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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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謎かけとマナー

 予想以上に苦戦した。「謎かけ」なんてやったことがない。部屋は徐々に狭くなってきている。


 朔太は結局よくわかっておらず、謎掛けになっていないものを連発している。



「ケーキとかけましてー、フルーツとときますー、その心は、どちらも甘いでしょー」


『ブー』


「うぉぉぉ!なんでじゃー! 」


 まったく何も掛けてない。


「ねえねえ、それならさ、『ケーキとかけましてー、苗字とときます。その心は、どちらもさとう(砂糖、佐藤)が多いでしょう』でいいじゃん」


『ピンポーン』


「やった! 1ポイントはいった! 」


「ええええ、僕のと何が違うかわからなーい。あ!はいはいはい! 」


 朔太の無謀な挑戦が続く。


「配送の車が来たばかりのコンビニとかけましてー、流行りのソシャゲーとときます」


「その心はー」


 依里亜が期待せずに合いの手を入れる。


「どちらも『ベント』が多いでしょう」


 みんなの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「え!? だって、『お()()()う』と『イ()()()』」


『ブー』


「惜しいように思うが『ベント』に意味がないのでダメじゃ」


 なかなかコツを掴みきれない朔太の代わりに、レビが答えだした。


『砂かけじじいとかけましてー、固い肉とときます。その心は、どちらもかみきれない(髪切れない、噛みきれない)でしょう』


 おおっと思ってレビを見ると画面に『レビっちです』と表示されている。なんだそれは流行ってるのか。確かに砂かけじじいは見事にハゲていたが。


『ピンポーン』


 歓声があがった。以蔵は喋れないので参加資格すらない。


(ピー!)

『レンジ ぎゅうどんや なみをだす』


 依里亜が解釈して読み上げる。


「レンジとかけまして、牛丼屋と解く、その心は、どちらもなみ(マイクロ波という波、並)を出すでしょう」


『ピンポーン』


「ブンジは自分絡みの謎掛けでうまくやったわね! 」


(ピー! )

『ぶんじっち です\(^o^)/』


「あ、そか、20文字以内ならブンジも顔文字できるのか。これは発見! それにしても……朔太くーん……」


 電子レンジにも負けて、呆然と立ち尽くす朔太。


『依里亜様のために、わたくしめも働きますでござる。ブンジさんもレンジ関係でしたから、わたくしは車関係でおひとつ。コホン」


 いちいち間を取るマイカはうざい。いいからはよしろ。


「きもだめしとかけましてー。わたくしのような高性能車とときます。その心はどちらもはいおく(廃屋、ハイオク)が効果的でしょう! ハイオク使ったことないけどね! まいっちです! 」


『ピンポーン! 』


 15分経過。朔太は思考停止状態。ここまで順調にも思えていたが、急に誰も何も出なくなった。


「ほれほれ、どんどん部屋は縮んどるぞ」


 ニヤリと歪んだ笑い方をする謎かけばばあ。性格がいいとは言えない。楽しいレクレーションではないことを改めて感じ、鳥肌が立つ。


 「芥川龍之介」の『羅生門』で、死体の髪の毛を抜いていた老婆は、こんな感じに醜悪に見えたのかな、とふと思った。


「やばいわね。砂かけばばあとは違って、本気で潰しにきてるわ」


 依里亜の空気が変わったのを朔太も感じとり、そしてある事に気づいた。依里亜にヒソヒソと耳打ちする。


「作戦会議もいいけど、どんどん言わないと当たりもなにもないぞい。ほへほへほへ」


「婆さん、時間制限だけして戦わないのはまずかったね」


 というと、朔太はステータス画面を出しと、『()()()()』ボタンを押した。


「いったんリタイアして考えた謎かけをたくさんメモしてくるわ」



 運営はこう説明していた。


 ―――――――――


『行き詰まったらリタイアはステータス画面から可能です。自分でリタイアされた場合は、2週間のイベント期間内なら、何度でもリタイアされたところから再挑戦できます』


 ―――――――――


 つまり、時間制限があるなら、いったんその制限をなくせばいい。じっくりと2日でも3日でも考えて『答え』を準備してから再挑戦すればいい。


 朔太は頭がいいのか悪いのか。


 リタイアした依里亜たちの体が光に包まれ転送される瞬間、謎かけばばあがさらに醜く笑ったのが目に入った。




 依里亜たちの転送先はSS31の入口の外だった。参加者が相変わらずたくさん並んでいる。


 朔太がステータス画面を確認すると先程まで『リタイア』ボタンがあったところが『再挑戦』ボタンに変わっている。いちいちまた1階から昇る必要はなさそうだ。


 しかし、戻るのはあくまで「リタイアしたところ」からなので、残り15分というのは変わらないと考えておいたほうがよさそうだ。




 お昼時間でもあったので、家電たちはマイカごと駐車場において、依里亜と朔太だけご飯を食べることにした。


 朔太はスマホを持っているので、謎かけは考えるのではなく検索してカンニングすることにした。定番をたくさん言えばいくらなんでもOKだろう。メモを見てはいけないというルールはない。


 仙台駅東口を出てすぐのところにある、『ロロッテテリア』というハンバーガーショップに入る。


「すぐ隣に超巨大な電気屋さんあるから、ちょっと見たい気もするけど、レビたちが嫉妬するわよね。私家電を眺めるのも大好きなのよねえ」


「今だと便利かどうかではなくて、テイムしやすそうかとか、戦ったら強そうかどうかで選びそうだね」


 と久々の2人でのデートを楽しみながらカンニングペーパーを作った。


「私ね、あのババアの戦略って、たぶん違うところにあると思うのよ。だって、リタイアできることなんて知ってるでしょ? 」


「そうだね。最後に笑ってたのも見えたし、僕もそう思ってる。 だとすると……【カード】……ちがうな……もう1枚……もう1枚……うん、これがたぶん使える」


 と朔太は『A』のカードを依里亜に見せ、余ったカードはポケットにしまった。使わない限りカードは出しておいておける。


 だから、実際は0時にリセットされた時に、全カードを出して持っておくのも可能なのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 従って、スペルを使うには出したカードの中から()()()1()()()()()()()()か、()()()()()()()()()()唱える必要が出てくる。


 実際には不可能ではないが、朔太はそれを()()()()()()()()()()()()と考えていた。


 それは朔太のこだわりであり美学でもあった。戦いながら博打(ばくち)的にカードを引き、そこで最良の手を考えるのが朔太の戦い方だ。


 30を超える謎掛けをカンニングしてメモったが、朔太は何かに気づくとさらにメモに付け加えていた。






 マイカたちのところに戻った依里亜たちは『再挑戦』ボタンを押した。するとステータス画面には『現在他のプレイヤーが挑戦中です。しばらくお待ちください』と表示され、転送はされなかった。


「誰かほかに挑戦してるのねー」


「ということは、このイベントは全て同時進行で行われているってことだ」


「ん? そんなの当たり前じゃないの? 」


「ゲームによっては、レイドバトルみたいに全員で闘うものもあるのはわかるよね?」


「なんとなくはわかるわー」


「今回の中ボスに現在参加できないってことは、()()()()()()()()()()()()()ということだ。」


「そうね、当たり前よね」


「いや、ゲームによっては同時にパラレルワールドみたいに、いくつものパーティが別のところにいる全く同じボスと同時に闘うタイプのもある」


「そうね。待つのはいやだもんね」


「では、中ボスでもボスでも同じ次元に一体しか同時にいないとして、その部屋に()()()()()()()()()()()()()()()()()()どうなる? 」


「あ、聞いた事がある。『横殴り』ってことね」


「そう。さっきの中ボスの部屋は1度だれかが入った時、終わるまで誰も入れないシステムなのかもしれないけど、もし入れる部屋がこの後出てきたら『横殴り』つまり、最後だけ攻撃して経験値のおいしいところをもっていくとかが可能なのかもしれない」


「そうか、制限がない部屋ならどんどん入ってくることもあるから、パーティ以外のプレイヤーの攻撃のダメージとかも要確認だし、ドロップアイテムの所有権とかは確認しておかないとダメよね」


「1階ではそこにいたプレイヤーを僕らが全滅させたから、プレイヤーが落としたアイテムも拾えた。さっきの砂かけばばあのところのドロップもそうだね。周りには誰もいなかった。でも、もしかするとアイテムの所有権は拾うまでもしかしてフリーかもしれない」


「PKだけでなくて『ルーター』つまり『横取り』も気をつけなきゃダメってことね」


 細かいことではあるが、知ってるのと知らないのでは雲泥の差が出そうな悩ましげな問題であった。


 複数パーティで他のボスの征伐に成功した場合、喜ぶより前に、他のパーティーの近くにあるアイテムを拾い、しかも自分の近くに落ちたアイテムは取られないようにする必要がある。


「あ、そういうゲームのマナーで思い出した」


「ん?」


「私、『トレイン』やってみたいのよね。たくさんぞろぞろモンスター連れて歩き回ったあげく、他のプレイヤーになすりつけるっていうね」


「マナー違反です」


 と言いながらも、それを1階でやったら面白いそうだなと思う朔太だった。



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