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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第1章 無生物テイマー、恋人を探す
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Cと商品

『依里亜さん、残念でしたね』


 とレビ。


「いいの、最後までテイマーとして、あと元ソフトボール部員として戦えたから。悔しいけど満足してるわ」


 依里亜のHPゲージが消えるのと、朔太の場外のどっちが早いかは、ビデオ判定うんぬんの前に本人たちが一番わかっていた。


『朔太さん、優勝おめでとうございます』


『バタン! 』


(ピー! )

『さくたさん かーどたくさん つかってた』


 マイカはお祝いを言いたくないようで黙っていた。


 いつの間にか増えたギャラリーからも拍手喝采が起こる。


「朔太、強かったわね。おめでと。で、優勝商品の希望は?」


「あ、それはね決めてたんだ。これでいく」


 というと『C』のカードをだした。商品をもらえる立場なのに何かを出すの? とみんなの頭の上に「?」がたくさんついた。


「みんなで食べようと思ってさ。ちょっとしたパーティということで。観客の皆さんもどーぞー! 『Curry(カレー)』」


 というと、業務用寸胴(ずんどう)鍋がいくつも出てきた。中には既に出来上がったカレーが入っている。お皿とスプーンもいまここにいる人達以上の量が出てきた。もちろん、炊きたてのご飯が入ったどデカい炊飯器も。いわば炊き出し状態である。


「カレーがパーティか! いいね! 家電たちは食べられないけど。でも楽しそうだからいいか。みなさーん!カレーを無料でお配りしまーす。どーぞー」


 観客たちもその美味しそうな匂いに釣られてぞろぞろとフローリングに降りてきた。


 何人かに手伝ってもらい、お皿をもって並んだ人達にカレーをついだワイワイと食べた。


 家電たちは観客の子供たちと遊んだりしている。マイカが特に人気のように見えたが、本人の気持ちはわからない。


 一通りカレーの配布が終わった依里亜は、おかわりもあることをみんなに告げ、自分の分を持って舞台の端に腰掛けカレーを食べている朔太の隣に座った。


 朔太に話しかけようとしたが、余りにも一心不乱にカレーを食べていたので、しばらくその横顔を眺めてからカレーを食べた。


 食べ終わって話しかけてきたのは朔太の方だった。


「いつから狙ってた? 場外」


「鞭を切った後くらいかしらねえ」


「舞台はいつテイムしたのよ? 」


「いつだったかしらねえ、でもだいぶ前よ。出来ないかなーと思って試したの。そしたら『1回ならいーよー』って舞台の声が聞こえて」


 ほんとに聞こえたかどうかはわからなかったが、依里亜が聞こえたならそうなのだろうと思った。


 依里亜は試しに座っている舞台に手を触れてみたが、いまはもう声は聞こえないし、テイムも解除されているようだった。


 特に愛着もないのに舞台がテイムできたのは偶然だったのか。確かに仮想舞台を作るシステムだから、そこに家電たちと同様の電子部品がたくさん詰まっているはずであり、依里亜の必死の思いが魂を通じて1度だけの奇跡を起こしたのかもしれない。


 鉄球は、電子部品が使われていないのでテイムできなかった、ということであろう。電子部品の有無に関わらず依里亜が無生物をテイムできるようになるのはもう少し先の話であるが、彼女自身はまだその事を知らない。


「というか、このカレー美味しいけど後片付けは? 」


「いやいや、思った時に消せるよ。食べたカレーは何故かお腹の中に入ったままだけどね。たぶん所有者が変わるってことなんだろうね。カードで出したものがいつまでも消せなかったら、普通の戦いでドラゴンとか出せないよ。テイマーでもあるまいし」


 というと朔太は爽やかな笑顔を浮かべた。

 依里亜は、この笑顔に弱かった。顔が赤くなるのを誤魔化すように付け加える。


「よくCurry(カレー)の『C』を1発で出せたわね。あと、カード何枚? 」


「あと8枚だよ。これね、戦いの途中で出したんだ。勝っても負けてもみんなでカレー食べたら楽しいだろうなって思ってとっておいたよ。」


「カード温存してたのかよ。そんな人に勝てるわけなかったわー! 」


 というと、依里亜は舞台に両手を伸ばし仰向けにひっくり返った。


「あー、そういやレイピアさ、PvP終わったから直ってるけどさー、もう少し丈夫なのに変えた方がいいんじゃないかな? いくらなんでも蹴りでヒビとかはダメでしょ」


「それは朔太の蹴りの威力がおかしいのよ! 普通は折れない! けどそうね。サイズとかは同じくらいがいいけど、お金もあるしもう少し高いのが欲しいわねー。朔太は本当に優勝商品いらないの? 」


「うん、特に欲しいものないしねー。」


 というと、少し考えてからこう言った。


「あーじゃあ、()()()()()()()()()()()()()? 」


「札幌? 」


 確かに、朔太の実家は札幌だ。え、なにこれプロポーズ? とドキドキしたけど、すぐにあれ? と思い直す。


 同棲をする前に両親には会ってるし、依里亜に結婚願望があまりないのも知っているはずだった。


 札幌に行く理由はともかく、私が横浜に行くことはまだしばらくなさそうね、と依里亜は思った。



 帰り際「体育館内は飲食禁止ですよ」と職員に怒られた。


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