フルーツの粉(あやしい)
「あー。お前あれ知ってるかな」
話題が一区切りして落ち着いたのち、悪友の彼が新たな話題を振ってきた。
「あれってなんだ?大抵のことは知ってるつもりだが」
「凄い自信だな。あれってあれだよ。味のする粉なんだけど美味しくってハマっちゃって~。あれ絶対依存性あるわ」
はぁ?
いやこいついきなり話題振ってきたと思ったら怪しい粉の話し始めたよ…。大丈夫か…?
「いやお前そういう話はファミレスじゃマズいだろ」
「なんでそんな小声になるんだよ」
そりゃ怪しい粉の話をし始めたんだから小声で注意ぐらいするだろ。むしろそんなヤバい話よく人で賑わっているファミレスで出来るな。まあ喧騒が俺たちの会話をかき消しているようでほかの人には聞こえていないようだけど。
「で、結局知ってるか?美味しい粉のこと」
「あ、ああ。もちろん知っているぞ」
大抵のことは知っていると言ってしまった手前。なにか知らないとは言いたくなかったし、怪しい粉の正体は大体予想がつく。いちおう彼も周囲に気を遣って美味しい粉とかぼかしてはいるけどまあ十中八九あの粉のことだろう。保健体育の教科書とかに載っているヤバいやつ。
しかし眼前の彼はたしかに見た目なんかパツキンのツンツンで、背中にでっかい龍がプリントしてあるスカジャンを着ているようなヤンキーみたいなやつなんだけど、まさか怪しい粉にまで手を出しているとは思わなんだ。
「お前も味わったか?」
優しい声音で問われる。
そんなもん常人が味わうわけねえだろ!と思いつつも、なんか気が動転していた俺は見栄を張ってしまった。
「んー。あっ。そっ、そうだなぁ。まあ嗜んだよ」
どうせ騒いでいる近隣のお子ちゃまたちの声で俺たちの会話は外部には漏れないし大丈夫だろう。
「めちゃくちゃ歯切れの悪い言い方だな。なんか後ろめたいような感じがするぞ。別に変なものでもないのに」
いや十分変なものでしょぉぉおおおおおおお!!怪しい粉やん!そんな怪しそうな粉をほかに連想しないだろ。
「んでお前はストロー派?それとも直に行く派?」
うわぁ…。もうこんなん確信ついてますやん…。これもう言い逃れできない奴ですよ。
しかし一度嘘をついてしまった以上、今後も話に合わせるしかないだろう。何となしにイメージではストローなんかで鼻で吸って嗜んでいるイメージがある。
「まあ俺はストローで吸って鼻で嗜んでるかな」
「は、鼻でっ!?」
「えっそんな驚くところ!?」
「普通舌で転がして味覚を楽しむだろ!」
えー、実際どうやって嗜んでるかなんてわからないしなぁ。
これが経験者は語るってやつですよ。そして未経験者の俺は騙る。
「まあ人それぞれ楽しみ方はあるか。ストローで鼻から吸引するってのは初めて聞いたけど。ところであれってどこで買ってる?全然手に入らないんだよな」
密売ルートとか知らねえよ!これこそファミレスじゃ話しちゃいけないやつだよ!!警察が聞き耳立てて聞きたいやつ!
まぁしゃーねえ!適当に答えてみるしかないか。
「まあ、そのーそうだなぁ。あ、怪しい露店のおっさんだよ」
「お前もかー。やっぱヤのつく人だよな」
えぇーっ!適当に答えたのに一緒だったー!
「やっぱ販売ルートはそこしかないよなー。もっと街とかで売ってほしいのに」
いや街はだめなんじゃないかなぁ。警察の目とか気にするでしょうよ。そういうのは人目につかないところでこっそりと売買するもんなんじゃないの…。
「あっそうだ。お前なに味が好きよ?」
わかんねえよ!!嗜んだこととかないし!そもそも味なんて選べるのか?あれって。
とりあえず考えよう。でもタバコとかにもブルーベリーみたいなやつとかあるような気がしたなぁ。
「俺はそうだな…ブルーベリーかな…」
すると眼前の悪友は少し思案する。さすがにそんなのねえよ!って言われるパターンかな。
「ブルーベリーかぁ。そんなのあったっけ。まぁスタンダードはレモンかな。俺はメロン味が一番好きだ!」
知らねぇぇええええええええええ!!レモン味とかメロン味もあるの?
そろそろガチでなんの話してんのかわからなくなってきた。
ここは素直に打ち明けるべきなのだろうか。
ぎゅっとこぶしを握り、対面の悪友へと相対する。
「あのなぁ。実は俺その怪しい粉のこと分からないんだ。つってもどうせヤバいやつなんだろ?逮捕されるような案件の」
その言葉を聞いた悪友はぽかーんとしていた。え?俺が変なこと言ったみたいじゃん。
「何言ってんだよ。そんなヤバい粉の話誰がするんだよ!」
いやツッコまれてるけど、依存性があるだのヤのつく人が売ってるだのヤバいこと言ってんのお前だからな。
「なんだ、知らなかったのかよ。フルーツの粉」
「フルーツの…粉?」
なんだそれ、初めて聞いたぞ。この大抵のことは知っている俺が。
眼前の悪友はがさがさとポケットを漁ると、なにかを取り出した。
「それってファミレスで見せていいやつ?」
「いいに決まってんだろ!なんだと思ってんだよ」
「ヤバい薬」
今までの話を聞いていればヤバい薬だと思うに決まってる。
悪友がポケットから取り出した物は、缶だった。軟膏の容器のような平べったい丸い缶。
「そんなかにヤバい物が入ってんのか」
「ヤバくないけどな。合法のやつ、合法」
容器を空けると中から、やはり渦中の粉が現れた。緑、黄色、赤の3色が円グラフのようにキレイに区分されている。
「これがフルーツの粉だ!」
俺たちはこんなもののことで長々と話していたのか…。と肩からふっと力が抜けるような感覚を覚えた。脱力感。
「普通のお菓子かよ…」
「だからそんな変なものじゃないって言っただろ」
「ああ、じゃあ依存性があるって言うのも単にお前がハマってるだけってことか」
「まあそういうことだな」
ったく、なんか頭の中でひたすら突っ込んでいた俺が馬鹿みたいだ。
「じゃあヤのつく人が売ってるとかいう言い方も薬剤師とかいうオチか?」
「そりゃヤ○ザであってる」
「あってんのかよ!?」
書いてないと腕が鈍るらしいのでとりあえずで書いたものです。