第二話 異世界に行こう ①
百物語から1週間。ネタが見つかるまではこの部活はただの集会となってしまう。故に色んな人が出入りする。僕らが友人を連れて勉強会をしたり、先生からの隠れ家として逃げてくる人など、まるでここは便利屋みたいに扱われていた。
「でもさー、カッターの刃入りの手紙は焦ったよね」
川村が言ったのは去年起きた事件のことだ。
オカルト部のゴミ箱にカッターの刃が入ったラブレターがあったのだ。正しくオカルティックと言っても良いが部員全員が戦慄したため先生に届けておかげでこの部活は2週間くらい活動休止になった。
「結局、犯人は見つかってないよね。あのラブレターに宛先も送り主も書かれてなかったし」
「まあ、でも送られた子は相当ショックだったろうね。この学校は人が多いから誰だったがなんてのもわかんないけど」
「あ、なあ、榊山」
「何?」
「ネタどうする? 川村もさ」
流石にまた2週間活動しないのは嫌だ。何か見つけなければ。
「えーっと、じゃあ、……浮かばないなこれ」
榊山の言う通りこの部活は結構ネタ探しに苦労するのだ。
「じゃあ、異世界」
と川村が言った。言ってる意味が分からないのでもう一度聞いた。
「え? なんて言った?」
「だから、異世界」
「おいおい、ラノベの読みすぎで頭狂ったか? 異世界なんて存在しないぜ?」と榊山。
「違うって。ほら、エレベーターのボタンをある順番に押すと異世界に行けるってやつ」
ここでようやく理解した。今流行りのラノベみたいな異世界ではなく、行った先は誰もいない世界だとか何とか。
確かにオカルト部らしいが、
「でもさ、危険じゃない? それで本当に異世界に行ったらさ、どうするの?」
「行かないでしょ」と川村は切って捨てた。
えぇ? それ、オカルト部員が言う?
「本当に行ってしまうとしてもさ、途中で止めれるんだから、怖くなったら止めればいいんだって、ね?」
ね? じゃないよ。
「そうか……。榊山はどうなの?」
「僕は全然いいよ。面白そうだし」
呑気だなぁ。
「久山、今になって命を惜しんでたらダメだぜ? 前回の百物語だってロウソクを全部消したら物の怪が出るところだったんだし」
「そうだって、榊山君が言うようにさ、今までヤバめのことしてきたんだし。ひとりかくれんぼで先輩が休むし、心霊スポットで肝試ししたら私は風邪引いたし」
「それは川村が薄着だったからだろ」
「違うって、とにかく、ネットの噂通りやって、で、なんだっけ? 女の人が乗ってきたらすぐに止める。それなら良いでしょ?」
まあ、確かに。
「川村の言う通りだぜ? 女の人が乗ってくるっていう事実は掴めるわけなんだから」
「じゃ、じゃあ、それにしよう」
次のテーマは異世界となった。
翌日。
「でもさ、異世界に行く方法なんて沢山あるだろ? なんでエレベーターなんだ?」
俺は川村に問う。
「えーっと、まー、中断しても成果が得られるってことかな。ほら、コレ見たら分かるけど……」
そう言ってスマホの画面を俺に見せる。榊山も見た。
「途中で女の人が乗ってくるんでしょ? 普通ならそれを見たら中断出来ない。でも、この方法は10階に着く前に降りれば止められる。本当に異世界に行かなくても怪奇現象はゲット出来るんだよ」
なるほど、建設的。
「実際に行くのは誰?」と俺が聞く。
「じゃあ、公平にジャンケンで決めよう」と榊山。
これが悪夢の始まりだった。すっかり忘れていたのだ川村の予知能力を。
3人とも賛成し、ジャンケンする。
「ジャーンケーン、ポン」
俺だけグー、2人はパー。そこでようやく気付いた。
「あ、ああああああ、おい、お前ら! ハメただろ!」
「ハメた? 僕は童貞だからハメたことなんて……」
「うるさい」と川村が榊山を殴る。
「おい、質問に答えろ。……そういえばジャンケンの前にアイコンタクトしてただろ。それだな? 川村が予知能力を使って俺の手を見て、それを榊山に教えたんだろ?」
川村はとぼけたように
「アイコンタクト? なんのこと? 気のせいじゃない?」
「いーや、気のせいじゃない。確かに見た」
「というかさ、私ジャンケンで予知使えないじゃん」
*
へー、予知能力か、じゃあ、ジャンケンも無敗? という先輩の質問に
まあ、そうですね。でも、私の予知がバレたら意味ないですけどね。例えば先輩がグー出すことを私が予知して、先輩にグーを出す未来を教える。そしたら先輩が素直にグーを出さない限り私はパーで勝てないんです。と川村は答えていた。
なるほどねー。じゃあ教えることで未来が変わるのね。
そうです。
*
「それは俺に予知の結果を教えてないからだろ?」
川村はようやく観念した。
「バレたかー。まあ、私は榊山君に買収されたんだよね」
「まさか、ドーナツ3つで買えるとは思わなかったよ」
そういえば榊山は金持ちなんだよな。いや、榊山の家が金持ちなのではなく、榊山自身が金を使わない余り小遣いが余りに余っていたそうな。
「畜生め、ジャンケンの前に気づくべきだった。」
「ドンマイ」と川村。
「何がドンマイだ」
「お経はナンマイダ」と榊山がくだらないことを言ったので頭を叩いた。
「いてー、僕は木魚じゃないって」
「お前、俺が手柄あげたら俺にもドーナツ奢れよ?」
「分かったよ」
よし、これでいい。
こうして、俺はエレベーターに乗り込むことになった。
まさか、あんなことになるとは知らずに。




