ヘコみとハマり
「さー倒しちゃうわよー」
依里亜が腕をブンブン振り回しながら、リセットされてきれいになった舞台に向かう。
「以蔵は連チャンだけど、全回復してるし問題ないわよね」
『バタン!』
「というか、あとから思ったけど、MPを使い切ったのも、舞台の端に行ったのも、穴にはまってコケたのも全部【弾力化】を使うための作戦でしょ」
『バタン!』
「だよね、カウントダウン持ちのブンジは、爆発しない金属製の武器でも持ってなきゃ倒せないよ。触ったらアウトな相手を素手で倒すのはかなりきついよー」
ブンジの【カウントダウン】は試合終了後PvPシステムによってすぐにキャンセル扱いになった。もちろんぶつかった瞬間にカウントダウンは始動しているので、1分間空中にとどまれればブンジの勝ちであった。
かといって、10秒などのセットではHPは削りきれなかっただろう。
(ピー!)
『まけたから くやしいけれど いいしょうぶ』
『さすがだな おれがみとめた だけはある』
「なんかブンジが珍しくまともなこと言ってるー」
最近、以蔵とブンジはほんとに仲がいいなあとほっこりする。
「じゃあ、スタートの合図は俺がやるね」
朔太がマイカのボンネットの上で大きめの声を出す。さすがに愛しの依里亜の戦いであるから、マイカは全力で応援したいのだが、朔太が邪魔でブツブツ言っている。
「朔太さんずっと座ってるんですけどボンネットヘコむからやめて欲しいんですよね。あと、前がよく見えないしって、別に目はついてないんだけどドラレコで見てるんで、目の前にいるとホント依里亜さんの勇姿が見えないんですよね。どーにもこーにも邪魔ってやつですよねこれ。前方不注意でまた警察きちゃいますよ。戦闘じゃないけど朔太さんにウォッシャー毒液かけたら、どいてくれますかね。試しにかけて転がり落ちたら少し前進とかして轢いてもみんな戦い見てるから気づかないとかってオチは……ないですよねー」
朔太がじろりと目というかドラレコを睨んだのでマイカは話をまとめた。
依里亜がレイピアを構える。以蔵も準備ができたようだ。
「では、3回戦。依里亜VS以蔵を開始するよ。3、2、1、ファイト!」
「【スロー】、【バリア】からの【ファイア】 」
いつもの依里亜の戦い方。先制攻撃で流れを掴みたい。発射されたファイアをそのまま追いかけ、間を詰める。依里亜のメインのダメージソースは魔法ではなくレイピアだ。
以蔵もファイアの軌道を読み、体をずらしてからの【アイスシュート】。すでに走り出してる依里亜は速度がある分回避がたやすいので、広めの範囲で攻撃をする。
依里亜は、真正面に来た氷だけレイピアで弾くと、最短距離で以蔵に迫る。ブンジより圧倒的に速いため、容易に接近を許す。
「ファント!(腕を伸ばし突進するような突き)」
「トゥシュ!(突き)」
剣の動きが速いため、近距離まで来られると以蔵のボディでは避けきれない。なにせしゃがんだり、のけぞったりという動きができないのだ。体が硬い人の硬さどころではない。クリティカルにはならないものの、何本かに1回のペースでレイピアが当たりHPを削る。避けるので手一杯でスキルを発動する暇がない。
依里亜の攻撃のわずかな隙に以蔵が【フリーズレーザー】を発動。しかし、発射前の光で依里亜はスキルの種類、タイミングを把握。左手から出した【ファイア】を盾のようにして相殺する。
止められるとは思っていなかった以蔵の動きが鈍る。そこにさらに1歩大きく踏み出した依里亜がクリティカルヒットを決める。以蔵のHPが大きく減る。
以蔵は突かれた衝撃に逆らわず、そのまま後ろに下がり距離を少しでも空ける。アイテムボックスから手榴弾をばら撒く。
間を取り、走りにくくするため床を破壊し、体勢を立て直すためのものだ。
「それはもう見たわよ! 」
といって、爆煙の間から以蔵の後ろに回り込みクリティカルを狙った突きを繰り出す。
が、レイピアは大きく弾かれ、床に落ちる。
【巨大化】だ。
依里亜は以蔵がブンジとの戦いでこのスキルを使わなかったことには気づいていた。だからこそ、自分との戦いでは、ここぞという場面で使ってくるだろうと予想していた。それが今だ、と気を引き締め直し、床に落ちたレイピアを拾う。
高さ10mの以蔵は、攻撃があたる的としては大きいが、当たればいい訳ではない。ブンジとの戦いではこの大きさはかえって邪魔にしかならない。触られればいつもよりもさらに巨大化した氷用の水タンクは大量の爆薬貯蔵庫にしかならないから。しかし、依里亜との戦いにおいては圧倒的に都合がいい。
【巨大化】した以蔵のHPと防御力は跳ね上がる。果たして今の依里亜にこれを削りきるだけの攻撃力があるか。依里亜の1番の心配はそれだった。
試しにヒットアンドウェイで一撃を入れてみる。手応えはあったものの、HPの減りは見てわからないほど僅かであった。
「あーこりゃ、ハマったな」
朔太が落胆した声を出す。マイカは依里亜の劣勢ぶりを手に汗握って見つめている。手はないけれど。
PVが予想以上に増えました。ありがとうございます。更新時以外のアクセスも多く、どこからいらっしゃってるのかなと不思議にも思っています。
是非今後も楽しんで頂ければと思います。




