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条件とは

「霞ちゃん、拗ねてしまいましたね?」

「そうキリキリ言うでない、そもそも御前方も同じだろう。」


共犯だぞ、とぶすくれている。私たちには見知った幼少からの顔だが、この顔を職員さん方がご覧になったらどうなるかしら、と場違いながら思ってしまった葵だった。


「諸悪の根源は正蔵さんなんだからごめんなさいしてくださいね。」

「・・・・・・・・・まさかあんなにショックを受けるとは思うまい・・・。」

「霞ちゃんは純粋なんだよ?」

「あら、正蔵さんがそんなにしょげているなんて、初めての祭事で祝詞を噛んだ以来じゃない?」

「それはもういい加減忘れてくれないか。」

「忘れません、絶対に忘れません。」

「おや、霞ちゃんが戻ってきたよ。」

「なに!?」


正蔵が振り返った先、東岩の目線の先に霞はじっと立っていた。


「霞・・・?」

「正蔵さん、わたし決めました。」

しかと見つめてきっぱりと言う。意志の強さが見て取れてたじろぐ。

「な、何をだ?」

「わたしはやっぱり、人というものをもっと知りたいです。そこで明日から昼間に四半刻ほどこの社から足を伸ばすことお許し頂けますでしょうか?」

「どうしてもこの境内から出ると?」

「ほんの少しの時間です。」

「先ほども言ったが、それは許可しかねる。別に意地を悪くしてこう言うのではない。御前が外へ出たときの影響を考えてのことなんだ、前例を探してみるから少し待ってはくれないか。」

「影響ってなんなんです?わたしは別に影響を及ぼすような力があるわけでもない、ただの中ぶらりんな存在です。それがこの社を少し留守にしたとてなにがあるとも思えないのですが・・・。」

「まあ、まあ。落ち着いて話しましょう?正蔵さんも、きちんと考えを言葉にしないとわからないのですよ。」


葵が間に入って宥める。


「そうだな…今回、お主が外へ出たいと申し出をしたのにあたり、問題点がいくつかあると思われるのだ。まず、境内から出て無事でいられるのか。…神域を出てなお、お主はお主でいられるのか。これが一つ目。二つ目に、ここから出たことのないお主が人力のみでない、現代社会を見て廻るのに障りがなく安全でいられる保障があるか。三つ目に、お主を見ることのできる人がいる中でどう注目されず出歩けるのか。それが問題だ。」

「…なるほど。それは確かに問題ですが、やってみないことにはいずれもわからないのではないですか?」


そもそもわたしはいわば幽体に近しいものであって神ではないのですし、始めからそう遠出をしようなどとは考えておりませんし、と言葉を紡ぐ霞は困惑していた。まさか思いつきで言ったことがこんな大ごとになるとは。全く予想もつかなかった…そんな霞の困惑をよそに、正蔵は続ける。


「そこで、まず九十九…お主たちのことに関してのことから、徹底的に調べ、そうした問題点に関して一考する必要があると考えた。しばらく時間が欲しかったが仕方がない…。現時点で儂の出している結論は、簡潔に言ってしまえば、ある一定の条件がそろい、ある程度の我慢をしてもらえれば、可能でないこともない、だ。」

「……はい?」


                   〇


霞は怪訝そうな表情を浮かべている。それもそうだ、これでは可とも不可ともいえないようなものだ。あまりに曖昧な物言いにどう判断してよいものか決めあぐねていた。


「まず、条件というものだが…」

「ちょ、ちょ…っと、待ってください!」


眉間に掌を当て、苦渋の表情を浮かべている。


「まずそれは可能ということなのですか、不可能ということなのですか。」

「それは準備次第によるな。」

「準備次第とは…。」

「しかもそれでも確実な案とは言えないものだ。」

「………とりあえず、話してください。今のように曖昧なものでなく、なるべく簡素に、理解しやすく。」

「請け負った。」


それから正蔵は霞へ説明を施した。寒風の吹く夜中なので、一端社務所へ招き入れる。すでに夜更けとも言える時刻、社殿の横で騒がしくして四柱の怒りに触れるのも危惧されたためだ。

すでに人のいない社務所、木造で温かみのあるそこには葵や東岩でさえも興味を隠し切れなかった。


「うわあ、こんな造りになっていたんですね。ふふ、木々も綺麗に使って貰ってる。どこから来たのかな。」

「あらあらあら、皆さんここで作業してらっしゃるのね。可愛らしいお守りが沢山だわ。」

「おや、作務衣や装束も丁寧に手を入れて干してある。大事にしてもらえているんだね。」

「御前たち、ここには社会見学に来たわけじゃあないんだぞ。」

「もちろんですとも。あ、和室にあんな可愛らしい子がいるではないですか!気が付かなかった。ふふ、小さな赤い花を沢山つけて…可愛い、ねえ正蔵さん、きちんと大事にしてあげてくださいね。ちゃんと日の当たるところにも出してあげるんですよ。」

「………。」

「あら、正蔵さんが頭を抱えてるわ。」


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