルのものがおいてある。その木製の箱の上には赤い円柱型のスイッチがついており「スタート」と書いてある。ボタンは1つしかないためレベルの判断は自動なのだろう。


「なんかもっと電子的なシステムを想像してたわ。この公園は月曜日と木曜日にできるのね。ほんとに燃えるゴミの日的な感じね」


『それでも時間無制限な分だけ、観光地の望遠鏡よりは良心的だと思いますけど』


「さて、公園内に他のパーティはいないし、装備もちゃんとしてるし、こりゃいけるっしょ」


『私は見てるだけですけどねー頑張ってくださいねー』


「レビ、テイムされてる割に冷たくない? そして軽い 」


 と言いながら110円を箱に入れスイッチを押す。公園内に足を踏み入れるとモンスターの召喚が始まった。目の前に直径2mほどの魔法陣が現れる。バックアタックとかはないのね、と安心し、レイピアを抜き構える。レビは自分の少し後ろの地面に置いておいた。


 張り詰めた緊張感に包まれる。

 魔法陣から立ち上った光が消える。


 カマキリがあらわれた!

 余りに小さいので初めは気づかなかった。


「小さくてレイピアあたんねーよ! 」


 依里亜は装備をすりこぎ棒に変えようとも思ったが持ってきてなかったので、少し考えててからカマキリを踏み潰した。


「どうせテイムはしないし」


 次の魔法陣が回転し光が溢れる。

 コボルトが1匹。


 犬の顔をした青毛の二本足歩行する魔物。ナイフなどの武器は持ってなかった。なにやら転送されたことをよく理解できておらずキョロキョロしてるので、真正面からレイピアを思い切り胸に突き立てた。多段攻撃は不要でコボルトは一撃で消え去った。


『おおお! 依里亜さんなかなかやりますね』


 レビの応援というか冷やかしが聞こえる。


「次! こい! 」


 コボルトが2匹あらわれた!


 タイミングも場所も、現れるとわかっているモンスターへの対応は、倒す気さえあればプレイヤースキルの有無は関係ない。

 依里亜の動きは速かった。現れたコボルトの1匹を実体化した瞬間に葬り去ると、レイピアを抜いた勢いのままもう1匹に切りつけた。


『お、私も依里亜さんもレベルアップしましたよ! なんかスキルも覚えました! 』


「え!どれどれ見せて! 」


 レビに走り寄ってしゃがんだ後ろに、ナイフを持った二匹のコボルトが現れた。



依里亜~! 後ろ~!

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