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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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子供と正義

「ババアの次はガキかよ」


 朔太が面倒くさそうに毒づいた。


「そんな言い方はしないの。でも、私も子供は苦手なのよねえ。一応用心しながら声を掛けるね」


 依里亜は女の子にゆっくりと近づき声を掛けた。


「どうしたの? 大丈夫? 」


 モンスターの出るイベント内で大丈夫な訳はない。しかし、女の子はモンスターでフェイクの可能性も十分にある。食虫植物のように同情心で人を誘っているだけかもしれない。


「うわーん」


 泣き止まない。


『プップー! 』


 マイカがスキルではない普通のクラクションを鳴らす。女の子はビクッとして一旦泣くのを止めたが、すぐにまた泣き出した。


「もう! マイカ! 驚くだけでしょ! お嬢ちゃん、泣いてたらわからないわ。ちょっとだけお話ししましょ」


「パパもママもお姉ちゃんも……死んじゃったの……助けて……うえーん」


 この3つの棺桶はそれか、と腑に落ちる。この子1人ではとてもではないが戦えそうには見えない。ここまでパーティ全員で来て、3人は力尽きたのだろうと想像した。


 しかし、まだ疑いは晴れない。何か攻撃を仕掛けてきても逃げられるように【クイック】は掛けたまま、適度な距離を取りながら様子を伺う。


 攻撃モードではないのでHPゲージも見えていないのが逆に怖い。


「朔太、なんとかならない? 」


「そうだな……【カード】……『W』よしOK。『Watch(ウオッチ)』ステータスを全部看破できるよ。えーと、名前は『明日香(あすか)』レベルは5だね。職業もなし。スキルも持ってない。腰に提げている武器は『刃折れのダガー』だけ」



 依里亜たちもビルを昇りながらレベルアップし、全員がレベル10後半まできてるが、誰も新しく覚えたスキルはない。次はおそらくレベル20で覚えるのだろうと予想を付けていた。



「他に特に気になるようなものはないなあ」


「じゃあ、安心そうね」


 依里亜はやっと女の子の肩に手を触れ話を続けた。


「明日香ちゃんて言うの? お姉さんたちがついているからもう安心よ。とりあえず泣くのをやめてお話ししよ? 」


 なぜ名前を知っているんだろう、と思ったのか、明日香は泣くのをやめ顔を上げた。泣くという行為は多くの場合ただの惰性だ。すっ、と依里亜を見上げた明日香の顔は、普通の日本人の女の子のように見えた。年の頃は5歳~6歳か。



 明日香の後ろにリビングデッドが2体ポップする。


 依里亜は明日香の前に回り込み、レイピアであっという間に2体を切り倒した。振り向くと明日香は恐怖と嫌悪の混ざった表情をしていた。



「お、この部屋入れるからちょっと入ろうか。『休憩室』って書いてあるし」


 朔太が声を掛ける。


 部屋に入ると、テーブルと椅子。机の上にはお茶セット。ちょっとした流し台もあり、部屋の隅には自動販売機もおいてある。ポーションやマナポーションまで売っていた。


「オレンジジュースでいいかしら」と答えは聞かずに、1本買って明日香に差し出す。明日香はお腹が空いていたのか、椅子に座るとジュースを一気に飲み干した。少し気持ちも落ち着いたようだ。するとお腹まで「グー」と鳴り出した。


 依里亜は明日香を以蔵のところに手招きする。ドアを開けて、食べたいものはあるかどうか聞くと、冷凍ミートソースを指さしたので親近感を覚えた。


 ブンジに温めさせている間、アイテムボックスから皿とフォークを出す。


(ピー! )


『れいしょくは いぞうとおれに まかせとけ』


 このパーティーは、たとえ人気(ひとけ)のないところでも長期間の野宿が可能だ。シャワーは朔太がカードで出してしまわなければいい。寝る時はマイカに全員入って寝ればいい。アイテムボックスは時間停止にはならないが何せ以蔵は冷蔵庫だ、便利な冷凍庫がついている。



 明日香がミートソースを食べ終わり、一息ついて元気も出たようだ。


「ねえ、お姉さんは()()()()()なの? 助けてくれる? 」


「え? 」


 中々に難しい問題だ。アイテムボックスから台所洗剤を出すと、流し台でお皿を洗いながら答える。アイテムボックスには日用品もかなり沢山詰め込んでいる。割り箸から爪切り、着替えの下着まで大抵のものは出てくる。



「そうねえ、正義の味方ではないわねえ」



『正義』について考えたことはあまりなかった。無理矢理この世界に放り込まれる前もゲームはしていたけれど、別に自分が正義の味方だからキノコを踏んづけていた訳ではないし、正義の味方だからメラとかいう呪文を唱えていた訳ではなかった。


 ただの娯楽だ。


 ゲーム以外においての『正義』とは? よく言われるのは『正義は都合である』。確かにそういう面もあるだろうとは思っていた。


 地球征服を企む『悪者』と呼ばれる連中ですらテレビに映らないところでは日常生活があり、自分たちが戦う『正義』があるはすだ。


「はっはっはっ、愚かなやつらめ!死ねい!」と言いいながら、夕方に家に帰れば妻と子供がいて「今日のご飯何かな。ハンバーグか、やったね!ケンタは宿題やったか? 」とか言っていないと誰が決めたのか。


 もし仮に一人暮らしだとしてもお腹は空くから、ちょっと地球を攻略して帰りに「今日も失敗しちゃったな」とか言いながら、コンビニに寄って「今日はビールを2本飲んじゃおうかな」とか言いながらコンビニ専用のお菓子をおつまみ代わりに買っていないと誰が言いきれるのか。


 少し話がズレた。


 正義同士が戦うと、こちらから見て味方は『正義』、敵は『悪』となる。が、向こうから眺めれば全く同じ構図となる。常に()()()()は『正義』だ。誰にとっても。


『正義は勝つ』というが、別にそんなことはなく、実際には『勝った方が正義』というのは日本の戦争についても使われる言葉だ。お互いが『正義』なのだからどちらかは負ける。


 つまり、『正義』は『()()』でしかなく、ただの都合だ。


 日曜の朝に戦い続けるヒーローたちが、なぜ変身するのかはパワーアップの為など色々理由付けはされるであろうが、その時必ず仮面を被るのは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という論を読んだこともある。


 もう1つ付け加えるなら『正義の味方』は『正義そのもの』ではなく、あくまで『正義』に寄り添うだけの存在である。すぐ近くにいるだけ。そして『正義』の名のもとに『暴力』でもなんでも行使する。『正義』を言い訳に。なんてお手軽な理由。1番それっぽい理由。


 もちろん、それは勝手にやってる事なだけだから『正義』は『味方』を決して助けない。『味方』であると言う理由だけでは。だから『正義の味方』は常に苦悩を強いられる。努力を強いられる。『正義』は別に万能でもなんでもない。ただの都合だ。



 なんて少し難しいことを考えた。


 洗い終わった皿をアイテムボックスにしまいながら、やっぱり結論として改めて自分は『正義の味方』などではない、と思った。



 明日香は静かに「そうなんだ」と言った。


 そして、独り言のように呟いた。



「私のお父さんもお母さんもお姉ちゃんも、正義の味方じゃなかったから死んじゃったの」



 何を言おうとしているのかは分からなかったが、依里亜に底知れぬ恐怖を感じさせるには十分な言葉だった。



PV2000超えました。


評価、ブクマ増えました。


ありがとうございます。

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