ドリフトと溺愛
やあ、僕は【マイカ】。
愛しの依里亜さんにテイムされたトヨタサン社の軽自動車だよ。
いつもいつも依里亜さんには大事にしてもらっていて、もう何年になるかなあ。仕事に行く時も遊びに行く時もいつも乗ってくれるんだよ。
それでね、僕がいかに大事にされてるかをみんなにも教えてあげたくてさ。だってさ、こんなに愛されてる車はないと思うんだよね。だから、僕も依里亜さんが大好きなんだ。
名前はね、『マイカー』だから、【マイカ】。「私の車」だって! うわあドキドキしてラジエターの温度上がっちゃう! ちょっと中性的な名前のところがまたいい感じだよね。
名前つける前には依里亜さんはなぜだか「なんでもいいから、まいっか、まいっか」とかずっと言ってたけど、すでにこの時には名前を決めてくれていたなんて光栄だなあ。
あ、ちょっとごめん……いま走りながらだから時々黙っちゃうこともあるけど、そんな時は待っててね。……なにせテイムされてるとはいえ……はあはあ、軽自動車だからさ。660CCしかないから……はあはあ、追い越しは大変で。
……あ、もういいよ。追い越し終わった、はあはあ。
まずね、僕のスキルから教えちゃうよ。Lv1でゲットしたのは【会話】と【オートドライブ】なんだ。
なにせカーナビがついてるから【会話】はすぐできたよ。嬉しかったなあ、初めて依里亜さんに挨拶できた時は。いままでこの思いをどうやって伝えようかって思っていたから。
あ、レベルあがった。Lv5なう。
……僕ね。移動に特化しているから、走ってるだけで経験値入るんだよね。そうそう【オートドライブ】って、依里亜さんたちを乗せてる時にナビ的に自動運転するってことだけじゃないんだよ。うん。好き勝手な時に好きなところに僕の意思で走っていける。それが【オートドライブ】。
いいでしょ?しかも走ってるだけで経験値入るんだ。あ、これはさっき言ったか。でね、Lv2にいきなり上がった時は驚いたけど、これは依里亜さんを守るためのレベルアップだと気づいて感動で震えたね。マフラーとかが。あとワイパー。それとドアミラー。主にワイパーかなあ。
そりゃもう感動だよ感動! だって、Lv2でいきなり攻撃スキルだよ?【ドリフト】っつーやつね。聞いことくらいはあるでしょ? スピードだしてガンッってブレーキかけて、ハンドルをキュッと切ると後輪が滑るんだよね。で、勢いのまま敵に車の後ろ半分を横からをぶつけるんだ。敵はね、すごい勢いで飛んでいくんだ。
サイドブレーキなんて引かないさ。あれは初心者向けのドリフト。フットブレーキだけでガンッ! バッ! って。慣性ドリフトで複数の敵への連続攻撃もお手の物よ。ほんとイニシャルがDの人もびっくりだよね。なにせぶつけるためのドリフトだし。
まあ、ぶっちゃけスキルは使わなくてもいいんだけどね。スピード出して敵の真正面から突っ込む。これでほんとはいける。うん。でもやっぱりスキルとか使った方がカッコイイでしょ? 男はやっぱりそういうところにこだわりたいよね。スキーでもテニスでもサーフィンでも格好から入るのも時には大事ってことで。
……確かに真正面からいくと場合によっては巻き込んで進めなくなっちゃうこともあるさ。そういえばそうだった。そんなこともたくさんあったのも思い出した。ほんとはドリフトでサイドをぶつけて吹っ飛ばした方がいい。そうだね。スキル万歳。
こないだね、市役所の帰りに、森の方がいいよーって愛しの依里亜さんが教えてくれたからちょいちょい勝手に行ってるんだよね。さすがにね、公園内で車がドリフトしてると怒られそうってーのは僕でもわかったよ。それはやってはダメなことさ。そもそも公園入口には柵があって入れないしね。うん。
で、ぶいーんって仙台市の外にでるとき、普通の車だと駐車場に停めないとだけど、なにせ僕は自分で走れるじゃん? しゃべれるじゃん? 受付に止められることはなかったね、今まで。無料だしねー。
あ、もちろんお金がかかるとしてもETCつけてるからたぶんいけるよ。どこまでも。依里亜さんがつけてくれたんだ。ありがたいよ。ほんと。
ドライブレコーダーも視界が360°のやつつけてるし。これ国産の製品で夜間も明るいから、いつ森に行っても、どこから敵が襲ってきても軽々と倒せるのさ。
そして、すごい強い敵がでてきても逃げられる。なにせ僕、自動車だからちょいと走りには自信があるんだよ。
あー、話が逸れたね。そうそう。それでそういったカー用品をたくさんつけてくれるアイラブ依里亜さんがいかに優しいかって話だったね。
依里亜さんは優しいから、ガソリンスタンドでもレギュラーってやつをいつも満タンにしてくれるんだよね。僕もガソリンを5リットルくらい分けてあげたいって思うんだけど、人間てガソリンいらないんだね。こんなに美味しいのにな。ガソリンの美味しさわからないとか人生の半分損してると思うよ。うん。でも、ハイオクってーのもいつかは飲んでみたいな。
あとね、冬の話。仙台市はあんまり雪とかも降らないんだけど、「つけないとダメよ」ってちゃんとスタッドレスタイヤを冬にはつけてくれるんだ。お店に予約までして行くよ。予約してお店に行くなんてまるでデートだよね。で、あのなんだっけ。黄色い帽子の看板のお店ね。
お店の人曰く、スタッドレスタイヤは普通のタイヤよりゴムが柔らかくて、3年も乗るとゴムが固くなったり、摩耗してくるから交換時なんだって。でも、依里亜さんは4年くらいでも大丈夫って言うんだ。きっと依里亜さんはタイヤでさえ大事にしてるんだよね。優しいよね。
あとね、タイヤの種類もわからないから、買う時はいつもこう言ってる「一番安いやつから2番目のやつ」うんうん。1番安いやつなんかは買わないんだよ。めっちゃ気を使ってもらってる。きっと僕のことかなり好きだよね。
……あ、またレベルあがった。いま、もうレベル6。
新スキルきた。
【クラクション】【大音量で敵の動きを止める】
だって。……普通のクラクションじゃない? これ?
ま、いいや。でね、依里亜さんはオイル交換の時も同じように優しいんだよ。「一番安いやつから2番目のやつ」ってね。安物はダメよね。安物は。うん。「どうせ違いなんてわからないから、あはは」って時の笑顔がなんとも素敵で見とれてしまうんだよねえ。
あー、あ、あ、ちょっと待って。いまもう森についてるんだけどモンスター出てきたー。あれ、ゴーレムかな?よっしゃいけー!【ドリフト!】ちょっとでかいけど、足をぶち壊す! ……そして倒れたところを轢く!!というか、倒れている上に飛び乗って走り回る!
そうそう言うの忘れてたけどレベ上げ4の時に【悪路走行】ってスキルも手に入れてるから、ゴーレムごとき、どんどん登ったるさ。
で、ボディの上でアクセル踏んでタイヤをめっちゃ空回りさせると削りまくってダメージ入るんだよね。タイヤも減るけど。依里亜さんに怒られないようにほどほどに。
お、ゴーレム3匹倒したら更にレベルあがった!
【ウオッシャー毒液】ってースキル覚えたな。
それでね、依里亜さんが僕をテイムしたのは、ハンドルを握りながら「テイム」って言ったからなんだけど、これはもう運命だよね。なんというか、僕の愛がその言葉を呼び寄せた、みたいな。あるいは奇跡?
テイムされた瞬間、僕の中の電子部品がショートしたみたいに感じたよ。まあショートしたら壊れちゃうけど。
僕がね、そのあとテイムのお礼を言ったんだ。「依里亜さん、ありがとう!」って、めいっぱいの愛を込めてね。そしたら依里亜姫はなんて言ったと思う?「車は家の中になかったから忘れてたわ、ごめんごめん」って。ほんと気遣いのできる人って美しいよね。その時の笑顔もまた可愛くて思わず惚れ直しちゃったよ。
お、トロール2体発見!早速使おう新スキル!ほれ!いけ!【ウオッシャー毒液】……ぐわあああ!自分にかかった!なんだこれ!…ワイパー!ワイパー!で…ぎゃー!ワイパー溶けるぅぅぅ!……しょうがない、またあとで、一番安いやつから2番目のやつ買ってもらおう。ごめんね依里亜さん。
あー、ウオッシャー液の発射口をコントロールして自分で前に向けるのかこれ。くらえええ!!……よし、お、なんかすごい周り全体に毒液撒き散らした!マンドラゴラとかもいたんだ!大量に死んだ!毒やべえ、毒!
レベルアップはやっ! もうレベル10だよ!依里亜さん抜いたわ!もうほんと命がけで守るわ。
しかも覚えたスキル【積載無制限】とか、まだ話にしか聞いたことないけど、冷蔵庫の以蔵くんとかも乗せられるんじゃない? 本音を言うと依里亜さん以外は全くもって乗せたくはないんだけど、依里亜さんの為になれるなら本望!! うんうん。よかったよかった……。うんうん……。
『ねえねえ、そのスキルすごくない? 』
「え? あわわわっ!レビさん!」
『ねえねえ、独り言好きなの?』
「えっ? えええ? いつの間に助手席に!」
『家を出る時から』
「……」
『……』