札幌とアナウンス
「レイピアのいいやつ」をホームセンターで買った。
値札に「ミスリル製! 大特価!」と書いてあった。あれミスリルって実在するんだっけ? と思いながらも、まあゲームだからあるよね、と思った。というか、ミスリルって特価で売るもの?
しかも、その「いいやつ」は握る部分に穴が3つもあって、そこになんか「アビリティストーン」というアイテムを入れるとステータスがアップするという。値札にも「穴が3つも!」と書いてあった。どうやらお得らしい。「穴って名前なの?。他に呼び方ないの? 」と思った。
確かに鍵付きのガラスケースに入っているような、さらにお値段の張る武器は、「穴」が1つふえるごとに値段が倍とか3倍になっている。
店員に聞くと「いまねー重量系武器が流行ってて、レイピアとかあんまり売れないんで安くなってますよ」とのことだった。安く買えるのはいいがどこか腑に落ちない。みんなレイピアも使おうぜ。
買った後に以蔵のアイテムボックスを探してみると、「アビリティストーン」はたくさん入っていた。どうやらドロップアイテムで増えたようだが、何を倒した時のものかは覚えていない。
人工宝石みたいな感じで赤とか緑とか青とか様々な色があって、色によってあがるステータスが変わるということだった。この辺りはホームセンターのサービスカウンターで聞いてきた。
サービスカウンターでは、パワーアップアイテムとして、「アダマンタイト」とか「オリハルコン」とかのレア金属についても教えてもらった。材料さえ集まれば市役所内の鍛冶屋にいけば、家電のパーツの強化も可能ではないかとのことであった。
「そういや、あなたたち装備もなにもないもんねー、強化したいよねー 」と聞くと
(ピー! )
『ゴテゴテの ななしょくストーンで デコりたい』
家電の考えていることはよくわからん。デコらないで強化して欲しい。オリハルコン製のレンジカッコイイ。というか、市役所内に鍛冶屋があるんだ。
と色々あった末に、依里亜は当然「すばやさ」を上げた。依里亜としては当たり前過ぎたが、朔太はドン引きしていた。「ここからさらに速くなるのかよ」という一人言みたいなのが思いっきり聞こえた。
「すばやさ+3」くらいのを3っつつけたが、元のステータスの数値を覚えてないのでその割合が凄いのか凄くないのかはさっぱりわからなかった、が、少なくともマイカとゼロヨンをやってもブッチギリで勝てるのはわかった。たぶんストーンをつけなくても勝てた。でも、400mをずっと走るのは疲れたのでもうやらない。
で、札幌に行くことになるかも知れなかったので、全員揃っているマイカの中で話を聞くことにした。
「まずね、おれ隕石後の転生って札幌の実家だったのよ」
『依里亜さん横浜、横浜ってずっと言ってましたよね』
「レビうるさい。話が逸れるのでみんな関係ある話だけにしよう。ね、マイカ」
『え、なんかそんなこと言うと僕がいつもうるさいみたいに聞こえるじゃないですか、依里亜については確かにたくさん話したいことはありますけど……あ、黙ります』
珍しくマイカが突っ込むまでもなく空気を読んだ。
「で、依里亜には言ったけどずっとパーティとかは組まず、札幌市外で戦ってレベルを上げてたんだ。暇だったしね。カードも試したかったし。『ザゲコス』のマップは運営から説明があったから把握しているよ。横浜市が存在していることも知ってるけど転生後は行ってないね。だから依里亜が行っても会えなかったね」
と、朔太が依里亜に微笑みかけた。依里亜は心の中で「マップの説明なんてなかったよ」と文句を言う。
「さて、札幌に連れていきたい理由を結論から言うね。父を説得して欲しいんだ」
朔太がみんなを見回し、少し不安そうな顔をする。
「元々うちの実家は金持ちなんだけど、あ、別に自慢じゃなくて。転生後はさらになんかすごいことになってるんだよね。特に父の金遣いが荒くなってしまって……家には毎日のように怪しい人たちも出入りするようになってしまって。べつに借金してて返済を求めに来てる感じではないんだ……なんかね、宗教関係らしくて」
「……宗教が絡んでるのか……」
「それでね、なんかその一方で夜になると、妙に怯えたりとかもしてて、ほんと心配なんだけど、何を聞いても『平気だから、大丈夫だから』としか言わないし」
「話割り込んでごめん。お母さんは? 」
「母は、元々無関心な人だから。楽天家でもないんだけど、『平気平気』って、決して冷たい人じゃないんだけど、父のやってることにはなんにも興味がないみたいで」
「で、私たちは何をしに? 」
「変な連中との関係を絶って欲しいって説得して欲しいんだ。家族の言うことなんて全然聞かない人だけど、依里亜の話なら聞いてくれるかも知れないなとか思って」
「えええ、だって私、お父さんと2回しか会ったことないわよ? 」
「んー、でも、同棲も認めてたし、依里亜は信用されてたからさー」
『お父さんが転生前と転生後で変わったこととかないんですか? あと、宗教団体についてわかってることとかありますか? 』
ナイス質問レビ。
「宗教的な人達が家にくるようになったのは確実に転生後だね。なんかいつも自分の部屋で内緒の話をしてるんだけど『レンコン』とかよく聞こえてくる」
「レンコン? レンコンてあの穴の空いたレンコンかしらね? 」
「さあ? 扉越しにぼんやりとしか聞こえてこない声だから正確にはわからないけど、どうやら『レンコン』は父のスキルのことらしい」
『霊魂ですかね。宗教だし』
ほんとナイスレビ。
「さすがに、いつもいつも宗教家の人と『根菜』の話はしないわよねー。スキルだとすると『霊魂を自由に操れる』」とかは便利よね。宗教団体が信者を獲得するにはもってこい。そして、それと引き換えに大金を受け取っているのかも知れないわね」
「そうか! 僕はてっきりどっからか『レンコン』の横流しでもやって儲けてるのかと思ってたよ。天ぷらおいしいし」
「朔太、マジで言ってるのかそれ」
「で、宗教関係の人は、詳しいことは全くわかんない。よく見かけるけどいつも2~3人でいつも来てる。なんか白装束みたいのを着てて、『教祖様』って呼ばれる人がいる。」
「教祖なら宗教だねー」
「だね。それはそうだろうなと思ってた。団体の名前とかも知らない。レンコン教とかなのかなあ」
「では、お断りします」
「え?唐突! そして断るのはやっ! 」
「だって宗教とか怖いし」
「えええ、そもそも依里亜に頼むために仙台まで来たのに」
「え、それ目的? 」
「いや、会いたくて来たのが1番だよそりゃ。依里亜、電話つながらないしさー、直接来るしかないでしょ。新幹線できたよ。1時間くらいだった。相談したくてさ。でも、おれ友達少ないの知ってるでしょ」
朔太は、高校時代に街で暴走族30人に囲まれたが、空手と中国拳法を使って1人でやっつけ、解散まで追い込んだことがあった。迷惑していた人達は喜んだが、その話は尾ひれはひれがついて、余りの怖さに友達までもが近寄らなくなってしまった。「魔人」とか「ブッコミの朔太」とか言われ、「30人のうち半分は殺した」という噂まで流れたようだ。
「まあ、お金も増えてるんでしょ? 大丈夫よきっと。お金は正義だわ」
「そんなあ~」
確かに家族の問題に他人が口出すような事でもない気はした。しかし、溜まっていた悩みを打ちあけることができただけでも気持ちは楽になった。
札幌行きはまた今度ということになり、朔太も別にすることもないので依里亜とまた一緒にいることにした。
まあ、なんかあったら考えるかあ、と思っているとレビの画面がブブッと音がして切り替わり、大きな音でアナウンスが流れた。
(運営)『ザゲコスをお楽しみの皆様こんにちは。運営からのお知らせです。久しぶりのイベントを開催致しますので是非ご参加ください』
レビの画面にもお知らせが流れ始めた。
依里亜たちは長々とこの世界にいるように思えるが、転送してから1ヶ月も経っていない。イベントは初めてだった。
(運営)『地域ごとになりますが、仙台でのイベントはオリハルコンなどのレア金属もゲットできますので皆様是非参加してください』
なんかやっとゲームらしくなってきたわ! と依里亜が思って家電たちを見ると、オリハルコンと聞いたせいか目を輝かせているように見えた。
目はないけれど……といつものように突っ込もうと思ったら、レビが普通に『( ✧︎ω✧︎) キラーン』という顔文字を出していた。




