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第七話 集落跡ってワクワクしない  ③

 次の小屋は特に何も無かった。

「あのさ、榊山」

 と俺は問いかけたが、返事は無かった。

「あれ? 榊山は?」

 俺は川村に聞く。

「そういえば。どこに行ったんだろ」

「いや、これは相当マズいぞ。さっきまで確かに榊山はそこにいたのに既にいなくなっている」

「探せばいるんじゃ……、あ」

 川村が絶句した俺はその視線の先を見ると、烏がいた。大きな烏。人間1人くらいの大きさの。少しのインターバルのあと。

「逃げよう!」

 俺は川村の手を引っ張り、走った。

 あれが危険かは置いといて、とにかく逃げよう。俺と川村は登山道とは反対側を走った。だが、そんなことはどうでもいい。とにかく早くあの烏から逃げなくては。

 川村は俺の手を放し、自分で走っている。荷物のせいで走り辛いが、何とか走った。


 長いこと走り、疲れたので少し立ち止まった。

 あんまり長い間走っていたので中々呼吸が落ち着かない。

 果たしてあの烏はなんだったんだろうか。ようやく呼吸も治まった辺りで俺は川村に問う。

「な、なんだったんだあれは」

「し、知らないよ。……妖怪?」

「……」

 呼吸が整うと次は頭が混乱した。

「まず、ここはどこだ? 曲がらずに真っ直ぐ走ってきたはずだからそのまま戻れば戻れるはずだけど」

 果たして本当に真っ直ぐ走ったのだろうか。

「あ、と、トランシーバー」と川村が言った。

 そういえばそんなものを持ってきていた。

 早速、俺はトランシーバーを付ける。川村のトランシーバーには繋がったようだ。あとは榊山のトランシーバーに繋がるか、だけど。

「どう?」

 川村は俺に不安そうに聞く。

「どう……ダメだ、い、いや、まだ繋がっていないだけだし、圏外にいるだけかもしれない」

 携帯を見るがこちらは圏外だった。

 大変だ。

 どうする?

 榊山を探そうにも手がかりはないし、そもそも俺達も迷子だ。

「……、登ろう。下山ルートはたくさんあるけど登り道だけを選べば、絶対に頂上に着く」

 俺と川村は立ち上がり、頂上を目指す。そこまで高い山ではないはずだ。10分も歩けば着くはず。

 俺はトランシーバーを付けたまま歩いた。いつか繋がると信じて。しかし、中々繋がらない。だけど、付けておかないといけない。俺は絶望しないようにトランシーバーのことは考えないようにした。

 ただ、ポジティブな気持ちになどなれなかった。なれるはずがない。ポジティブシンキングにもなれない。ただ、絶望しないようなギリギリの位置で心を保っている。何か起きたらそれはもう絶望へと転じるくらいに。

 そのとき、トランシーバーが繋がった。そこからは紛れもなく榊山の声がした。


 * * *


 少し前。


 僕は物語と書かれた本を持ち集落跡を歩き続けた。そのせいなのか分からないが、いつの間にか集落跡を出ていた。

 あ、あれ? さっきまで確かに集落跡にいたはずなんだが。

 僕は玉朱を呼び出した。

「玉朱、これはもしかして」

「ああ、迷子じゃの。しかし、安心せい。霊的なものは感じられんからただの迷子じゃ。そのとらんしーばーなるものを使って彼らと連絡するとよい」

 僕はトランシーバーを付けた。

 けれど、

「繋がらない……」

「ふむ、少し待ってみるのじゃ。何も、そう簡単に繋がるものではないだろう」

 確かに。

 僕はその場に留まってトランシーバーが繋がるのを待つことにした。こういうときは待つのが確実だろう。何より、玉朱がいる。多分なんとかなる。

「まぁ、不安なのは分かるが、まだ死んだわけでもなかろう。儂で良ければ話し相手になる」

 そう言う玉朱が嬉しかった。このおかげで心做しか不安も拭えた気がする。

 けれど、トランシーバーが繋がらないことはとても不安であった。本当にただの迷子ならトランシーバーが繋がったっていいだろう。けれど、繋がらない。

 しばらくして、僕はさっき拾った本を読むことにした。

 久山たちがいるときはナントカカントカしか言ってなかったから、次に会うときはしっかり読めるようにしておこう。

 そうして1ページ目から苦戦しながら読んでいると、

「若者よ」

 と玉朱から話しかけてきた。

 珍しいな。

「どうしたの?」

「いま、何者かが近くにおる。儂は霊体じゃから霊的なものの気配は分かるのじゃ。そう、何か、大きなものが近くにおる」

「そ、それは危険なの?」

「分からぬ。じゃが、万が一のため、ここを動くのが良いかもしれぬ」

「分かった」

 僕は本を閉じて、荷物を背負って、歩き始める。

「具体的にはどっちに行けばいいの?」

「うーむ、そっちでよかろう。ここを離れれば良いだろうからな」

 なるほどね。

 しかし、便利だな。玉朱の霊体感知能力は。

 暫く歩いていると、烏の声がするようになった。うるさい。

 かぁ、かぁ。うーん、山に烏っているのか? 枯れ木なんてあんまりないし。糞さえ落とされなければいいんだけど。

「ねぇ、ぎょく……」

 玉朱が僕に飛びついた。ど、どうした。理由を聞く前に玉朱が叫んだ。

「伏せろ!」

 僕はわけも分からず、飛び込むように地面に伏せた。その視界の端に、何か大きな黒い物体を見たが、それを確認する前に意識が飛んだ。多分、脳震盪でも起こしたのだろうか。

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