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いざ、作戦会議!

「では、二つ目の問題だが。」


そう言って正蔵は“町々の寺社仏閣を調べ相性の悪そうな神仏のいる領域を把握、共有しておく。そしてその領分と思わしき場所には極力近づかないよう努める。”と書かれたところを指さす。


「まあ、それはだいたい予想がつきます。各所の神仏を刺激しないようにということでしょう?でもわたしは神ではないのに、そこまでしなくともいいのじゃありませんか?」


わたしはいるのかいないのかわからないようなものですし、と続ける霞。


「いや、これは必要だと判断した。たしかに御前方はそれぞれ、あるいは纏めて祠があったりするわけではない・・・つまり神ではないかもしれん。しかし人でもない。そのようなどちらとも取れる立場であるからこそ、この下調べは必要とは思わんか。」

「うーん・・・正直、そう思おうとすればそうでもあり、不要と思えば不要とも思える、なんだか煮え切らない感じです。」

「そうか。しかしもし向こうが勝手に他の神が自分の領域に入ってきた、などと怒ってしまって、説明することすらできん相手だとしたらどうだ。」

「しかしこんな小さな存在を神と誤認するものなのでしょうか。」


やはりそこが引っ掛かって煮え切らないらしい。つくづく純というべきか、単細胞というべきか、・・・自己肯定が低いというべきか。


「そもそもだ、お主は神をどういう位置づけで捉えている?」

「それは、まず第一に信仰の対象となるものであり、奉る祠あるいは社と人があり、強い力を持つもの、と。」

「そうかそう定義づけていたか。しかし神という定義は実を言うと人によって違ったりする。であれば神もそうである可能性があるとは考えられないか?」

「神も自分の定義がそれぞれ違うと?」

「そうだ。自意識というものはそれぞれ違うからな。人もそうだ、これが自分、これが人だという定義などそれぞれで違う。」


まぁ辞書的な定義はあるけどもな、と付け加えておいた。お主たちにはそういう認識のズレというものはないのかと問いかけてみる。


「あまりそういう話はしないのですが…ああでも、以前ひとに対してどう思うか、という話はしましたよね!たしか葵さんが見守り感謝し育むもの、東岩さんはただ見守るもの、と…。」


と言いちらりと伺う霞に二人も無言で頷く。


「たしかに今までの話でもこれらはお二方の核のように通じていましたし、自意識や意見も違う。でもそれが神に敵対視されるか否かの問題にどう関ってくるんですか?」


「御前方はたしかに神と言い切れるものではないかもしれん。祠も、社もありはせんからな。しかし人間でもあるまい。特に境内にいる東岩や霞、御前などは本体にしめ縄を巡らせて大切に守り続けているもの、それを祠の代わりとして神認定をする神仏がおるやもしれん。また重ねていうなれば、木、岩、川、その中で神という言葉を付けて一般的名称があるのは神木、木だけだ。とどのつまり…九十九でも認識の違いがあり定義がバラバラである以上神もそうだと考えた方が宜しい、また中でも一番誤認されやすいのは霞、御前ということだ。よって私は御前に慎重に何処が通れて何処が通らぬ方がいいのか綿密に下調べする必要があると主張する!」


「ぐう…っ!ごもっとも過ぎます!!」

「霞ちゃん完敗ね。」

「正蔵さんをなめてました…」

「どんまいだよ霞ちゃん。」

「御前方、末娘にとことん甘いよなあ。」

「そりゃあ可愛い末っ子ですから。」


                  〇


「それでは改めて、三つ目だが。」


全員疲れてきたためか先ほどはなんとなしにお遊びムードが出てしまったのだが、襟を正さねばなるまい。小休止を挟み、新しくコーヒーを入れなおし、話し合いを再開した。


「ええと、三つ目は” 霞の深緑の髪と眼、巫女装束をどうカモフラージュするのかの話し合いを行い、解決しておく必要がある。”ですね。」

「ううむ、これもまたどうしたものか…。」

「一応聞きたいのですがこのままだとダメなんですよね?外人さんが記念に巫女装束に身を包んでみたみたいなのって通らないですかね?」

「舞妓さんではあるまいし、記念に巫女の装束を纏うというのは正直苦しすぎるな…。それに緑の目を持つ人は多くとも緑の髪というのはそうそうないぞ。」

「そこはそのー…コスプレ好きとか。」


この前いらしたじゃないですか、そのコスプレしてる団体さん!と身振り手振りで示す。


「あれは近くでそういうイベントをやっていて、しかもマナーの悪いのが紛れ込んだだけだ。街中を闊歩するようなのはほぼおらん。最近はそのあたりもしっかりしとるからな。そもそも見える人には見えるが大体の人間には見えない外人、などパニックになるぞ。」

「うう、そうでしょうか…。」

「間違いない。境内でも子どもたちが気付くときはじっと御前を見つめてぽかんとしているからだろう。街中でそうやってねえお母さん、などと知らされてみろ。親は失神しかねん。」


だからこそ見られてもスルーされるような状態にしておかなければならないのだ、と説得する。

うう、とうなる霞を見、正蔵は聞く。


「今更ながら、衣装は着替えられたりするか?」

「衣装とかこれしかありませんし着方もわかりません。」

「そうか・・・それにお主、世間の服用意したところで着られるかもわからんしな・・・」

「それですよね・・・」


霞はひとに触れられない幽玄なものだ。それが人が着ている服を着られるのか着られないのかも不確定で、衣装を手配する案は不採用となった。

その後も姿を変えられないか雑誌を見つつ頑張ってみたり、やはり着られないかと服や鬘まで用意してみたりいろいろと頭を捻ってみたが有効と思われる策は出てこなかった。

そのまま時は過ぎ、境内に朝日が差し始めた。あっ、務めが、と言う葵たちに、


「私を誰だと思っている、休みは確保済みだ。…午前中だけだがな。」


そういってかか、と笑った。ひとまず今日はお開きとして、作戦会議はまた明日まで持ち越しとなった。





 翌朝。すこし曇りがかった雲が重たげに空を覆っている。雨の匂いはしないから降水はしないだろうが、それでも晴天と比べると気が重い。特に日光も差し込まないこんな日は木々にとって辛い日だ。もう秋口だし、続かないと良いのだが…。などと考え事をしながら東岩のもとへ向かう。天気が悪いと自然と目線も下がってしまう。足元の落ちた木の枝や木の葉の状態を見ながらとぼとぼ歩く。


「…ん??」


なにか頭の隅を掠めた気がする。何だろう?そこでその姿勢のまま考える。足元の枝を、落ちた葉を、真白い足袋を朱い袴を軽く握った手を。じっと見つめてひらめきかけたなにかを探る。その場にあるのは風の音と、それに揺らされてかさりと音を立てる落ち葉だけ。


「………あああ!そっか!!」


ひらめいた霞はすぐさま駆け出す。早く早く、忘れてしまわないうちに。


 正蔵はぎょっとした。朝社務所へ出てきてみれば、いつもは東岩たちとともにいるはずの霞が社務所前でうろうろさ迷っていたからだ。幸か不幸か、今日はその姿は他の職員たちには見えていない。


こちらに気がつきぱっと顔をあげ駆け寄ってくる様は昔飼っていた犬を思い出させた。うむ、やはりなんと言われようがこの九十九は犬っころ似だな、と意識が変な方に飛びかけたところで我に返る。現実逃避をしている場合ではなかった。何か枝?を持って訴えているようだがあいにくここでは人目もあり話は聞けない。身振りで中に入るよう促し、既に身支度を整え終わっていた職員へ急用が入ったので執務室に篭る旨伝え、漸く相対した。


「もう楽にしていいぞ」

「うはー!お社以外で正蔵さんに威厳があるのって凄く珍しいものを見ました!」

「おっと朝の支度をするのを忘れておったわ」

「嘘嘘嘘行かないで!話聞いて!!」

正蔵のコートに縋り付き枝をさくさく刺す。

「痛っ!痛い!なにをしてる!!枝!?」

「そうですそうなんです、こういう枝を使えば—-」


コンコンコン、と控え目にノックの音が響く。


「あの、宮司さま、大丈夫ですか・・・?いかがなさいました?」

「いや、何でもない。久しぶりに小指をぶつけただけだ。煩くしてすまないな。」

「ああ、左様でございましたか。これは失礼を致しました、申し訳ございません。では私はこれで。」

「ああ、ありがとう。」


すす、と衣擦れの音が遠ざかる。遠くまで離れたのを確認し、再び向き直った。


「で、枝がどうしたと?まさか杜に何か異変でもあったか」

「あっ、違うんです、こういう枝とかを使えばうまくいくんじゃないかって!」

「まさか、それは」

「そうです、理論的に有り得ないことでもないでしょう?」


 霞は話しはじめた。そもそも自分はこの杜自体の顕現だということ。それには神木は勿論のことも小さな木々もそれに含まれること。であれば小さなこの枝一本であっても霞の一部という定義づけをすることは可能であり、もしもこの枝から分霊という形で顕れることができればこれまでの問題も無いに等しいものにできるのではないか、ということ。

ただしそれがいつまでもつのか、中間のものでもできる芸当なのか、そもそもそれができるのかという問題がある。それを話したくて朝からずっと待っていたのだという。


「なるほどなぁ、上手く考えたものだ。」

「でしょう?」

「たしかにそれができれば、本体はこの杜に留まるのだから杜に与える影響も少なくて済みそうだ。人でも神でもない上ここまでか弱い存在であればあるほど気難しい神仏相手でも見逃される可能性も増える。このサイズまで小さくなってしまえば、ポケットや鞄に隠れて同行することもできる。見られてしまってもなんなら娘へのプレゼントの人形と言い張ってしまえば良い・・・。」

「さっすが正蔵さん、理解が早い!」

「だが・・・本当にそれはできるのか?」

「・・・・・・そこなんですよねぇー」


二人で頭を抱えた。


「あと流石にプレゼントの人形っていうのはそこそこ気持ちが悪いです。」

「人形以外に何と言えというんだ。こけしか。」

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