アリとヘイト
雑魚キャラを蹴散らしながら森の中を進む。依里亜が誰にという訳でもなく話し始める。
「さっき以蔵が巨大化したのを見て思ったんだけど、私たちそんなに大きなモンスターとは戦ってないわね」
『そもそも巨大モンスターの存在は……あ、確かに、依里亜さんのお友達は、ドラゴンとかクラーケンって言ってましたね』
移動できるくせに結局依里亜に持ち運ばれているレビが即答する。
「そうなのよ。レベル別にモンスターが出ている訳ではないから、急にすごく強いモンスターとか、すごく大きいモンスターとエンカウントしたら即死もあり得ると思うのよね。いま目の前にドラゴンとか出てきても困るし、なんなら初戦のあの火星人型タコが来てもアウトだと思うのよ」
『あのタコは確かにレベルが高そうでしたね。というかたぶんこういう話してる時点で伏線張りまくってる感じがして、嫌な予感がピリピリするんですけど』
『ズズン! 』遠くから地鳴りが聞こえてくる。
「だから、いつ出てきてもいいように対策は何かあるのかしらーって話よ。巨大モンスターに少なくともレイピアが届くとは思えないから戦闘は魔法がメイン。となると、私はともかくお父さんは逃げるだけの仕事になるわ」
「おう!逃げ足は任せとけ!」
ズレたところでは頼りがいのある父である。
「ねえねえ、アリってなんで人間にすぐやられちゃうと思う? 」
母も会話に混ざってきた。
「私たちと巨大モンスター、そしてアリと人間の関係は割と似てると思うのよね。だから、どうしてアリたちがやられるか考えたらその逆をやればいいと思わない?」
先日、嫌になるほどアリを潰しまくった依里亜は、ほんのちょっと嫌な気持ちになりながらも、強い興味を覚えた。
『ズズン! ズズン!』
「ポイントを大きくまとめると3つあると思うのよね」
母は、まるで百戦錬磨の達人のように攻略法を話し始めた。戦い始めたのはついさっきのことだと言うのに。
「アリは、予測をしない。集団を生かさない。逃げ切るだけのスピードがない。最後に、攻撃力が足りない」
「4つあるわよ」
「まあ、いいのよ、その辺は。」
『集団を生かさない、とはなんですか? 』
レビの疑問はもっともなことだ。
「アリを潰したことのない家電さんたちはわからないわね。依里亜、アリを指で潰そうとする時、視線や意識は狙ったアリ以外には向かう? 」
「んー、そうねえ、確かに狙ったアリにだけにしか意識はいかないわね」
「そんな時、靴に他の1匹が登ってきたら気づくかしら?」
「あとから気づくことはあるかもー。でも、その狙っている時は分からないと思う」
「では、その登ってきたアリがもし致死性の毒を持っていたら? しかもたまたま登ったのではなくて明確な殺意を持っていたら? そしてそれに気づかなかったら? 」
「え?」
「別にね、一撃必殺をしろって事ではなくて、役割分担をするってことよ。たとえば今のは囮を使うという作戦でもあるわよね。それはもちろん、意図せずに誰か1人が狙われた時に狙いを変えるという意味も含むわ。それは例えばタンク役がヘイト値を稼ぐってことだけでなくて、誰でもいいから意識を逸らせればいいってことよね」
「お母さんヘイトコントロールとか知ってるんだ」
「アリって人間が何かをしたら全員で逃げるわよね。たくさんいるのにただいるだけ。だから解決しない」
「お母さんがアリに対してヘイト値をあげている……」
『ズズン、ズズン』
あーこれ、たぶんなんかでっかいやつの足音だなあ、絶対そーだなー。けっこう近づいてきたなー。みんな周囲の様子を伺っているから気づいてはいるよねー。これ、話が終わると同時に戦闘開始のパターンねー。と思いながら依里亜は話を続ける。少し早口になった。
「攻撃力は魔法だからなんとかなりそうだけど、スピードはどう補えばいいかな」
母は嬉しそうに答える。
「相手のスピードを超える方法は2つ! 1つは自分が速くなる! 」
「誰もクイック持ってないって! 」
「そしたらもう1つは、あ……」
激しい爆発音と共に目の前の木々が吹っ飛んだ。1つ目の巨人サイクロプスが巨大なハンマーで薙ぎ払ったためだった。
「話終わってないのに……」
依里亜は小声で愚痴をこぼした。
本日2話目です。お楽しみくださいませー