毒とP
マイカはタイヤをホイールスピンさせ朔太に突っ込んで行く。白煙が吹き上がりゴムの焼け焦げる匂いが広がる。テイムとスキルで性能が上がっているだけに軽自動車とは思えない加速だ。
朔太は待ちの戦法。カウンター狙い。速度で勝てない車に対して、追いかけていく作戦はない。試合前は余裕そうな態度をとっていたが油断はしていない。マイカの動きを真剣な目で追う。
もう少しで右か左に逃げる選択をしないと逃げ切れない距離まで迫った。朔太はグッと上半身を前傾するとマイカに向かってダッシュをした。衝突する瞬間にジャンプ。
相手の速度が速いなら、高ささえクリアできれば、飛ぶのは一瞬でいい。飛んでる間に勝手に通り過ぎていく。
朔太は空手や中国拳法をかじっている。自分の体の扱いについては限界を含めて一通り理解しているだろう。
うまく飛び越えた朔太だったが、着地後に膝を着いた。当たってはいなかったはずだ。
HPが減るのが見える。継続ダメージ。飛び越えた時に【ウォッシャー毒液】を掛けられたようだ。
スピンターンをしてすぐに戻ってくるマイカ。毒液の届く範囲はかなり広い。上でも左右でもかわすならかなりの距離を取らないと食らうことになる。
再び接近。朔太がどう逃げるか迷う。左右か? 上だと再び毒? そこに【クラクション】一定時間動きを止めるスキル。朔太は不意をつかれた。硬直しているところに【ドリフト】のコンボ。直撃。吹っ飛ぶ朔太。HPゲージが半分近く減る。【ドリフト】の攻撃力は高い。依里亜が思わず声をあげた。
転がった勢いのまま立ち上がる朔太。毒による継続ダメージ。マイカは再度スピンターンをしたあと速度をあげながら朔太に向かう。向かい合って相手の出方を見るような余裕はない。全力でアドバンテージを取りに行く。
なぜなら朔太はまだカードを1枚も使っていないからだ。HPも半分まで減りながらポーションすら飲まない。マイカは追い詰めているはずなのに、追い詰められているように感じた。
マイカには速度はあるが遠距離攻撃がない。相手を倒すにはただひたすらに肉弾戦を繰り広げるしかない。【クラクション】か【毒】の2択で足を止め、【ドリフト】で場外を狙うのが恐らく1番確実な戦い方だろう。
スピードをさらに上げ近づいていく間に、朔太がカードを初めて出したのが見えた。動揺はするが止まってしまっては勝てない。何が出ようと突っ込む道しか残されていないのがマイカだった。
朔太の出したカードは『R』。レビの画面を見ると、カードがズームされていた。
朔太は何かを呟き、そのあとマイカを飛び越えた。マイカは当然【ウォッシャー毒液】を吹きかける。最初より狙いを定め大量に掛けた。手応えはあった。
が、朔太は倒れない。ダメージも入らない。
『Resist(抵抗する)』を発動。
朔太は毒耐性を持った。治療ではなく耐性を選んだ朔太にはもう毒は効かない。
朔太が2枚目のカードを出した。すかさずレビがカメラを操り手元にズームする。『P』のカード。
依里亜たちは「Pならパンクよね」と思った。
予想外のことが起こった。急にサイレンが聞こえると舞台の上にパトカーが出現し、マイカの目の前に迫る。
思わずマイカがブレーキを掛ける。その進行方向を遮るようにパトカーが止まり、中から警察官が2人降りてきた。違反切符を切る相手はいないが、警察官たちはマイカに詰寄る。
朔太が選んだ単語は『Police』だった。あとで依里亜が聞くと「意地悪してみた」ということだったが、マイカが立ち直れない程の精神的なダメージを負ったこの時点で、もはや勝敗は決していた。
厳重注意をしている警察官の後ろから、ニヤけ顔の朔太が『O』のカードをペラペラ揺らしながら、マイカに見せつけるようにしていた。
警察官たちが消えると、朔太はスペルを口にする。
『Overheat』
エンジンから煙が吹き出し止まった。
即死スキルにも思えたが、マイカのHPはまだ残っている。戦えなくするだけの戦略は、ルール的にも問題はない。
ショックだったのは負けたことなのか、それとも警察官に怒られたことなのか、マイカはしばらくの間、一言も発しなかった。
【1回戦結果】マイカ✕ VS 朔太〇(TKO勝ち)
本日3本目ですー




