骨折と勘違い
本日2話目の投稿です。
「『Bomb』『Iron』『Volt』!」
依里亜のいる所に複数の爆弾が出現する。ダッシュしてかわした直後に爆発が起こり、地面が抉れる。爆発による損傷は、爆風や飛んできた破片によるものが非常に大きい。爆心地に向け背中を向け丸くなるがダメージはどうしても入る。爆音によって耳が一時的な難聴状態になる。
が、朔太が唱えたスペルは3つ。すぐに周辺の気配を察する。起動のタイムラグが終わった「鉄球」か20個ほど降ってきた。砲丸投げのサイズ。直撃はまずい。狙いが絞られていたので距離をとってかわす。近くに来たものを【ファイア】で撃ち払う。
が、1つが左肩を直撃する。骨が折れる鈍い音がした。依里亜が顔をしかめる。ポーションやヒールでも完治には時間がかかるパターンのダメージ。
そんな依里亜を気遣うことはなく、雷雲が浮かぶ。「サンダー系のスペル」と判断した依里亜は、レイピアを捨て、鉄球を1つすばやく拾うと上に投げた。誘導された雷系魔法がそこに落ち、鉄球がその衝撃ではるか遠くに吹っ飛ぶ。
「あー、しまった。雷出す時に金属出しちゃった」
「朔太、あなた戦い慣れすぎ! 」
2人とも向き合って立ちながら、隙は見せないようにしている。依里亜は左手にヒールをかけ続ける。
朔太はこのまま追い込む事もできたが、ある程度は待ってもいいだろうとも思った。それは朔太の自信もあったが、モンスターでもないのに、怪我している相手に対し手を緩めないのは自分らしくないと思ったからだ。正々堂々と戦い、それで勝ってこそ本当の勝利だ、と思っていた。
「まー、そうだな。ずっとパーティ組まないで1人で戦ってきたから、色々試したよ」
「最初のスペルで『ハズレだ』って言ってたわよね。それでわかったわよ。何度も何度も戦ってきているって。」
「依里亜たちが倒したサイクロプスいたよね。あれの上位亜種の『アームドサイクロプス』っているんだけど、俺はそれを1人で狩れる」
「……」
「その時、カードは5枚しか使ってない。あ、3匹同時ね」
確かに戦いの相性はある。が、話を聞く限り戦力差があり過ぎるのでないか、とも思う。となると、なんとか隙をついての場外に押し出すしか勝ち目はないだろうと考える。とてもではないがHPを削りきる自信はない。
「で、……この3枚同時スキルって何? 」
依里亜は息を整えながら、今の状況を突破する戦略を考える。肩が治るまでの時間稼ぎをしながら。
「え、前もってちゃんと教えたよ?『発声するか、念じればランダムにカードが1枚出る』って。」
ハッとする依里亜。朔太のあからさまな【カード】という声に釣られていたことに気づく。
「んで、出したカードは、使わないと次を出せないとは一言も言ってない。」
つまり、朔太は色々なタイミングを利用し、ポケットに入れた左手、後ろに回した左手、に「念じ」てカードを出しまくっていたのだ。時々【カード】と発声する事で、カードの出し方、出ているカード枚数を誤認させていたのだ。タイムラグを利用するという作戦などは全くの的外れだった。
「ちなみに今出したカードも3枚とは言ってない」
スキルの発動を終えて消えていく『B、I、V』のカードが消え、後ろにあった『H』が出てきた。




