第一話 オカルト部へようこそ! ③
百物語当日。3人とも同じ話を持ってきてしまうという最悪な事態に陥ってしまうがそこに気づくのはまだ先の話。
会場は当然部室。遮光カーテンを閉め、扉のカーテンも閉じ、出来る限り暗くして11本のロウソクを立てた。なぜなら俺が4話。榊山が3話、川村が4話であるからだ。(当然、それぞれが一話ずつ失う状況であることはまだ知らない。)
扉には緊急時以外立ち入り禁止とだけ書いておいた。
「で、誰から?」
川村の顔がロウソクに照らされる。いや、全員の顔がロウソクに照らされている。外は日が高いはずだが、この部屋だけ深夜であるかのような空気感だった。
「うーん、俺は4話あるけど……」榊山の方を見る。
「いや、僕は結構怖い話持ってきたから……」
「じゃあ、私ね」と川村が話し始めた。
……。
「……ということで、手紙を送っていたのは彼女の実の父だったのです。終わり」
「うわぁ、怖いな、鳥肌立ってきた」と榊山。確かに俺も背筋がゾクッとした。というか、なんか、川村の話し方が上手いせいか、終始誰かに見られてるような緊張感があったような感じで、やっぱり、上手いやつの朗読はすごいんだな。
「じゃ、ロウソク消すね」川村はふっとロウソクを消した。まだ明るい。
「次はどうする? さすがに2話連続は無いかな」
「そうだね。じゃあ俺の話で」
話したのは「桜の木」
例の小学生向けのリメイクだ。
自分が作ってきた(リメイクだが)話だから当然話が抜けたりもせず、話せた。
「……あの、桜の木は一体なんだったのでしょうか……?」
「まじかよ、その展開は読めないわぁ。え、元ネタ何?」
「気になるか? 榊山? 聞いて驚くぞぉ?」
「めっちゃ気になる」榊山の瞳がロウソクで橙に映る。
「実はな、これ、小学生向けの怪談集『学校の怖い話』のオレがリメイクしたやつなんだぜ」
榊山の瞳孔が小さくなる。
「え、嘘、まじ?」と聞くから「まじまじ。元の話も持ってきたから後で貸すよ」と言ってやった。よしよし。いいぞ。
「でも、凄いね。リメイクとは言え作ったんでしょ? なんかちょっと尊敬」と川村が言った。
「お、おう。珍しいな、川村がオレを褒めるなんて」
「違うよ。褒めるべきタイミングで褒めただけだって」
と、顰め面で言った。つまり、今まで俺は褒めるべきタイミングが無かったってこと?
少しガッカリしながらロウソクを1本消した。心做しか一気に暗くなった様な、気がする。
「じゃ、次、榊山。めっちゃ怖い話なんだろ?」
「いや、まだそれを話すには早すぎる。まずはこっちだ」と自信ありげに言った。なんか、よく分からない予感がする。
……。
「……つまり、木村さんが振り込んでしまったのは詐欺グループの口座だったのです。皆さんも振り込め詐欺にはご注意ください。……詐欺って、怖いわぁ」
……。
川村も黙っている。そりゃそうだ。
俺は咳払いしてから言った。
「それさ、怪談って言うか、ただの啓発活動だぞ」
「でも怖かったでしょ? ふふふふ、怖い話に出てくるのは何も妖怪だけじゃ、ないんだぜ?」
誰かこいつの自慢げな鼻を折る権利をください。
「早くロウソク消して」と川村も不機嫌そうに言った。
おいおい、そんなに怖かったのかよ。と榊山はまだふざけている。早く、と語気が強くなったので慌てて消していた。
「とりあえず、一周か。何だか3本消えるだけでも相当暗くなったように思えるな」
「まあ、11本のロウソクなんて11歳の誕生日のときくらいにしか見ないしね」と榊山。
「俺は、確か、1っていう数字を象ったロウソク2本だったけど」
「あ、そっち系? じゃあ11ロウソク童貞卒業? おめでとう」
「黙れ」
なんてこった、まさか、百物語の最中に軽い下ネタに出会うなんて、人生で最初で最後だろうし、僕だけの経験かもしれない。全く得でも損でも無い経験をさせやがって。
「えっと、次はどうする? また同じ順番?」
「百物語ってその辺のルールってあったっけ?」
「そういえばこれ百物語だったっけ、忘れてた」と榊山がハハハと笑った。まあ、詐欺の注意なんかされたら百物語でもなんでもないな。
「まあ、順番は同じでいいんじゃない?」
「そうねー、じゃああの話にするか」と川村は話し始めた。
* * *
2週目も終わり、3週目、俺の番だ。2週目にもリメイクした「呪いの島」をお届けしたから今回は「狐と嫁入り」にしよう。これはノンリメイクだからな。もっと驚くぞ。
「うーん、なんか、微妙」
「そうね、今までのリメイクの方が良かったけど今回はリメイク?」
嘘、結構怖い話だと思ってたんだが。
「違うけど」
「ああー、やっぱり小学生、中学生向けって感じ」
そうか。
「まあ、次の俺の話で口直ししてやるよ」と榊山が意気込んで言った。
「マジで? なんか、ゴメンな」
当然ながら次に話されたのは「人介解剖」3人とも知っている話だった。
「……って言う話なんだけど怖くなかった?」と榊山は不安そうな顔をした。
「ごめん、榊山、知ってた」
「私も」
「え、ぇぇえええええ!? 嘘!? マジ?」
「ごめんなぁ、榊山、知ってたもんは怖くないし、もっと言うと話そうとしてたやつだわ」「私も」
……。
3人とも笑いだしてしまった。
俺は腹を抱えて笑う中、百物語の最後に現れるであろう妖怪に謝っていた。
「ごめんなさい、妖怪さん。さすがにこれは笑っちゃうよ。」
こうしてオカルト部では百物語する際、話すタイトルは開催前に打ち合わせることが部則に載せられることとなったのだ。




