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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第1章 無生物テイマー、恋人を探す
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テレビとアリ

 ナパソニッコ製のポータブルテレビは如月(きさらぎ)依里亜(いりあ)のお気に入りの家電の一つだ。


 10インチのサイズは、充電さえすればコードレスに部屋の中どこでも持ち歩ける。また防水仕様にもなっているため、長時間の半身浴の際、お風呂場にも持ち込める。もちろん台所にも。


 さらに便利なことがある。ソファに座る時は大きなテレビの方が見やすいだろう。依里亜の家にもそれなりの大きさのテレビはある。しかし、うつ伏せに転がってだらだらする時はどうだろうか。目の前におけば、頭や視線をわざわざ大きいテレビに向ける必要がない。至福のテレビタイムとなりえる。


 というのが依里亜の持論であった。



 そんなポータブルテレビの電源が勝手にオンになり、声が聞こえた。


 初めは予約録画でも始まったのかとおもった。


 しかし目を向けた先には普段のテレビでは見た事のない画面が映っている。


 ーーーーーー



【如月依里亜】

 Lv:1

 職業:テイマー

 スキル:【テイム】



 ーーーーーー


「おお!私テイマーなんだ! テイマーってモンスター操るやつね!というか他にステータスないのかなこれ」


 タッチパネルもついている画面を押したりスワップしてみたりすると、体力とか魔力とか敏捷性とかのページも出てきたので確認したが、全部2桁の数値で別に極振りでもなんでもないし、凄いのかどうかわからなかったので見るのを辞めた。


「それより私のスキルってテイムしかないの?もっとこうチートっぽい能力とかないのかしら? 」


 ステータス画面からは変更のできそうな、コンフィグとかアイテムインベントリとかは全く出てこず、【設定】というところを押しても、『チャンネル設定』やら『音声・字幕の切り替え』やらの普通のテレビの設定しか変えられなかった。


「というか、なんで私のステータスは、半透明みたいな画面が目の前に! みたいな感じで現れないでテレビに出てるのよ!そりゃテレビは大好きだけれども……。名前も本名のままだし、ゲームなのに身バレしちゃうじゃないこれー!! 」


『まあまあ』


「……しゃべった? 」


『会話できますので』


「ずっと独り言言ってたの聞いてたの? 」


『まあ』


「うわあ……」


 依里亜は恥ずかしいやら困惑やらで一旦会話を辞めたが、画面に向かって話すのはスマホやタブレット、パソコンを使っていれば慣れたものだ。聞きたいこともたくさんあったので、再び話しかける。


「あなたの名前はなんていうの? 」


『お好きにつけていただいて結構ですよ』


「それじゃあ……テレビなので、【レビ】にしよう! お!なんかかっこいー! 」


『ありがとうございます。』


 レビの声はアナウンサーのようによく通る女性の声だ。人工音声的なデジタル感はない。


 名前も決まったことなので、色々分からないことを聞いてみた。


 ・依里亜のステータスを表示できること。

 ・レビのステータスを表示できること(レベル1でスキルはなしだった)。

 ・地図を表示できること。

 ・この世界についてはよくわからないこと。

 ・恋人の秋月朔太については連絡先も含めてわからないこと。

 ・録画されたものについては見ることができるが、現在テレビ放送の類はやってなさそうということ。

 ・ついでになくしたスマホについても聞いてみたがわからなかった。


「あなたって微妙に便利そうでイマイチ使えなそうね」


『テレビだからといってきついこと言わないでください……泣きますよ? 』


「え、ごめんごめん。これからも仲良くしてね。うんうん」


 家電のご機嫌を取るのは初めてのことであった。



「さて、じゃあちょっと色々試してみたいんだけど、その前にまずはテイマーの能力について、かしらねー 」


『一般的には敵対するモンスターの類を、弱らせたり気絶させたりしたあと、手懐けて飼い慣らし、次の戦い等で戦わせることが多いですよね。』


「レビ詳しいね。検索とかもできるの?」


『いえ、いままでの放送されたアニメ番組とかでちらっと見たくらいの知識しかありません。ちなみに、テイムしたモンスターは召喚ではないので、パーティとしてゾロゾロあとをついてくることが普通です』


「テイマーと召喚士の違いってやつね。できるだけもふもふな動物をテイムして連れて歩きたいけど、仲間にするためにダメージ与えるのがちょっと抵抗あるのよねえ。まさかその辺を歩いてる犬とかをいきなり殴りだしたら逮捕されるわよね? 」


 流れで口にしたとはいえ、依里亜は自分の思いつきに顔をしかめた。


「かといって強そうで怖いのを連れて歩きたいともあんまり思わないけど、なんか【はじまりの森】的なとこに行くことになるのかしらねえ」


『では、地図を表示します』


 レビの表示した地図は、大手検索サイトのググリーナMAPのような感じで、縮小拡大もできるし建物名まで見ることができた。思いっきり日本語で表示されているが、今いるところが日本なのだから、と気にしないことにした。


「あれ? これ仙台市から外側は表示しないわね」


『表示できるものは全て表示してますので、どうなってるかとか、どうして表示しないのかはわからないです』


「ほんとに何もないのかもしれないし、一旦たどり着くことによって表示されるシステムかもしれないけどまだわからないわね。実際に行ってみようかしら? 」


 と言ったものの、肝心なことに気づく。


「テイムするまでにダメージを与える武器がないわね……。包丁は料理では使うけど、モンスター退治に使うには慣れるまで自分が怖いし、すりこぎ棒と金槌にしようかな」


『かなり物理攻撃振りのテイマーですね』


「よし、レビも一緒にいくわよ。外でもお話できるか確認したいし。ちょっと大きいけど少し厚みのあるタブレットと思えばいいでしょ」



 駐車場に停めてあった軽自動車に乗り込むと、レビを助手席に置いた。


「とりあえず仙台市の南端まで行って見るね。途中で何か気になったことがあったら寄り道もするから」


『了解です。ドライブ初めてですー。楽しみです』



 車道は結構混んでいる。対向車を見ると時々ドワーフとかオークとかミノタウロスみたいのが運転しているが気にしないことにした。


 15分も走るとコンビニのイレブンセレブンがあったので寄ってみることにした。


「レビも一緒に行く?」


『はい。ぜひ』


 と、空気を読んで自分でボリュームを下げたのが見えた。



「いらっしゃいませー」


 売ってるものは前の世界と同じものがほとんどである。飲み物のコーナーにはジュースやビールと並んで、ポーションやMPポーションが売っている。普通のポーションは300円。ハイポーションは500円。高いのか安いのか考えながら依里亜はサンドイッチに手を伸ばす。


 客層がいいか悪いかは判断がつかない。コボルトやスライムが買い物するのは初めて見るので。


 スライムの買い物は大変そうだなと見ていると、ぴょんとカウンターに飛び乗り、もぞもぞとお金を体内から出して、買ったものをうぞうぞと体内にしまっていた。


 さすがはコンビニと思ったのは、安い武器や防具は売っていたことだ。スペースの都合もあるだろうが、ダガーとか手裏剣とか木の盾などが置いてある。いまは自分に合う武器がわからなかったので買うのはやめておいた。結構高かったせいもある。もしかするとホームセンターや大型スーパーにいけば武器はたくさんあるかもしれないと記憶に留めた。


「普通に【円】で買い物できたね」


『よかったですね。気づきました? 店員さんはたぶんメデューサでしたよね? 髪の毛が蛇でしたし』


「たぶんそうねー、だから目は合わせないようにしてたけど大丈夫みたいね」



 依里亜の運転する車は大きな橋を渡り川を越える。このまますすめばもう少しで隣の市との境までくる。


 歩道を歩いているのは、人間と人間以外が半々と言うところである。コンビニ以外の建物も前の世界と代わり映えはしない。病院、警察、消防署などの公的機関も見た目はそのままであった。


 住んでる生き物だけが少し違うと考えればいいのかもしれないが、依里亜はこれから戦闘をしてレベル上げやテイムをするのだと思うと、頭と心がずれてしまうような感覚にもなった。少し緊張してきた。


 そこで、大きめの公園に車を停めることにした。


『どうしたのですか? 』


「ちょっと試してみたいことが……。ちょっと一緒にきてね」


 依里亜は公園に入ると、地面を見ながら歩き出した。


「あ、見つけた!」


『アリですか? 』


「そうそう、経験値とかテイムとか考えると物凄く弱いものから試して見ようかと思って」


 依里亜はそう言うと、しゃがみこみ巣の周りでウロウロしているアリを1匹掴んだ。掴んだアリに物凄く短いHPゲージが現れた。ゲージの上には【アリ】と名前が出ている。


「ほら!戦闘になったからゲージが出てきた! これ倒せる! 」


『……戦闘ですかねえ』


 プチッ。少し迷ったが思い切ってそのアリを潰した。潰した感覚は決していいものではなかったが、アリはHPゲージを振り切りモザイク状のデジタル模様になって消滅した。


「おおっ! 」


『おおっ!!』


 アリがデジタル的な存在であることを確認した依里亜は、殺す心理抵抗も少なくなり、プチプチとアリを潰し始めた。アリにとってはラスボスによる一方的すぎる大虐殺である。


「これはチートね! チート!」


『違うと思います』


 しかし、10分もやっていると、飽きてきたのと積み重なった罪悪感がすごく、レベルが上がる前にカルマ値が上がりすぎていくようで、体より心が死にそうになったのでやめた。


 何匹かのアリは弱らせてからテイムをしてみたが、1匹も従うアリはなかった。アリすらテイムできないなら、何も飼い慣らすことはできないよなあ、やり方が違うのかなあとも思ったが、もう心が限界だったので殺すのも半殺しにするのも終わりにした。



「ねえねえ、レビ! 私レベルあがった? 」


『見てみましょう!……レベル1のままですね……。依里亜さんのレベルは、2に上がるまであと経験値16必要ですけど……。あ、戦った敵? のステータスとか見れますね。』


「私にも見せてー」


『アリ1匹倒して得られる経験値って0.05のようですね』


「小数点以下の経験値のゲームって初めて見た……」


『……』


最初のバトルシーンでしたwww

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