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第二話 異世界に行こう ③

「4階だな。」

 榊山君がそう言った。

「何階まで上るのかな。」

「5階じゃない?」

「そうね」

 何がそうね、かは言った自分もよく分からないけれど、久山君ならそうするだろう。怖いとかじゃなく、早く帰りたいからとか言って。

 でも、無事で戻ってきて欲しいな。

 案の定、5階で止まった。

 私は久山君に電話をかける。すぐ出た。

「どうだった?」

「どうだった、と言われてもな、話すと長くなる。」

 え、そんな奇妙な体験をしたのか?


 戻ってきた久山君はとても疲弊していた。


 * * *


 あのおじいさんの声のあと、俺は5階で既にエレベーターを降りていた。その辺はよく分からない。ただ、気がついたらそこにいた。

 結局、あの時女に喰われて死んだのかそれともあまりの恐怖に5階で降りたのに幻覚を見ていたのか。それは定かでは無いが、すぐに川村から電話がかかってきた。


 帰り道。俺は事の顛末を話した。


「え? 5階で降りれなかった?」

 2人とも驚いていた。

「ああ。あれほどの恐怖は無かった。それで結局、9階も過ぎたとき、俺は女に頭を喰われたんだ」

「でも生きてるよね?」と川村

「ああ、そこなんだ。信じてくれるかわかんないけど、俺は死んでないし、5階で降りていた」

「にしても落ち着き過ぎじゃない?」と突っ込んだのは榊山だ。少し不満を覚えたが噛み付く訳にも行かないのでそれに答えた。

「落ち着き過ぎ、かもしれないけど、あまりに状況が状況で、脳がマヒして落ち着いてしまっているんじゃないか? 少なくとも俺は2人より遥かに混乱している」

 そっか、ごめんな。と榊山は一言謝った。

「続き聞かせて?」

「ああ。女に頭を喰われて、もう死ぬなって感じがしたんだ。その時、おじいさんの声がしたんだ。」

 おじいさん? と川村は聞き返す。俺は頷いた。

「そう。『小僧、二度とこんなことはするな』って言ってきた。小僧っていうのは俺で、こんなことっていうのは異世界行きのことだと思うけど。」

「おじいさんの姿は見えたの?」

「見えなかった。なにせ頭は喰われてるからな」

 そっか。と川村は1人納得した。

「誰なんだろうな、そのおじいさんって」

 と榊山が聞いた。

「それが分かればいいけど、神様とか?」

「神様? なんの?」

「知らないよ。俺も新川市のことなんか知らないから」

「……、守り神とか、守護霊?」

「いや、聞いたことないな。俺がそんな霊感体質じゃないし」

 守護霊か、考えたことも無かったな。ちょっと聞いてみるか。

「一応、お祓いする?」

 と提案したのは川村だ。

「お祓いってお金かかるんじゃないの?」

 と俺が聞くと、

「おいおい、川村は親戚に霊媒師さんがいるんだぜ? ひとりかくれんぼで先輩が休んだときもその人に祓って貰ったじゃんか」

「ああ、あの」

「やっぱりさ、久山よりも川村の方がオカ部部長として相応しいよ」

「まだ言うか」

 俺は川村に

「出来るのか? 俺としてはすっごく不安だから祓って貰いたいけど、霊媒師さんも忙しくないのか?」

 と訊くと

「逆だよ、逆。あんまり忙しくならないから先輩の体調不良も治して貰ったんじゃん」

 確かにあの霊媒師さん、あんまり危ないことはするなって言ったのにノリノリに見えた気がする。

「じゃ、帰ったら連絡してみる。週末でいいよね?」

「うん」

「素人的な意見だからなんとも言えないけど、あんまり霊的な物に触れちゃ行けない気がするからさ、部活も週末までナシでいい?」

 俺も榊山も頷いた。

「じゃあ、アドバイスとかも貰っとくね」

 交差点まで来た。そうか、川村はここで分かれるのか。

 川村を見送って俺たちは歩く。

「やっぱり川村を部長にしようぜ」

「だから、生徒会に書類出すのが面倒だし、変更理由もなんて書くんだよ。オカルティックだから、か?」

「あー、そうか、それは面倒だな」

 榊山は笑っていた。

「ごめんな、本当は怖かっただろ?」

「当たり前だ。何せもしかしたら俺は一度死んでいるんだからな」

「これはドーナツ4つじゃ済まないな」

「ああ、覚悟しとけよ」

 榊山とはこの分かれ道で分かれるはずだが、

「今日はお前に霊的すぎることがあったからな、俺が心配だからついて行くだけだぞ」

 正直、とても嬉しかった。

「ありがと」

「なんだよ、素直に謝って、気持ち悪いな」

 俺は笑った。榊山も笑った。

「また、困ったら言ってくれよ? こんな危ない目に合わせちまったから、2回くらいは手助けするぜ?」

「ありがと。でもドーナツは別件な」

「まじかよ。……。でもまあ、いいか。俺はこれからもオカルト部の味方だからな。安心しろよ?」

 逆に不安だっての。

 また俺たちは笑った。

 本当ならショッキング過ぎて発狂するはずなのに、一周回って正常で居られる。これは不幸中の幸いというのだろうか。

 ただ、

「向こう1ヶ月はエレベーターには乗らんかな」

「だな」


 その日の夜。風呂に入るときに驚いた。鏡の自分を見て見つけてしまったのだ。

「あ、あ、く、首に黒い跡がある。」

 首と言うより鎖骨の付近に歯型にも見えなく無い跡があったのだ。

 なぜだかこれは榊山達には言えなかった。

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