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第九話 沢下村 ②

ここら辺から実際の歴史と食い違うような描写があるかもしれませんが、創作ということでよろしくお願いします

「言ってる意味が分からないのですが」

 1926年? なんのこっちゃい。

「いや、そのままの意味じゃ。ここは1926年。ちょうど君たちの時代の90年前じゃな」

「ですから、意味が分からないです」

 俺はだんだんからかわれている気がしてきた。と、そこでさっきまで黙っていた青年の方が口を開いた。

「理解できないのも分かります。ですがここは1926年。つまり、あなたたちは時間遡行……横文字で言えばタイムスリップとでも言いますか、それを引き起こしたのです」

 俺と川村は一旦お互いを見合って、そのあと青年の方に向いて、首を傾げた。

「ハッハッハ。信じられない、という顔をなさっているな。まぁ、信じられぬなら信じなくてもよろしい。ただ、ひとつの言えることはこの村は昔から未来から来た人間がよく来るということです」

 おじいさんの方が続けた

「こいつの言う通り、この村には未来から人が来ることが多い。そして、その原因も何となくわかっておる。……というか、それしか原因は見当たらぬのじゃがな。少し、長くなるが、聞くか?」

 俺は聞いてみたかった。本当にここが1926年な気がしてきたからだ。

「はい。俺は聞いてみたいです」

「そうか。そちらのお嬢さんの方は?」

「あ、はい。私も聞いてみたいです」

「わかった。では、始めるかの」


「単刀直入に言うが、時間遡行の原因はこの神社の祭神である『トキ神』と『村川神(むらかわのかみ)』の2体じゃ」

 俺はここで話を止めた。

「あ、すいません。止めてしまって。あの、神社って2体の神様を祀るものなんですか? その辺はよくわからなくて」

「まあ、珍しいじゃろうな。ただ、この神社ではその2体を祀っておる。その話も絡めて説明しよう。続きじゃが、『トキ神』の方は昔から代々祀ってきた神様で、トキの姿をした神様だという。駄洒落のように聞こえるかもしれぬが、このトキ神様は。時間、つまり時を操り、時代に安定を齎すと言われておる」

 時を操る。なんだか変な表現だな。

「君たちがこの時代に紛れ混んだのは恐らくトキ神の力のせいじゃろう」

「でも、なんで僕らなんですか? ついさっきまでトキ神様のことなんて知りませんでしたし」

「それはわからぬ。ただ、ここに来る人間は大抵、トキ神の仕業ということじゃ」

 つまり、何らかの理由で俺たちはトキ神様に未来送りにされたわけか。その何らかは知らない。

「儂が君たちに会いたいと思ったのはそこなのじゃ。君たちにはトキ神の……なんと言えばいいだろうか、気配、痕跡があったのじゃ。もし、この近辺の子ならばトキ神の痕跡は現れぬから興味深かったのだが、未来から来たと言うなら問題は無い」

「……あの、私たちって帰れるんですか? その2016年に」と川村が聞いた。確かにそれは気になる。

「もちろん。じゃが、トキ神の力となると、すぐに帰れるという訳では無い。ただ、今まで来た人間は2日くらいで帰れたというらしい」

 2日。長いような短いような。ともかく帰れるならまあいいや。

「さて、未来から来た、と言えば先程出た『村川神』の方だが、言い伝えによれば元々人間だったそうだ」

 人間。つまり現人神ってやつか?

「よく勘違いされるのじゃが、現人神というのは人間として現れた神のことで……わかりやすい例は天皇陛下じゃな」

 あ、そうか。ここは昭和3年だからまだ人間宣言はまだだったか。

「そうではなく『村川神』は完全な人間から神になったと言われておる。どうやら村川神の方も君たちと同じように未来から来たという伝承がある。未来から来た村川神はその力でこの村の人々を助け、死した後もこの神社に神として祀られているのじゃ」

「ということは村川神は自分の力でその時代に行ったということですか?」

 川村が聞いた。人々を助ける力があれば過去へ行く力もあるということだろうか。

「多分それはないじゃろう。村川神についての本がある」

 おじいさんはそこの戸棚から1冊の本を取り出した。古ぼけた本だ。

「この本はその村川神自身が書いたとされる、いわば自伝じゃ。ふーむ、どこじゃったかな。ああ、ここじゃ。『飢えに苦しむ人々に持っていた食料を与えた』とある。江戸末期から明治あたりに書かれた本としては珍しく、口語で書かれておるが、それはともかく、伝承とは食い違う箇所がある」

 力、ではなく、持っていた食料か。それが未来の食品は当時の人には不思議だったから力という表現をしたのだろうか。

「と、まあ、確かに村川神が人間だったことはここに記されておる。ただ、死ぬ前に『トキ神に弟子入りする』と遺していたらしい。そういうところからこの神社ではトキ神と共に村川神を祀っておるのじゃ。気になるなら、この本を持っていきなさい。暇つぶしにはなるだろう」

 僕はその本を受け取った。

「あの小屋に置いておけばまた取りに来るから、思う存分読むのじゃ」

 勝手に未来に帰っても大丈夫ってことか。

 ここで川村が口を開いた。

「あ、あの。少し、いいですか?」

「なんじゃ?」

「あの、私たち、ここに来る前に……信じられないかもしれないですけど、すごく大きな烏に出会ったんです」

「あ、はい。そうなんです。人の大きさくらいの烏で、身の危険を感じたんで僕達は逃げてきたんですけど」

 というとおじいさんは目を見開いた。再び、青年の方と話している。今度はどうやら不穏な空気だ。

 次におじいさんが俺たちの方を見た時には深刻な顔をしていた。

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