何でもありと縛り
朔太は依里亜の返事を待たずにカードをもう1枚だした。
戦いに使うカードは3枚という口約束。1枚はガムになったのだからもう1枚という計算だ。もちろん依里亜は許容した。この駆け引きで大事なのは油断させることだ。
朔太が余裕を持って3枚を、それも他のカードを隠し持つことなく引いた上で、じっくりと考え、依里亜にこれなら勝てると思ってくれることだ。
そして、依里亜がHPを減らすための攻撃ををしてくると思い込んでくれること。
「まずはこの3つのスキルをなんとかしのぐのが厄介なんだけどね。」
『Z』
アルファベットの最後の文字。
「戦いの最後に相応しい1枚だね。このカードは後で使うね。じゃいくよ」
というと、朔太はM134の前に進んだ。Mで始まるハンバーガー屋で、前の人が進んだから僕も進みました、くらいの感じだった。
M134。「7.62x51mm NATO弾」という単三電池よりも長い弾を超高速で撃ちまくるバカみたいな銃。別名「無痛ガン」。撃たれたら痛みを感じる前に肉片になる。
朔太はそれを遠慮なしに撃ち始めた。
「おまえは地球を救うために未来から来た筋肉ロボット『T』か。あ、なんか設定だけだと、青いネコ型ロボットと同じじゃん、今更気づいたわ」と言いながら依里亜もまた超高速で逃げ出した。
朔太は予想通り反動に振り回されて全然違うところを撃ちまくっている。
見ているレビや以蔵たちも逃げ惑ってはいるが、PvPの参加者ではないからか、当たってはいるように見えるがダメージは食らってない。
「うわ、めっちゃ当たってる。あはは」
と、思わず笑ってしまうほどの勢いで直撃しているように見えた。
依里亜はとっとと壁走りをし、観客席に逃げていた。ここは場外ではない。
やっとコントロールができるようになってきた朔太が依里亜を狙って撃ちまくる。ものすごい勢いで撃ちまくっている。移動しながら時々顔を出してさらに撃たせる。
撃ってみてまだ気づかないのかなと思った。観客席は非破壊オブジェクトということに。PvPのルールの中では、核爆弾を落としたとしても、全4500席の木製の椅子からは木屑すらでない。
朔太がもう1つ気づかないといけないことがあった。いくら優れた武器であってもスキルで攻撃しているのでなければ弾切れすることに。
朔太のスキルはイメージを描いたものを出して終わりである。その時点でカードは消える。出されたものが弾を撃つものであれば、出した時点の弾は決して増えない。
だからこそ、連射速度は早ければ早いほど失敗なのだ。
それこそあっという間に、気づいた時には弾が尽きる。
だから、怖くないのだ。
なんてことはなかった。思っているより早く弾切れになった。朔太は明らかに「失敗した」という顔をしている。逡巡しているようにも見えた。「これはもう1枚カード引く」とも思った。というか引かないと戦えないだろう。
そして、引くとしたらグタグタやりとりはせずにとっとと引いた上で、勝負が終わったら「ごめんね」の一言で終わらせるだろう。
だから、朔太がカードを無言で出した時「やっぱりね」としか思わなかったし、文句を言う気にはならなかった。
おそらく、次は弾を使わず手に持って戦える武器にすると予想した。というかそれしか選択肢はない。
しかし、朔太は予想以上に悩んでいた。遠慮なく『Death』で、即死させられないこの戦いに。バーリトゥードとは言いながらも、実はルールもあるし、精神的な縛りがあるこの戦いに。
当初思っていたよりも依里亜の【クイック】が非常に厄介だった。鞭のスピードを見切って動く依里亜に、通常の他の武器はまず当たらない。
依里亜の攻撃はそこそこ当たってもいいから、こちらは攻撃力だけに頼っていいが、確実に当てられるもの……でも、飛び道具もダメ。……魔法で舞台を焼き尽くす? 確かに自分のスペルでダメージは受けないがそれは戦いかな?
色々考えた末に朔太は結論を出す前に考えることを放棄した。なんとかなるだろうと思った。朔太の百戦錬磨の自信からの答えだった。プレイヤースキルに頼らず、自分に頼らず、他のものに任せる選択をした。
「……【カード】……『D』か……」
朔太は一瞬躊躇したようにも見えたが、遠くにいる依里亜にも聞こえる声でスペルを唱えた。
『Doragon』」
空中に巨大なドラゴンが姿を現した。
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