ドアと殺意
一部『残酷な表現』があります。ご注意ください。
サイクロプスの拳が直撃したと思った瞬間、父の姿が霞んで消える。
「幻影なんだよっ! 」
ワンテンポ遅れて直前と同じ攻撃体勢で現れた父が、サイクロプスの膝を蹴り飛ばす。クリティカルヒットの光が弾ける。
レビが父だけに【幻影】スキルを掛けていた。
ミシッ、ボキッという音と共にサイクロプスの膝は粉砕され、関節とは逆の方向に曲がる。
『ウオオオオオオ!!』
サイクロプスが咆哮する。
これで回転斬りは使えない。巨人の残りHPゲージは3分の1。
勝ち目が出てきたという気持ちが、パーティの空気を弛緩させる。早く倒してしまおうという気持ちで、弱点の目を狙うためにメンバーがサイクロプスの前方に集まる。
攻撃手段を減らした、移動攻撃はもうできないという油断。
サイクロプスが最後の手段に出た。後先を考えなければ可能な攻撃。パーティが1番密集しているところに巨大なハンマーを投げつけた。
横回転をしながら巨大なハンマーは巨大化している以蔵の横をすり抜け、後ろにいる依里亜たちに迫る。
依里亜は思わず目をつぶってしまった。が、大きな衝撃音がしてすぐに目を開ける。
ハンマーが弾かれ依里亜たちから遥か離れた地面に転がる。
以蔵がドアを開けて軌道を変えていた。しかし、その衝撃で以蔵のドアも逆関節の攻撃を食らい吹き飛ぶ。冷蔵庫の中身を撒き散らしながら以蔵が倒れるのがゆっくりと見えた。
依里亜は自分の血が沸騰したかのように感じ、めちゃくちゃに叫んだ。
「うわあああああ!!!」
サイクロプスは不自由な右足を引きずりながらも、倒れた以蔵にとどめを刺そうと近寄る。
依里亜の頭には母とのやり取りが超高速で浮かんだ。
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「依里亜、アリを指で潰そうとする時、視線や意識は狙ったアリ以外には向かう? 」
「んー、そうねえ、確かに狙ったアリにだけにしか意識はいかないわね」
「そんな時、靴に他の1匹が登ってきたら気づくかしら?」
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依里亜は、最小限の動きでサイクロプスをジャンプしながら登っていく。
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「では、その登ってきたアリがもし致死性の毒を持っていたら? しかもたまたま登ったのではなくて明確な殺意を持っていたら? そしてそれに気づかなかったら? 」
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依里亜は今自分が明確な殺意を滾らせていることをしっかりと意識していた。
途中でさすがに気づいたサイクロプスが依里亜を手で払おうとするが、依里亜のスピードの方が速い。
肩までたどり着く前に、依里亜はレイピアを抜いていた。弱点の目にそれを刺そうとした瞬間、視界の端に何かが見えた。
ブンジだ。
レビの【移動】スキルでサイクロプスの頭までたどり着いたブンジは、横っ面に体当たりをしたあと落ちていった。下で父が受け止める。
「以蔵の恨みを一撃でも入れたかったのね、私もよ!!」
というと依里亜はレイピアを巨人の目に突き立てた。
咆哮をあげるサイクロプスは依里亜を払おうとするが、母の【女帝】のスキル【暴力】で呼び出した精霊たちが腕を取り押さえる。
依里亜は何度も執拗に目を刺しまくった。その度にHPゲージがぐんと減る。何回目かの突きで手首までが目に深くめり込んだ。依里亜は迷いなくレイピア中を通すイメージで【ファイア】を唱える。巨人野郎の体内に直接的に魔法を、殺意を、恨みをぶつける。
1回……2回……3回……。1度目のファイアで、サイクロプスの体がガクッと揺れ、3回目で痙攣し始めた。そして5回目のファイアで動きが止まった。体内に撒き散らした魔法が脊髄やら脳からの神経やらを全て焼き尽くしていた。
依里亜は冷静さを取り戻し降りてきたが、サイクロプスのHPは1mmを残して止まっている。
とどめはどうするか……と思っていると電子音が聞こえる。
(ピー!)
ブンジの液晶パネルを見る。
『もえつきろ ボケ』
という言葉と共にレンジのタイマーのカウントダウンが進んでいる。残り12秒。
なんだろうと思っているうちにカウンターが0になり(ピー! ピー!)という電子音とともに、サイクロプスの頭が爆散した。
ブクマと評価増えました!ありがとうございます!
嬉しいので夜にもう1話投稿します。