最終話 世界線を作ろう ②
登山コースから出るとさっきまでの不気味さは更に増した。
心臓の鼓動はとうとう煩い。
俺たちは1つ目の建物に入った。
本らしいものはひとつもなかった。
次の建物。
そこでもまた何も見つからない。
3軒目。そこで、川村がこういった。
「こ、これじゃない?」
そこには本があり、その表紙には読めるようで読めないような字で「未来物語」と書かれてあった。
「案外、あっさり見つかるんだな」と榊山が言う。
「でも、ここで終わりだ。川村、本を開いてくれ」と俺は言う。
川村は本に手を伸ばし開こうとした、その瞬間。建物の入口の方で大きな音がした。
振り向くとそこには大烏がいた。
「逃げろ!」と俺は言うが肝心の逃げ道が無い。
やばい、やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
大烏はジリジリとこちらに来る。パニックで頭が回らない。ああ、どうする? どうしよう。
大烏が大きな口を開けてガアアアアと鳴いた。
それを聞いて、俺は何かを悟った。もう、ダメだ。
何とかして動けばいいのに体が動かない。
突然、
「こっちだ! 逃げろ!」という声がした。誰の声かは分からないが、俺は金縛りから解けて、足が動き始めた。声がした方をむくと、知らない青年が立っていた。青年の方にはもう1個出口があったのだ。裏口があるなんて気づかなかった。
俺たちはそっちへ向けて走る。
3人とも裏口から出て、青年の元に駆け寄る。
「君たち、僕に着いてくるんだ」と青年が言った。
「あ、あなたは誰なんですか」と川村が聞くが、
「話は後だ! 今は大烏から逃げるぞ!」
青年について走る。後ろからは確かに大烏が着いてきていて、時折大声で鳴く。それが俺を何度も恐怖にさせたが、堪えて走る。
走っている最中、青年が叫んだ。
「師匠! 来てください!」
すると、俺の隣を何か白いものが後ろへ通り抜けた。それが何かを確認する暇も無く、俺は走る。
青年はまだ走り続けた。だから俺達も走る。しかし、いつの間にか大烏の鳴き声は聞こえなくなっていたし、気配もしなくなっていた。
その辺で青年はようやく立ち止まった。
俺達も立ち止まる。
俺は肩で息をしながら青年に訊く。
「はぁ、はぁ、あなたは、何者なんですか」
青年はこう答えた。
「この、川村玲奈さんの祖先だよ」
「じゃ、じゃあ」と川村が言う。
「待った。こうやって僕の話をしている暇は無い。世界線を作り直すのが先だ。いま、師匠が大烏を食い止めてるけど、すぐに大烏に追いつかれてしまう。早く、儀式をするんだ」
「は、はい!」
川村は地面に未来物語を置いた。
「捲る順番は覚えてる?」
「はい」
「じゃあ、勾玉をここに置いて」と青年が指さす。
「わ、わかりました」と榊山が持っていた勾玉を指さされたところに置いた。
「僕が今から詠唱をする。詠唱の間に僕が手を叩くからそのタイミングでページを捲るんだ」
「じゃあ、久山君はページ数を言って」
俺はページ数を書いたメモ書きを取り出した。
そして、青年が詠唱を始めた。
まず、1回目の手拍子。
「4」
川村がページをめくる。次の手拍子。「2」
そうして、川村がページを捲る。この間、俺は再び大烏が来るのではないかという不安に怯えていた。
だけれど、俺は青年の手拍子に合わせて数字を言わなければならない。
そうして、最後の10ページを捲る前に詠唱は終わった。
「て、手拍子は?」と榊山が問う。
「それは最後に君たちが決めるんだ。僕はもう師匠のところに戻るからね」
そう言って青年は消えた。
「こ、ここで10ページを捲れば、終わるのか」と俺は言う。
「そうだね。ちょっと、現実味無いけどね」と川村。
「な、なあ、約束しようぜ?」と榊山。
「約束?」
俺は首を傾げる。
「そう。来世もちゃんとオカルト部に所属すること。これが守れないものはドーナツ100個」と榊山が言った。
「最後の最後までお前らしいな」
「それが榊山堺って男だ」
「約束だからね?」と川村が言った。
「じゃあ、来世でね」と川村が言った。
「ああ」榊山が応じる。
「じゃあ、行くぞ。川村、捲ってくれ」
川村は頷いて、そして、ページを捲った。
俺たちは白い光に包まれ、気を失った。その時に恐怖心はなく、むしろ、安心に包まれたようだった。
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