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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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常識と非常識

人によっては「やや残酷」と思うかもしれないシーンがあります。ご注意を。

 並んでいるうちに小雨が降ってきた。少し肌寒い。


「そういえば、朔太はいつも決まった手持ちの武器は使わないの? 」


「持ち歩くのめんどくさくてね。スキルですぐ出せるからいいやと思ってさ」


「出すなら『弾切れ』のない武器にしないとねえ……」


 と、PvPの時のミニガンの話でいじる。


「うっ……大丈夫。ちゃんとした武器にするから。」


「朔太はカード切れしないように、基本プレイヤースキルで使う武器を1つ出したら温存よ。強制転送されてもカードだけはリセットされないし。まあ、期間が1週間あるから『自分で一旦リタイアした』場合には、カードも復活できるけど」


「OK。温存するからみんなは俺より頑張ってね」



 入口での受付などはなかったが、『イベントにようこそ』とか簡単なマップや説明が書かれたチラシをレースクイーンのような格好をしたイケイケの女性が一人ひとりに手渡ししている。この気温で少し寒そうにしている。


「【カード】……『S』……『Stove(ストーブ)』」


 朔太が迷いなくレースクイーンのために暖房器具を出す。なぜ今ここで【カード】を無駄遣いするんだ、という思いと単純な嫉妬に駆られた依里亜は、後ろから押されたフリをして朔太の背中にヒジを思い切り入れた。


 浮気はしない人なのはわかっているので、何も言わなかった。これでニヤニヤしてたら足も蹴ってやろうと思ったが、当たり前のことをしただけという顔だったのでその優しさを評価して我慢した。



 建物に入った。みんなゾロゾロと入っていく。いや、ゾロゾロという程は進んではいない。依里亜が以蔵の上によじ登って見ると、遥か先までプレイヤー達が廊下を埋めつくしている。


 満員電車のように寿司詰め状態だった。寿司ほど高級感はないプレイヤー達だけど。


「こういう時でも日本人て律儀に並ぶよねー」


 と朔太が呑気なことを言うが、ここにいる9割9分が日本人でもなければ、地球人でもない。


 あちこちで小競り合いが始まった。近くにいるやつが「イベントするってレベルじゃねえぞ! 」と叫んだのでそっちに顔を向けるとHPゲージと共に名前とレベルが見えた。レベル1だった。


「おまえがイベントするレベルじゃねえよ」と思ったが、それと同時に戦闘モードに入っていることに気づいた。


 普段街中で歩いている時には、何も見えないが、戦闘ができる場所で戦闘モードになれば、HPゲージと名前、レベルなどが対象のキャラの頭の上に表示される。残りHPのわからないボスとなど戦えるわけがない。


 最初の公園で、掴んだアリだけにゲージが現れたのはその仕組みだ。


 たまたま今はこいつが怒って戦闘モードになったのでゲージが現れたのだろう。周りを見ると小競り合いをしている連中のHPゲージもチラチラしている。


 つまり、建物の中は()()()()()()()ということだ。


「よし、やるか」


 道で順番待ちをしている時に、周りに迷惑を掛けるのは「非常識」だと依里亜は思っている。そりゃもう道徳心によって心の底から。でも、()()()()()()()()()()のはこれはもう「()()」であるとしか思えない。



 戦闘フィールドで、ただ立って並んでてどうする。



「みんなマイカに乗ってー」


「ん? どうしたの? 」


「蹴散らすのよ。マイカ好きにやって進んでー」


 さっき蹴られたこともあり、初めは躊躇していたマイカであったが、依里亜の話を聞くと途端にやる気になった。一番最初にクリアした者だけがもらえるアイテムもあるかもしれないし、と付け加えた。


『合点承知之助でございます、依里亜たん! 私めがこのモブたちを一瞬の元に葬り去ってみせましょう! 上手くいきましたら、あとでお褒めのお言葉を是非に是非にいただければと』


 久しぶりに雄弁なマイカだった。


「うむ、苦しゅうない」


 マイカは【クラクション】スキルで周囲のプレイヤーの動きを止め、【ウォッシャー毒液】をスプリンクラー状態で撒き散らした。


 HPのなくなったプレイヤーは地下3階に強制転送なので加速するだけのスペースがマイカの周りに生まれる。


 いきなりアクセルベタ踏みで突っ込む。【ドリフト】スキルを使う前にすでに数十人という単位でプレイヤーを跳ね飛ばす。そこから【ドリフト】発動。車体を斜めにして廊下を突き抜けていくので、避けるスペースはない。


 ブルドーザーのように前にいる全てのプレイヤーを蹴散らした。


 突き当たりの壁までいくと、バックギアに入れ【悪路走行】スキルでHPの残ってるプレイヤーの上を走りスタート地点まで戻ると、あれだけプレイヤーで溢れていた廊下には誰も残っていなかった。


 依里亜たちパーティには大量の経験値が入り、無数のドロップアイテムが床には転がっていた。なるほど、このイベントはPK(プレイヤーキル)もかなり有効なのだな、と思ったが、PKされることにも注意しないといけない。


 巨人も何人か紛れていたが、毒液と悪路走行があるので、関係なかった。マイカは普段の姿から想像されるよりずっと強く、そのスキルは応用が効く。


 広い空間であればどこまでも高速で走り追いつき、限られた空間ではゴリゴリとHPを削り取る。



 入口の外では、並んでいたプレイヤーとレースクイーンのお姉さんが、今起こった出来事に呆気にとられて立ち尽くしていた。おそらく暫くは誰も入ってこないだろう。


「うむ、ご苦労であった」


 依里亜が偉そうに褒めた。



「ねえねえ、突き当たりの廊下の所にまだ2人倒れてるよ」


 トドメを刺すまでもないかな、とも思ったがドロップアイテムを拾いがてら確認をしにいく。


 同じ格好をした2人が倒れている。


「……僕は正直村の村人だ」


「……僕は正直村の村人だ」


 同じ言葉を2人とも言うと、そのままHPが尽きて消えた。


 壁に紙が貼ってあった。



『ここは分かれ道。左右どちらかは次の階に続き、どちらかはトラップが仕掛けられている。目の前の2人のうち、どちらかは正直村の村人。どちらかは嘘つき村の村人である。1回だけ質問をして、道を選べ』



「あー、よくあるやつねー」


「そうだねー、死んじゃえば正直者も嘘つきも関係ないのにねー。あはははは」


 笑い事ではなかった。


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