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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第1章 無生物テイマー、恋人を探す
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ドラゴンと出し惜しみ

 首をもたげたドラゴンは大音量で咆哮した。耳をつんざくその声は恐るべき凶悪な殺意を含んだ韻律で、これ以上ない不安な行く末を予兆するかのようだった。そして、その首を振り下ろすと同時に青白い炎を(まと)ったエネルギー弾を四方八方に撃ちだした。



「つーか、ドラゴンとかどうでもいいし」


 と依里亜は、やるべき手順を確認した。なんてことはない。想定内だ。武器を出しても別に問題なし。それ以外もほとんどの場合はセーフ。唯一()()()()()()()()()()()()()のだけが怖かった。空を飛ぶものなどは論外すぎて眼中に無い。


 先程から依里亜がいるところに、ドラゴンのエネルギー弾が撃ち込まれている。その威力は凄まじく着弾した瞬間に舞台を(えぐ)り、あちこちで火の手があがる。


 朔太は、依里亜のこれまでのスピードを見て、ドラゴンの攻撃なら通用すると思っていた。圧倒的な移動速度。高速で連射可能なエネルギー弾による攻撃。あるいは広範囲かつ継続的な攻撃であるドラゴンブレス、近づいてからの有無を言わせぬ噛みつき攻撃、などなど。


 もちろん、直撃すれば依里亜のHPは一瞬で消し飛ぶ。そんなに防御力もHPもない。それだけの威力はあることはわかっているが、まあ何せ当たらない。移動速度だけはドラゴンなど遥かに凌駕(りょうが)していた。


 適度に逃げ回るふりをしてドラゴンの攻撃を朔太に誘導した。


『Guard』で、防御力を爆上げしている朔太にドラゴンの流れ弾で効果的なダメージが入るとは思っていない。あるいは自分で出したものなのでノーダメも想定内。爆風で舞台の端に少しでもいけばよし、風の影響がなくともその勢いに気持ち的に押されて1歩でも2歩でも下がればそれでいい、くらいのものだった。


 それより、ドラゴンの弾で上がる爆炎や煙で依里亜が何をしているか目くらまししてくれているのがありがたかった。


 何度か勝つための最後の確認をしているがうまくいかない。最後は神頼みになるかもしれない。



 一方、朔太は突っ立って考えていた。ドラゴンは出したものの、どうにも通用しておらず攻撃は1度すら当たらない。挙げ句の果てにドラゴンは誘導され自分に向けて攻撃までしてきた。思わず後ずさりしてしまったが、もちろん自分のスキルで出したものなのでノーダメだ。


 このままではジリ貧なのは確かだ。そして気づく。やはり自分自身で戦わないと勝ち負けは決まらないと。


 それならば、自分自身の能力をあげるしかない。どうする? 防御力はすでにあがっている。倒すにはダメージを与えるステータス。攻撃力? 魔力? すばやさ? 器用さ? なりふり構っていられない。


 ドラゴン出されても余裕とかねえわ。


 朔太はさらに1枚引いた。


「『A』か、それなら『Attack(アタック)』あげるか」


 朔太の攻撃力がイメージできる範囲で上がった。


 いやあ、こんなにカード使いまくったら、あとで依里亜には怒られそうだな、と思いつつもすでに引き返せないところまで来ていた。


 朔太は先程放り投げた特殊警棒を拾い、依里亜に接近した。珍しく朔太からの攻撃に慌てて依里亜はファイアを撃った。が、当たらない。警棒を上段から振り下ろす。スピードに優る依里亜には当たらなかったが、勢い余った警棒が舞台を粉砕する。攻撃力のアップにそこで依里亜も気づいた。


 そんなことは全く関係ないとばかり、依里亜の後ろからドラゴンがブレスを吐いた。周囲に気は配っているものの挟み撃ちは厳しい。ギリギリでかわしたところに朔太の後ろ回し蹴りが飛ぶ。前に重心が乗っていて避けきれなかった。首に当たり横にすっ飛ぶ。かなり攻撃力があがっているようでHPの減り方が異常だ。


 横に転がり距離をとって起き上がる。起こした顔を目がけて警棒が水平に振られる。しゃがんでかわすとそこに膝蹴り。とっさに横にずらすが、さらに1歩進んでのミドルキックがボディに入る。


 蹴りの勢いに合わせ一緒に飛ぶ。しかし、全てのダメージを逃がしきることはできない。あばら骨が軋む音がした。折れたか、ヒビか。ゲームなので痛みは感じないが、HPとは別の部分のダメージが蓄積してきている。


 確かにクイックで動体視力も体のスピードも上がっているが、体勢を崩されたり惑わされたりすれば、それを100%発揮することはできない。集中力も戦いの長さと比例して低下してくる。従ってどれだけ速いからといって、全ての攻撃をかわせるわけではない。異次元を使って瞬間移動をしている訳ではないのだ。


 スピードを上げ依里亜も反撃をする。朔太はレイピアを警棒で防がずに横からの蹴りで軌道を変えた。そのプレイヤースキルは驚嘆に値した。攻撃スピードだけ見れば今の依里亜と変わらない。レイピアにヒビが入るのが見えた。


 攻撃力を上げてるとは言え、朔太はスキルに頼らない方が実は強いんじゃないかと思った。


 ドラゴンが体当たりのために急降下してくる。どちらに避けるべきか。一瞬迷った。右に低くジャンプした足元に下段回し蹴りを上手く当てられた。ダメージは低かったが転倒し、ドラゴンの爪によるダメージまで食らった。HPが半分を切る。ポーションはもうない。


 だが、依里亜は「もう一度今のパターンの攻撃来い」と思った。なぜなら、朔太はドラゴンの攻撃と共に一旦離れる素振りを見せたからだ。チャンスだ。


 立ち上がりヒビの入ったレイピアを構える。わざと隙だらけのように装うのはどうせバレるので、きっちりとオーラメラメラのイメージで構えてみた。


 右の上段蹴り、左の下段蹴り、右の上段蹴りのフェイント、そして前蹴りが来た。前蹴りを腕を交差して受ける。直後ドラゴンがまた降下してきた。コンビネーション。依里亜が待ち望んでいたシチュエーションだ。


 ドラゴンの爪が当たったように見えたが、依里亜は軽々とドラゴンの攻撃をかわしていた。気づくと遥か離れた場所に立っている。


 何が起こったかわからずあっけに取られる朔太。ドラゴンもキョロキョロしている。


 なんてことはない。今まで【()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけの話だ。


【クイック】のスキルは【使()()()()()()()3()()()()()】効果があった。


 接近戦から離脱すると、朔太にも見えるように少しスピードを落とし、作戦どおりのポジションに誘導する。


 朔太も体勢を立て直されたくないはないので追いかけるしかない。


 よし来た!依里亜は想定していたポジションに朔太が差し掛かった瞬間に体を180°反転し、朔太に向かって走り出した。


 しかし、朔太も出し惜しみはしていられない。


「『Zoo(ズー)』!」


 スペルを唱えていないカードがもう1枚あった。


「あー忘れてた」


 依里亜は慌てたが時は既に遅しである。

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