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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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性善説と嫌悪感

 本当は運営に「迷子です」と明日香をとっとと渡してしまいたかった。


 しかし、なんとも鬼気迫るものも感じるし、気になるのも確かだ。


 また、その方法がないと言えばなかった。考えられるのは一時的にパーティに入れ、「リタイア」してしまえば全員で1階に戻れるが、依里亜のパーティは6人なのでいっぱいだ。


 依里亜のパーティからマイカとかマイカとかマイカを外し、そこに入れる手もなくはないが、そうすると明日香が引いている棺桶がどうなるか見当もつかない。明日香もいったん自分のパーティーから抜けるか、解散を選択することになる。


 明日香が1人で「リタイア」、依里亜たちと「せーの」で「リタイア」もありえたが、確認をしてみると明日香が自分のステータス画面を出せないことがわかった。依里亜と一緒だ。


 つまり、明日香は「リタイア」も「パーティ解散」も何もできない。どこかで運営に会うまで登っていくしかない、という結論に達した。


 同じパーティに入っていないということは、一緒にいても、依里亜たちの攻撃は食らうし、バリアも張れない。リヒールを掛けたりやポーションを渡すのは可能だが、レベル的にはおそらく一撃死だろう。


 ゲームだし、放っておいて明日香は死んでもいいんじゃないの? 全滅してもいいんじゃないの? という意見は誰も出さなかった。さすがにそれは人としてどうなのよ、という気持ちだった。


 孟子はかつて『性善説』を解く時こう言った。「どんな悪人であっても小さな子供が井戸に落ちようとしていたら、助けようとするではないか。人は生まれながらに憐れみの心を持っている」と。まさにそんな気分だった。



「僕はまだあんまり信用していない。理由は子供があまり好きではないから。いや、ちょっと違うか。どう扱っていいかわからないから、かな」


 朔太がヒソヒソ声で話しかけてきた。


「理由が雑ね、もし何か隠してたとしても何もできないでしょ? 」


「お姉ちゃんどうしたの? 」


「ん、何でもないわ。そろそろ出発しましょうって話してたの」


「ほんとに? 」


「えー、なんで? 」


「お父さんがいつも言ってたの。『嘘はいけない』って」


「あらそうなのー、じゃあ明日香ちゃんは嘘は付かないのね。偉いわね」



 結果として、明日香を最優先に守りながら進むしかなかったが、運がいいことに10階までは暗黒ゾーン。移動の遅いアンデットがほとんどを占めており、それほど苦労はしなかった。依里亜パーティのスキルのほとんどが前方にのみ効果のあるものだということも幸いした。


 さすがにここまで来るとPKを仕掛けて来るような輩はいない。今までもいなかったけれど。よっぽどの物好きでもなければ、折角上がってきたのに返り討ちにあうリスクは避けたいはずだ。


 高レベパーティなどは、依里亜たちに一瞥(いちべつ)をくれただけで興味すら持たずに抜いていく。依里亜たちをやっつけたとしても落とすアイテムはたかが知れているだけに、時間と体力、あるいはMPの無駄遣いにしかならないし、共闘するにも力不足。結果的に関わる意味がない。


 一方で、棺桶を引いているパーティも徐々に増えてきた。明日香の棺桶のデザインとは違うので、何パターンかあるのかなと少し気になった。



 ゾンビ犬が複数現れた。


「そろそろ僕も武器を出すか。余ってたカード…『T』か、『Twin(ツイン)』」


 朔太は「ツインソード」を出した。短めの「双剣」を両手に構える。依里亜ほどのスピードは出ないものの、体捌きに優れる朔太には軽めの武器が合うだろう。重い武器を持ち歩いている姿は逆に想像しづらい。


 武器があるならそれを振るった方がMP温存にはいい。ゾンビ犬は素早い動きで集団攻撃を仕掛けてきたが、それに遅れをとるようなことはない。レイピアと双剣で先頭グループを叩き、残った犬は家電たちがサポートし動きを止め、燃やす。依里亜たちはレベルは決して高くないが、プレイヤースキルのおかげで充分戦える。


 全頭を倒した依里亜が明日香の様子を見ると、また恐怖と嫌悪の浮かんだ顔をしている。



「ねえ、お姉ちゃん、どうして『人を殺してはいけない』の?」


「え、また難しいことを言いだした」


「『自分が殺されたくないから』とか『新たな殺意を生むから』とか『そうしないと社会が成り立たないから自然発生したルール』とか色々意見はあるけど、俺にもわからんな」


 朔太は戦うと一人称が「俺」になる。


「じゃあ、お兄さん、『人以外は殺していい』の?」


「むっ……時と場合による、としか言いようがないな」


「ふーん」


 明日香は大人たちに答えを求めているのではなく、自問自答しているようにも見えた。表情には嫌悪感だけが浮かんでいた。



 10階にたどり着いた。中ボスエリアだ。ここまで残念ながら運営に出会うことはなかった。もしかすると戦いの時、明日香を守りきれないかもしれなかったが、それはそれで結果だから仕方ないと思うことにした。依里亜たちはいま全力で戦うだけだ。


 この階は階段を登った所に大部屋が1つあるだけの構造だった。ダンジョンでよくある、入ると戦いが終わるまで開かない大きな鉄の扉がある。こういうことは手間かけてるな運営、と思った。


 ポーション、マナポーションもメンバーに配布する。場合によってはパーティ内も距離を開けられてしまう可能性もあるからだ。


 明日香を連れていかない手もあったが、1人で入口外に放置するのもどうかと思ったので、結局一緒に入った。


 ドアが閉まり、ロウソクの炎が順番についていく。ビル内でやる演出かよと思った。部屋の中の空間はかなり広く、PvPをした体育館くらいの大きさがあった。入口とどこかにあるボス部屋の空間をつないでいるのであろう。


「じゃあ、ロウソクが倒れても平気ね! 」


 心配するのはそこではない。


 部屋の奥から靴音がする。暗くてよく見えないが人型ということか。近づいてくるに従って、裏地が真っ赤なマントが目に入った。夜会服。顔はまだ暗くて見えないが、「これでオールバックの髪型ならあやつだな」と思った。


 予想通りのやつが現れた。典型的なバンパイアだ。ドラキュラと呼ぼうが吸血鬼と呼ぼうが大差はない。さすが暗黒ゾーンの最後を飾るには相応しい敵だと言えよう。


 攻撃力が高くおそらく移動スピードも高いが、代わりに多くの弱点もよく知られる。「日光、ニンニク、銀の銃弾、聖水、十字架」などなど。どれかを克服しているという設定も時々見られるが、さすがに全部をやればどれかは当たるだろうと思った。頑張れ朔太のカード。



「ようこそ諸君! よくぞここまでたどり着いた! しかし、諸君はここで全滅する運命だ! せいぜい頑張ってくれたまえ」


 とバンパイアは言うが、ドアの前の電光掲示板は「0008」となっていたので、「8人はクリアしてるじゃねえか」と思った。ということは、つまり攻略法はあるのだ。


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