一族と知り合い
控え室のドアは3分の1の高さまで砂で埋まっていた。それがなんの前触れもなく部屋の外側に開いた。溜まりまくっていた砂が猛烈な勢いで隣の部屋に流れ出す。依里亜たちを囲んでいた砂の高さが徐々に下がっていく。
「天の助けだわ! 」
「でも、あの婆さん、確か一族以外に開けられない結界って言……あ、つまり一族の誰かか」
みんな何が起こるのか、とドアの向こうを注視していると、砂かけばばあよりもさらに腰の曲がったお爺さんが出てきた。頭は見事にハゲあがっている。
ただ、そこらへん一帯にある砂が、お爺さんが歩く度に20cmくらいの間隔を開けて勝手に避けていく。
「つまり……砂かけじじい、か」
「砂が避けてるわね。というかコントロールしているのか」
動きを止めて様子を伺っている婆さんの近くまで来ると爺さんは大きな声で言った。
「婆さんやワシのメガネはどこか知らんかね」
お爺さんはおでこにメガネをかけている。
「あんたは誰だったかいな? 」
と婆さんはボケ返す。話が進まない。
「婆さんや、昼ごはんはまだかね」
シュールすぎて言葉がでない。が、そこに控え室からもう1人出てきた。お爺さんと同じように移動とともに砂が周りに避けていく。『一族』なのだろうがかなり若い。
「砂かけお姉さん……? 」
「マ? そんな歳じゃないって。激萎えなんだけど。なしよりのなしな。まあなんつーかあれだ、砂かけギャルって呼んでね」
シュールな状態はさらに複雑になった。
「婆さんご飯」
「あんた誰」
「まじ卍。ぷちょへんざ。彼ピッピ」
頭がおかしくなりそうだった。
何か会話が聞こえて来たので、なんとか翻訳をしてみるとたぶんこんな感じだった。
(翻訳)「おばあちゃん、おじいちゃんがご飯食べたいって言ってるから作ってあげて。ほらこんな砂とかもう片付けなよ」
とギャルが右手をふると砂が1粒も残らず消え失せた。とてもいいギャルだ。砂を消すと、こっちに向かって話しかけてきた。
(翻訳)「なんかお婆ちゃんが時給に釣られて中ボスを引き受けちゃってさ。でも、一応お昼時間は一旦戻ってご飯作ってほしいんだよね。ワタシ料理できないんで」
時計を見ると確かにお昼時間だった。動けるようになったので、控え室の中を覗くと、時空を歪めて連結しているのか、おそらく砂かけばばあの家なのか、生活感満載の部屋の様子が見えた。
砂かけギャルは、砂かけばばあと砂かけじじいの手をとって部屋の中に連れて帰った。本当にいいギャルだ。ドアを閉めると時空の繋がりも切れたのか、ドア自体が綺麗に消え去った。
なぜか、部屋の中にドロップアイテムだけは落ちていた。『アダマンタイト』と『ヒイロノカネ』がいくつか。あと、ジグソーパズルの1片が落ちていた。
「え、あれで倒したことになるの? 今、もし誰かきたら中ボスは? 」
依里亜の頭には疑問が渦巻いたが、朔太は
「マジボケに勝つには突っ込みではなく、ボケで対抗か」
とかなり失礼なことを言った。
廊下に出ると電光掲示板の数字が「00013」となっていたので、これはクリアした数であったか、とわかった。
「でも、ご飯時に来たら中ボス倒さなくてもいいってことよね……」
と歩いてすぐ隣の部屋に『中ボスの部屋2』と書いてあった。電光掲示板もあった「00010」となっている。
ちょっと待てよ、とその部屋を無視し廊下を進んでいき確認をすると『中ボスの部屋3』『中ボスの部屋4』とずっと並んでいた。おそらくこの階の20の部屋は全て『中ボスの部屋』なのだろう。
確かに運営は『5階ごとに中ボスも出ます』としか言ってない。その階に何体ボスがいようが嘘ではない。
「これって全部クリアするのかな?」
「いま1つクリアしてるから、これで上に上がれるかを確認すればいいわよね。いってきまーす!」
と依里亜はホイホイと廊下の突き当たりまでいくと、階段前にジグソーパズルが置いてあり、20のピースをはめるようになっていた。
「全部かあ……」
とぼとぼ戻りながら、部屋ごとの電光掲示板を見ると、ほとんどは「00008」や「00010」などであり、上の階に行った他のパーティの数がこのくらいなのだなとわかった。あとは攻略中か、やり直し。
元気も余りなかったが、やらなければ進めない。さて次はどんな敵だとおもって、2番目の部屋のドアを開けた。一応ノックはした。
また、砂かけばばあがいた。
「えええええ」
「えええええ……はぁ」
驚きよりため息が出た。
「ふへふへふへ。おまえらが倒したのはわれら『かけばばあ』グループ四天王の中では最強! 」
「ちょっとまてー!最強のやつを倒したならもういいだろ! 」
「いやいや、まてまて。『砂かけ』は確かに戦ったら最強じゃ。しかし、ワシは強くはないが、また別の能力があってな。ほへほへほへ」
「まーた、無理な笑い方してる」
「おまえらワシが『砂かけばばあ』だと思っちょるじゃろ? ワシは『謎かけばばあ』だ」
「『縦』の繋がりの次は『横』か」
朔太はわかりやすいような、わかりにくい説明をした。
「まあ、そうじゃの。おまえら爺さんとかも見たじゃろ? あれは「砂かけ」の一族。わしらは『〇〇かけばばあ』と名前がつくだけの知り合いじゃ。他人じゃよ」
「やっぱり、一定時間耐えれば、爺さんが出てくるところまでが台本なんだわ! 毎回やってるのよ、あの寸劇。じゃあボケてないじゃん」
依里亜はどーでもいいところに気づいた。
「ではな、ワシは『謎かけばばあ』だから、謎かけをやってもらうぞい」
「謎かけってなに? 」
と朔太。
「説明してもわかりにくいじゃろう、具体例を教えてやろう」
と言うと謎かけばばあは、どこにもっていたのか、フリップボードを出した。バラエティー番組か。
―――――――――
「Aとかけて」
「Bと解く」
その心は
「C」
―――――――――
「基本形はこれじゃ。見本を示すぞ」というとばばあはフリップをめくった。段取りかいい。
―――――――――
「スパイとかけて」
「作家と解く」
その心は
「どちらも『かくしごと』が得意です」
―――――――――
「つまり、オチの『かくしごと』が『隠し事』『書く仕事』とをかけておるのじゃ、ほっほっほっ」
「つまりダジャレよね。なんか日曜の夕方にテレビで見た記憶があるわ」
「説明されると1mmもおもしろくねえな。つか、やっぱり『知力、体力、時の運』がいるんだな」
「これはひらめきだから『アハ体験』の方かもよ」
「むむっ、おぬし、おもしろくないとか言うと殺すぞ」
「で、どうしろと? 笑えばOK? 」
「そんな訳なかろうが。おぬしたちがつくるんじゃよ」
「ひぃ!」
「ワシがOKを10回出せばクリアじゃ。時間内にな。その間にいくつ言ってもよいぞ。但し、判定は完全にワシの好みじゃ」
というと、ばばあが右手をあげると、片面に「〇」片面に「×」がついていて、スイッチを押すと「ピンポーン」「ブー」となるおもちゃもどきが出てきた。つくづく用意がいい。
「時間内にOKを出せなければ、部屋ごと潰されてプチュンじゃ!時間は30分。ほい、スタート」
というと、部屋全体がググッと縮んだように見えた。部屋が縮み切ると潰されて死ぬということか。謎かけばばあはなぜか半透明になり宙に浮いた。実体を消して空間の影響を受けなくしたのだろう。そうでなければ縮んだ部屋に自分も巻き込まれることになる。こちらの攻撃も当たらなくする効果もあるのだろう。
「うわー、ろくなばばあがいないわね!」
しかし、朔太が自信ありげに手を上げる。
「整いました! 」
「え、何そのセリフ。朔太知ってんのこれ」
「いや、なんとなく」
「スライムとかけましてー、おまんじゅうと解きます」
「その心は?」とばばあ。
「どちらもぷよぷよしてるでしょう」
朔太はドヤ顔して「さくっちです」とか言ってる。
『ブー』
部屋がさらに縮んだのが確かに見えた。
うpしたンゴ。とりまよきと思ったら秒でファボもらえると尊い。最&高。
定期でPVあがればもっとよきなあ。嬉しみが深いぽよ。KP!
という文を10分かけて考えてみるテスト。




