1つ目巨人とスピード
「私たちはアリではないところを見せましょう!」
依里亜が鼓舞する。
「まず広がって! 固まってるとさっきの横薙ぎの攻撃でまとめてやられるわ! 」
全員がサイクロプスから一定の距離を取り広がる。
森の中では見つかりにくいが避けるのもやっかいだ。そして相手は木々をものともしない攻撃をしてくる。近くに見えた開けた場所に徐々に誘導する。
まずは様子見してパターンを把握するか、いや、こちらの攻撃も何が通じるかは確認しておきたい。
一応パーティ内では以蔵はタンク役ということになっているが、敵がこの大きさでは厳しいだろう。一撃でHPゲージが消滅する可能性すらあるし、耐えきれなかった時には、以蔵の後ろにいるメンバーも全滅だ。
攻撃はできるだけ「受けない」ことを選択すべきだ。
「バフデバフいっくよー!【スロー!バリア! 】【必中】よろー!あと【弱点サーチ】」
「【からみつき! 】変身からの【威光! 重税! 】」
「バタン!」
(ピー!)
「お父さんはやることなーい! 」
「攻撃くる!」
サイクロプスが巨大なハンマーを振り上げまっすぐ振り下ろす。縦切り。
地面に大穴が開き、削られた石の破片が超スピードで迫る。避ける間はなく腕で顔だけかばう。
以蔵やブンジにも礫があたる音が聞こえる。HPは減るが微量だ。問題なし。
『弱点は目です! 』
まあ、サイクロプスの弱点といえばそうだろう。1つしかないのに潰されたら何も見えないのだから鍛えた方がいいのに、という余計なお世話。
「攻撃の時、ダメージの削り量確認して!」
取り囲み、順番に攻撃することでヘイトコントロールしながら弱点続性を見極める。【ファイア】や【ウインドカッター】その他魔法攻撃は、同じようなダメージだったが、【アイスシュート】はほぼ効かなかった。魔法で飛ばす物理攻撃だからか。ブンジの【スチーム】は敵が大きすぎるとダメなのか、発動すらしない。
薙ぎ払いが来る。ボールを投げる時のように、腕をサイドから後ろに引いてからの広範囲への一撃。サイクロプスの前方のほぼ180°が削り取られる。
地面スレスレに来るのでしゃがんで避けるのも難しく、巨大ハンマーの大きさは飛び越えることもできない。結果的に距離をとるしかないが、武器の追加効果でその後に風属性魔法のスキルが来る。
瞬間的に来る見えない風を避けるの不可能だ。
そして、いままで物理的な攻撃のモンスターに慣れていたこともあり、魔法攻撃の対応は完全に後手に回った。食らってからのポーションがぶ飲みくらいしか思いつかない。
手持ちのポーションが完全になくなる前に、以蔵に各自が近づき補充する。その分動きと距離は限定される。
目を必中で狙い撃つが、弱点といっても他の部位よりダメージが多いだけで、一向に目が見えなくなるようなラッキー状態はこない。
「既に目は鍛えていたのかよ!」
という愚痴を言い終わると同時に、違うパターンの攻撃が来た。ダッシュで前進したあと、回転斬りの要領でハンマーを360°に振り回す。5回ほど回ると最後にハンマーを跳ねあげる。アッパーカットのような動きで竜巻魔法攻撃を発動。
竜巻自体は全体攻撃ではなかったが不規則な動きで周りのものを巻き上げながらかなりの距離を進む。
「あ、これヤバイ……」
かすったのは竜巻だけであったがHPの減りが今までの比でなかった。ポーションを飲むタイミングをミスると終わる。
依里亜は他のメンバーを見るが、ダメージは自分だけで安堵する。
「あ、お母さん!さっき言いかけた最後の攻略法なに!? 」
「え?風がうるさくて聞こえない!?」
まじか……ダッシュして母親に近づく。位置取りが悪かった。サイクロプスがこちらを向き、2歩進んだだけで距離は攻撃範囲内に入った。真正面。縦切りのために腕が真上にあがる。
以蔵の【巨大化】スキル発動。10mの冷蔵庫登場。サイクロプスと同じくらいの大きさ。でもハンマーは受け止められるの?
その瞬間、サイクロプスは攻撃パターンを変えた。腕を上にあげたのに、振り下ろしながら途中で軌道を変え、薙ぎ払いへ。巨大化した以蔵にはあえて当てず、後ろにいる依里亜と母を狙ってきた。
すると、以蔵がすごいスピードで横に倒れた。引越し業者なら悲鳴を上げているシーンだ。やられたのかと思ったが、自ら倒れたのだと気づいたのは、横からのハンマーもそのあとの風魔法も倒れて横になることで面を広げ、全て以蔵が受け止めたとわかってからだった。
心配するまでもなく以蔵は立派なタンクだった。
「以蔵!!」
『以蔵さんは巨大化してHPが何倍にも増えてます! まだ半分以上あるし大丈夫! 』
レビのサポート。
「ありがと!以蔵!レビ!」
母親の手を取り、一緒に距離をとる。
「さっきの攻略法の続きは!?」
「スピードの話しね。止めりゃいいのよ。」
「どういうこと? 」
「スピードってあくまで相対的なものでしょ。自分が速くなれなきゃ相手を遅くするだけ! 」
「うん。当たり前の話だったけどおかげで閃いたわ! みんな、狙いを目から足に変更! 右足の膝を集中攻撃!からの【スロー!】」
それでいいわよ、とばかりに母親はウインクをすると【からみつき】を再び掛けつつ距離をとる。
風魔法の速度を落とすことはできないが、本体の動きを止めれば、攻撃起点は読みやすくなるし、威力だって落ちる。
目標物が大きく必中もかかっているため、攻撃魔法はどんどん当たるがサイクロプスはしぶとい。ハンマーを振り下ろしてから避けた所に左手でパンチをカウンター気味に入れるようになってきた。間一髪で今のところは避けているが、なにせ相手は巨人。ただのパンチとはいえ直撃すれば無傷では済まない。
こちらが動きを読むように、同じく向こうもこちらのパターンを把握してきている。学んできている。
以蔵は巨大化でHPも防御力もあがっているからいいが、ブンジがの移動速度がきつい。足が短い以前に足がないから緩急をつけた動きが苦手でパターン化している。そこを狙われた。
母とブンジの距離が近かった。中間地点に振り下ろし攻撃。石礫を避けるために無意識に左手のある方にブンジがジャンプする。
サイクロプスはその隙を見逃さない。目は1つしかないくせに。左からのパンチがカウンターで入る! と思った瞬間、ブンジが物理法則を無視した不自然な動きでかわした。
『【移動】を強制的に重ねがけしました! 』
「ナイス、レビ! まるであなたがテイマーね! 」
一進一退が進む。なかなかサイクロプスの膝は壊れない。やきもきしていると、逃げるだけだった父が言った。
「よーし!父さんもいっちょやるか! 」
超スピードでで後ろからサイクロプスに近づく。依里亜と母は援護のため、魔法攻撃をして気を逸らす。
サイクロプスが腕を振り上げる。大丈夫だ、まだ気づかれてはいない。ハンマーの攻撃は足元には届かない遠距離の攻撃だ。
さらにスピードをあげて前に回り込みサイクロプスの膝に向かってジャンプ。空中で姿勢を変え、後ろ脚で蹴る体勢になる。
が、サイクロプスには見えていた。振り上げた手からハンマーを離すと、右手を固く握りしめケンタウロスを殴りつけた。