トラップと嘘つき
本日2話目です。
トラップの種類はどのくらいあるのだろうか。
落とし穴、火炎放射、トゲ、弓矢、毒、刀、爆発、強制ワープ、何度も使うものと、1度きりの仕掛け、落とし穴にトゲなどの複合トラップもある。考えつくだけのバリエーションがあるだろう。
その目的としては、「その道を通さない」「仕掛けを知ってる人だけは通れる」という区別もあるだろうが、通さない気で作られたものは、道そのものの破壊も辞さずだからより注意が必要だ。
トラップのセンサーも多様である。1番シンプルなワイヤーを張っただけのお手軽なものから、重さ、体温、動きを捉える赤外線センサー、音の大きさを感知するものもスパイ映画では登場している。監視カメラによる目視も有り得る。
依里亜たちは、分かれ道で左右のどっちに行っていいかわからなかったので、多数決をとった。しかし、パーティメンバーは依里亜、朔太、以蔵、ブンジ、レビ、マイカの6人の偶数。意見は3対3になったので、依里亜が「私がリーダーだから右ね」と勝手に決めた。
『はじめから いりあがひとりで きめていい』
とブンジが液晶パネルで呟いたが、バレたくなかったので電子音は出さなかった。
「まあ、トラップがあったら戻れば逆の道がセーフよ」
「そしたらトラップにならないからたぶん戻れないよねえ」
というフラグを立てつつも進む。
依里亜は、おそらくトラップがあっても戻れないとわかってはいた。しかし、「私たちがやっつける前に既に2階に登った人が絶対いるはず」という思いもあり、やや焦りも感じていたのだ。
少し進んでいくと床に黒い横線が引いてあった。これを超えるとトラップゾーンだと直感した。
その線を超えた依里亜が後ろの様子を伺うと、来ていた道が消えていた。消えているというのは語弊がある。壁で塞がれているのではなく、ただ空間が遥か向こうにまで続いている。遠くに誰かがいる。
「あら」
と声を出すと、朔太も振り向き、その誰かの存在に気づく。というかいくら遠くにいても一目瞭然ではあった。冷蔵庫と車を連れたパーティはなかなかいない。
依里亜が目が凝らしてよく見ると、遠くの人物も後ろを振り返って見ている。
「うん、あれは私ね」
つまり、ある地点から道がループされているということだ。壁や鉄の扉で塞がれたのであれば、最悪破壊すれば済むことではあったが、空間や次元を曲げてループされてしまったら、なかなか厄介だ。
進む先には自分たちの姿はないので、通り過ぎたとこから後ろが次々とループされているということか。つまり、進めるけど戻れないということだ。
「こっちに来たのは私の責任だし、【クイック】を使えばトラップの発動前にかわせると思うから、そのあとみんなで装置を壊して! 」
と言って走り出した瞬間、1番シンプルでお手軽なワイヤートラップに足を引っ掛け、転んだ。その上を両方の壁からマシンガンが出てきて撃ちまくった。
ということがあったので、依里亜は2番目を歩くことになった。1番前は朔太だ。
「ごめんねー、朔太こういう時は物凄く頼りになるわね」
お世辞ではなく本気で思っていた。前方でレーザー光線が発射され焼き尽くされて黒焦げになった物体が転がる。
「いやいや、お役に立てて嬉しいよ」
といっても朔太は現在は何もしていない。ただ、でかい箱を押しているだけだ。
朔太の使ったカードスキルは『Lemmings』
「集団自殺」すると誤解されているレミング(タビネズミ)の生態を参考につくられたゲーム。次々と現れるレミング達をプレイヤーが指示し出口に導く。
それを「使い捨ての身代わり」としてトラップにぶつけて発動させている。
トラップのセンサーは、体重、熱、動きなども考えるられたので、朔太はイメージする時に、できるだけ人間型のネズミを思い浮かべた。
結果、顔はネズミで体つきと大きさは人間、というなんとも言えないキメラ生物が、朔太の押す箱から無限に生まれることとなった。もちろん「無限」はイメージが難しいので、「トラップゾーンを抜けるまではずっと出てくる」とイメージした。
そして、そのキメラ的レミングスは、床に穴が開けば、みんなでそこに落ち続け、火炎放射が始まっても構わず突っ込み、天井から降りてくるトゲにも恐れずに進んでいった。
発動させたらパーティメンバーで装置を壊し、穴はマイカに乗って飛び越えたりした。
迫り来る壁や、考古学者の冒険する映画のように大きな岩石が転がってくる類は、むしろ簡単なトラップだった。ただ壊せばいいものほど楽なものはない。
ということで、依里亜と朔太はおしゃべりしながら、トラップ攻略中である。
「ねえねえ、依里亜、さっきの分かれ道問題ってなんて聞けばいいんだっけ?『どっちがトラップのない道ですか』って聞けばいいの?」
「いやいや、それは正直村から来ている村人に、正直村の方向を聞く時ね」
「そうなの? あー、嘘つき村人は嘘つくから、2人が指す方向は反対になるね」
「そうそう。あの場合は、どちらか一方の道を指さした上で、『こっちがトラップのない道ですか、と聞いたら、あなたは【はい】と答えますか』と聞かないとだめね」
「うわあ、めんどくさー」
「そうよー、嘘つき舐めちゃダメよー。指ささないでどっちかを聞いたら、来た道を指さしたり、天井を指さしても『嘘ではある』わけだから、それでたった1度の質問は終わりになっちゃう」
「ふーん」
「だから、嘘をついても2択にしかならないように、『はい、いいえ』に答えを絞ることと、『嘘が確実』なら『嘘の嘘は本当』ということに気づけるか、ね」
「2択にしてしまえば、『嘘は無限の可能性』から、『真実の裏』になるってことか。なるほどねえ」
「私は『朔太が好き』よ。さ、いまのは『本当か嘘か』当ててみて? うふふ」
「そうだなあ、どっちだろうなあ。ふふふふ」
とイチャついているのが丸聞こえだったマイカは、目の前の床に大きく開いている穴に、朔太だけ跳ね飛ばして落としてやろうかとアクセルを吹かした。
が、そんなことはお見通しとばかりに朔太がジロリと睨んできたので、ボンネットを自分で開けてその視線を遮った。




