顔文字と無限ケーキ
「楽しかったけどしばらく戦いはやりたくないわねー」
マイカに乗り込み実家から帰るために出発した。
サイクロプス戦のおかけで、全員のレベルは10を超えた。
マイカがベラベラ何かを話しているが依里亜は聞いてなかった。
「最後のブンジのスキルなにあれ?」
『たぶんですねー、ミーティングとサイクロプス戦の間にレベルアップして覚えたんですね。んーと、【カウントダウン】だそうです。【触れたものの水分を爆発させる。カウントダウンタイマーの時間が長いほどダメージ増大。水分を使うので金属など一部の敵には通用しない】だそうです。今回はたぶん30秒くらいでしたね』
(ピー!)
『おれのわざ きょじんであろうが ふきとばす』
「ブンジが最後に顔面を殴ったのはそのためかぁ。なるほど、スチームは外から、カウントダウンは中からの攻撃って感じね、いかにも電子レンジっぽくていいわね。で、ブンジはなんだかんだいって以蔵が大好きなのね」
といってブンジを見ると、開けたドアから白い水蒸気を出して止まったふりをしている。演技が見え見えだったのでスルーする。
「ねぇねえ、レビはのスキルは?」
『私は【弾力化】と【スマイル】です……』
「なにそれー」
『【弾力化】は本体が柔らかくなるスキルです……』
「もふもふではなく、ツンツンプニプニできるスキルね!もう一個は?」
どうせ運転はマイカ任せなので、依里亜はレビをつんつんする。
『別にツンツンプニプニのためではないと思うんですけど、柔らかくなるとしか書いてないのでよくわからないです。【スマイル】はスクリーンセーバーみたいなもので、画面に顔文字を表示して感情を伝えることが出来ます……』
「へーやってみて? 」
というとレビの画面いっぱいに『\(^o^)/』とか『(^_^;』とかの顔文字が映った。
「ちょっと顔文字の種類が古いわね。それ出しながら【声真似】スキルもしてなんかボケて? 笑いとって? 」
女性は時として残酷なのである。
レビが黙ったので見ると画面いっぱいに『(T_T)』マークが出ていた。なるほど、わかりやすい。でも、Lv10まで待つようなスキルじゃないだろ、とも思った。
以蔵はポーションとヒールを使いまくってなんとかドアはくっついたが、ドアの開け閉めはぎこちなくなっていた。欠損するほどのダメージは治らないか、後遺症になるのかもしれない。しばらくは様子見をする。
「以蔵はよかったわねー。ドアが直ってー。心配したわー。私あのあと『どうしよう!冷気が逃げるのが止まらないわ!』とか思わず言ってたわよね。あはは」
誰も笑い話なのかどうかよくわからなかったが唯一以蔵だけは喜んでいた。
『ギィー、バタン!』
しかし、ドアの開け閉め音はお化け屋敷のドアのようになっていた。これでも一応喜んでいる。
レビが説明をする。
『以蔵さんも2つスキル増えましたね。1つは【フリーズレーザー】【相手を凍らせる魔法攻撃】ですね。アイスシュートは氷をぶつけますが、これは直接相手を凍らせるという違いですね。』
「タンク役も物理攻撃も魔法攻撃もできるなんて便利ねえ」
『あともう1つは私と同じ【弾力化】。たぶん歩く時の『ガコッ、ドカッ、バタッ』って音はもうしなくなるんじゃないですかね。依里亜さん、ツンツンプニプニするなら以蔵にしてやってくださいよ』
『ギィー、バタン!』
「YES」を表す以蔵のドアの蝶番は柔らかくなっていなかった。
「お母さんたちもLv10は行ったんだけどしばらく戦いはいいって。で、帰り際にスキルを聞いたんだけど、【女帝】が【捕虜】と【無限ケーキ】と【死刑】を覚えたって。」
『【死刑】より【無限ケーキ】が気になりますね』
「それで、【魔女】も【妖精】もスキルレベルがあがっただけで、新しいスキルは覚えていなかったわ」
『今の段階でも相当チートですからねえ』
「それがね、それで終わらないのよ」
『え? 』
「職業が【トリプルジョブ】から【マルチジョブ】に変わっててね、これからレベルが10上がるごとに1つずつ職業を増やせるんだって。」
『えーと? 』
「さっそく【マーメイド】を選択してたわ。」
『へえ』
レビは「(^^;)」を表示した。
「お父さんはね。レベルあがっても全くスキルは覚えなかったんだけど、気持ちをいれると、足が八本まで増えたり、おでこから角が生えたり、馬の体に羽が生えたりするらしいわ」
『馬の伝説てんこ盛りですね』
「でも、全部スキルじゃないんだって。走る速度も倍以上になって、角が生えたら回復もできるし、羽で空も飛べるんだけどスキルではないの。気力らしいわ」
マイカはマイペースでずっと何かをしゃべっている。「依里亜たん」とか「アイラブ依里亜」とかが聞こえてくるが何を言ってるのかはよくわからない。
「そういえば、この間以蔵とブンジが部屋の中で戦ったじゃない?」
依里亜の話を聞いた2人がバツの悪そうな顔をした、ように思えた。顔がないからわからない。
「それでね、みんなもレベルもあがって、攻撃スキルも覚えたし『PvP』に挑戦するのもいいかなって思ったの」
『プレイヤー同士の戦いですね! 』
「そうそう、この【ザゲコス】って、ゲームだからきっとそういうのもあると思うのよね。絶対に死なないけど仮想バトルできるシステムがー」
『そうですねーありそうですね。確かにお互いのスキルをよく知ることは戦略発展にも繋がりますね。依里亜さんの新スキルも使えそうですし』
レビの画面を覗き込んだ依里亜は、自分のスキルを確認すると口に人差し指を当てて「シー」と言った。レビはそれで黙ったので、依里亜の新スキルについての話はそこで終わった。
「それじゃあ、バトルでしこたま貯めたドロップアイテムを売りがてら、市役所で聞いてみましょうよ。マイカ! 家に帰るんじゃなくて市役所向かって! 」
『ああ、直接のご命令ありがとうございます。喜んで向かわせていただきます愛しの依里亜様、ありがとうございます! ありが……』
レビが無言で「( ˙-˙ )」を表示した。
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PvPは可能だった。場所は「仙台市運動体育館」の第2体育館。広さはバレーボールコート2面分くらい。1回2時間で1人630円(税込)。
会場内は、依里亜の部屋と違って結界を張った破壊不能オブジェクトで囲まれているのでいくら暴れても平気。
夜間は21時まで。有料駐車場あり。レンタル武器(有料)もあり。空いていればいつでも使えるが、行事予定を確認した方がいい、と。
「便利だね市役所」
『便利ですね公営事業』
実際に戦うのは後日として、組み合わせを決めるのがまた一苦労だった。
(ピー!)
『たたかいは だれがこようと やきつくす』
『ギィー、バタンバタン!』
『依里亜たんと当たった瞬間に私は壁にぶつかりに行きますよ、壁に。自分からね? なぜなら依里亜たんは守るべき存在でありブツブツ……』
という真剣な話し合いが続く。
レビはほとんど戦闘スキルがないので審判というか見学となった。依里亜、以蔵、ブンジ、マイカを入れてトーナメント形式。
敗者復活戦も入れて3位まで表彰。商品は勝敗決定後買いに行くから決めておく。
時間があれば2VS2もやろうとは言ったものの、1時間では多分無理だよね、などと言いながら家に帰ってきた。
確かに移動の時に以蔵のガコガコ音は全くしなくなっていた。静かになったねーと言いながらエレベーターを下りる。
玄関前に依里亜の恋人、秋月朔太が立っていた。
本日2本目の投稿です。
「横浜」の伏線はどうなるのか!?




