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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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捕獲と涙

「そういえば依里亜はレイピア折れたけどどうすんの? 」


 再び羽ばたき始めたフェニックスを目の前に朔太が聞く。


「そりゃあ、折れたんだから、とりあえずここから先は無策太君がやるんでしょ? 」


「その呼び名やめよう。んじゃ本気出すか。ホイホイホイと」


 カードを3枚だす。『I』『W』『M』。双剣をベルトの(さや)にしまい、スペルを唱える。


「ふーん。まずは2枚使うかー『Ice(アイス)』、『Wall(ウォール)』」


『剣』と『盾』が出た。


「んん?いま『ウォール』って言わなかった? 『壁』じゃないの? 」


「壁だとさー、動かないじゃん? 俺のスキルって出すとカード消えちゃうから、何度も同じことやりたかったら、その『発生装置』的なのイメージするといいんよ。現実に存在するかは関係なくね。ちょっと小さめに出すよ」


 というと、左手に持った盾の周囲から、氷の壁が一瞬のうちに広がる。範囲は盾を中心に10mということころか。当然盾ごと凍りつくわけではなく、次に盾を移動した所で何度でも壁が作れるということのようだ。


「ということは、その剣もー」


「まあ、アイスソードね。にわかではなくね。」


 というと依里亜をチラっと見る。「にわかアイスソードで悪かったわね。だったら最初から出せ」と思った。


「しかもねー、こんなもんも出せるよ」


 と剣を振ると、冷気の塊のような魔法を発射した。【アイスシュート】と【フリーズレーザー】の中間みたいなものか。直線上に光線を発射するのではなく、弾を撃つイメージ。


「ほんと、どっちも最初から出せ」と更に思った。


「さて、以蔵は一緒に動いて。他の人は補助で」


 というが早いか、剣を何度か振る。冷気弾をばら撒く。さすがに最初からフェニックスに当たることはない。フェニックスも炎のブレスで弾を落とし、残ったものは飛行速度を上げてかわす。


 勢いのまま身体中を覆う炎を増大させ体当たりを図る。盾を前に出すと周囲に氷の壁が広がる。今度は20mを超える大きさか。一部は建物の壁にまで達している。氷の壁の出来上がるまでの速度が異常に早い。ほぼ一瞬だ。


 突然目の前に現れた大きく分厚い氷の壁をフェニックスは避けきれず、左の羽根を引っ掛ける。さすがに氷の壁も壊れたが、フェニックスもバランスを崩す。


 飛んでいるということは不安定ということでもある。そして、飛んでいるものが陸に降りるとたいていは地上の生物には勝てない。だから、落としたい。


 なんてことはなかった。攻防も何もない。フェニックスはバランスを崩しただけだった。その上にとてつもない大きさの『氷山』が現れ、そして落ちてきた。


 床に落下するまでの時間にどちらの方向に逃げても間に合わない大きさだった。


Mountain(マウンテン)


 朔太はそう唱えていた。


「あーなんだ、やりすぎた。これ1枚でよかったな」


 朔太も前に言ってたがイメージは可能性だ。先程一度依里亜が倒した、という事実が自信を生み、そのイメージを可能にする。が、依里亜はそんなことは知らない。


「これで消費MP0だから、めちゃくちゃよね」


 依里亜の感想はもっともだ。


「以蔵ー!巨大化して冷凍庫使う準備してー」


 朔太はカードをもう1枚出しながら以蔵に声を掛けた。フェニックスは氷山に潰されたが復活しようとしているらしい。氷の中に炎の赤い色が見えている。


「『N』……んじゃこの方法でいこう」


 以蔵の巨大化は完了している。


 朔太はカードで出したものをいつでも消せる。氷山を消す。生まれ変わったばかりの『ひよこフェニックス』がいる。さっきも見た。ひよことは言え大きさは2mはある。


「『Net(ネット)』。鳥を捕まえるには網だよね」


 金属製で氷属性の網がひよこを掬う。そこに、朔太の冷気弾と以蔵の【フリーズレーザー】を何度も叩き込んだ。完全に凍るフェニックス。そのまま冷凍庫に入れ【巨大化】を解除した。


 冷凍食品の隣に網でくるまれたフェニックスが並んだ。まるで料理の材料のように。


 とりあえず勝ったので『無策太』は『朔太』に戻った。



 ―――――――――



『フェニックス入口』を通過するとあとは『スライム入口』から入ったルートと一緒だった。が、一旦リタイアして依里亜の武器を買いに行った。


 仙台駅前のファッションビルでも武器コーナーはあったので、適当に同じ感じのものを買った。街中を歩く間、朔太の武器は【アイテムボックス】に入れれば消さずに済むことに今更ながら気づいた。


 攻略法のわかっている「ばばあ中ボス」は敵ではなかった。「謎かけばばあ」に至っては依里亜の顔を見た瞬間に、『(まる)』を連打した。全く同一人物ではないだろうが「恐怖」の記憶は種族全体に伝播することは動物界でもままある。




 バンパイアの部屋まで辿り着くと、明日香がドアの前に無表情のまま座っていた。周りにプレイヤーたちが囲んでいた。一瞬ヒヤッとしたが、気を遣っている様子だったので落ち着いて1番近いところにいた若い男のプレイヤーに声を掛けた。


「あの、すいません。この子知り合いなんですけど、どうしましたか? 」


「あ、あー、困ってたんだよね、何を言っても反応なくて。最初に見つけた人はもう行っちゃったんだけど、その人曰く、この子どうやら中ボスクリアしてたみたいでさ」


「え、あー……そうなんですね」


「ドアが開いたらこの子しかいなくて、ドロップアイテムが散らばってたって。でもそれにしても、レベルも低そうだし、装備もこれだし。どうやったんだろうねえって。不思議なのもあるし、喋らないし、動かないし、なんか1人で残していくのもねえ、と野次馬が集まってんだよ」


 つまり、やはりあの時仕掛けたブンジの【カウントダウン】は依里亜たちが全滅したあとにきちんと発動し、残り少なかったバンパイアのHPを吹き飛ばしたってことか。



 依里亜は明日香の真正面でしゃがみこみ声を掛けた。


「明日香ちゃん……」


 記憶にある声だと顔を上げた明日香はお化けでも見たような顔をした。まあ、確かに明日香にとって依里亜はお化けだろう。自分の手で殺したのだから。


「ちゃんと、私生きてるわよ」


 と言うと明日香は初めて出会った時のように泣き出した。


 そして、今回は依里亜に抱きついて泣いた。



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