第三話 お祓いしよう ①
週末。
エレベーターの一件から何も起こらなかった。まあ、起こって欲しくなかったから良かったのだが、普通、こういう出来事の後って怪我しまくったりとかするもんじゃ無いのだろうか。
うーん? 分からん。
ともあれ、今日はお祓いだ。着る服がよく分からないのでとりあえず制服を来てきたけどいいかな? 先輩のときも制服だったし大丈夫だろ。
駅に着いた。国鉄霞田市駅。ここから2駅進んで私鉄に乗り、山の中を歩けばそこに霊媒師さんがいる。
あ、そうそう、こうしてお祓いに向かっているのだから霊媒師のアポは取れた。1000円で祓ってくれるらしい。
多分相当安い。
「おーい、久山ぁ」
あれは榊山だな。隣にいるのは川村か。なんだよ、全員制服か。
「よ、ごめんな待たせて」
「いいよいいよ、集合より早く来た俺が悪いんだから」
「久山君、体調とかは?」
「ああ、全然大丈夫」
そう、全然大丈夫なのだ。気味の悪いほど大丈夫なのだ。あの黒い跡を除いて。あれは昨日の晩の時点ではまだ消えていない。
しかし、あれからお腹を下すことも風邪をひくことも、ましてやくしゃみ1つしていない。
「そっか。叔母さんも心配してたけど、それなら良かった」
「うん」
肯定したが、本当に良いのか分からない。霊的なものはさっぱり分からないので不安は残る。
「あ、次の電車すぐ来るぜ」と榊山が言うので俺たちは電車に乗った。
乗車中も変わった様子はなく、それが却って不気味でもあった。まあ、何も無いならそれが1番だが。
車内ではなるべく別の話題で話していた。
最近は不倫報道が多すぎるとか、選挙するならどこの党に入れるだとか、話はどんどんよく分からない方へ向かうが、霊的な話にはならなかった。
乗り換えもスムーズで、私鉄でも何も無かった。
そうして、霊媒師さんの最寄り駅まで着いた。
「久々だね」と榊山。
「まあ、二度と関わらないのが1番なんだけど」と川村。
「でも心強いよ」と俺。
山の中を歩くこと十数分。そこに大きめな家があった。
川村がインターホンを押す。
しばらくして、玄関の扉が開く。ふくよかな男性が現れた。
「おお、玲奈ちゃんか。お久しぶり。お友達も、こんにちは」
俺と榊山もこんにちはと返す。
「やや、霞田からここまでって中々遠いだろう。」
遠いと言えば遠い。何せ1時間かかったからな。だけど文句はいけない。これから僕は祓って貰うんだから。
「叔母さんは?」
川村は男性に聞いた。
「ああ、美菜子さんはね少し準備をしてるよ。だからここで少し待っててくれってさ」
分かりましたと返事して案内された座敷で待った。
「なんというか、久々だな」
「何回目だよ榊山」
「だってさ、高校生だけで電車に乗って1時間ってちょっとワクワクしないか?」
俺は内心呆れた。俺の身が心配じゃねえのかよ。
「川村、ほんとにありがと」
なんというか礼を言うべきタイミングな気がしたので礼を言っておく。
「あ、ああ、大丈夫。叔母さんもノリノリだから」
それはそれで複雑なんだが。
しばらくしてさっきの男性とは対照的にすっとした痩せ型の女性が現れた。そうだ、この人が霊媒師さんだ。
「お久しぶりです。もう知っているかもしれないけど、私が霊媒師の牧田美菜子です」
俺達も順に自己紹介する。
「僕は私立桜学園高校2年の久山聖です。今日はよろしくお願いします」
「君が久山君ね」
次に榊山。
「同じ2年の榊山堺です。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
川村は別に自己紹介しなかった。
「じゃ、玲奈ちゃんと榊山君はここで待っててくれる? 久山君はこっち。一度戻ってくるからちょっと待っててね」
2人ははいと返事して俺は美菜子さんに連れてかれた。
連れてこられたのは大きな仏壇みたいなものがある部屋だった。恥ずかしながらこういうものはよく分からない。
「さて、久山君。玲奈ちゃんから聞いているけど、もう一度、君の口から状況を説明してくれるかな?」
「はい」
俺はあの時あったことを説明した。
「……それで4階に着いたときに女の人が乗ってきました。」
そこで美菜子さんは話を止めた。
「失礼。話を止めて。えっと、女の人はしっかり見たの?」
「あ、いや、その、ネットの情報では女の人って書いてあって、僕もしっかりは見えてないですが、女の人っぽかったです。全身真っ黒で……なんだろう、黒いドレスを着た髪の長い女の人、見たいな」
そこまで言うと、なるほどね。と頷いた。
「じゃあ、チラッと見たときに女の人らしく見えたのね」
「はい」
美菜子さんは少し考えてる。
うーん、本当は女の人じゃないのかな。
「分かったわ、じゃあ、話を続けて?」
「はい。その後、エレベーターは上に上って俺……僕はボタンを押したんですけど反応しなくて、結局9階を通過したしたとき、チラッと女の人の方を向いてしまったんです。そして……」
「そこまででいいわ」
ここで止めたのは僕に思い出させないためだろうか。
「なんで女の人の方を向こうと思ったの?」
それは俺でも謎だ。
「ごめんなさい、分からないです。でも、なんだろう、自分で振り向いたというか、振り向かされた、みたいな」
「なるほどね。……どうする? 続き話せそう? あんまりにもショッキングだから無理しなくてもいいけど」
美菜子さんはそう言ったが俺は「いや、話せます」と言った。
「ありがとう。じゃあ、続けて?」
「はい、そしたらそれはもう女の人の姿じゃ無くなってた様な気がして、お、大きなく、口が俺を喰ったん……です」
やはり、思い出すのはちょっと怖かった。
「そうなのね。ありがとう、勇気を出してくれて」
「はい、そしたらおじいさんの声がして、『小僧、二度とこんなことはするな』と言ったんです」
「そのときのおじいさんの姿は見えたの?」
「いや、く、口の中だったので……」
美菜子さんは黙り込んでしまった。な、何か不味いものにでも関わってしまったのだろうか。




