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第七話 集落跡ってワクワクしない? ②

 翌日。

 沢下山に10時に着くために家をすぐに出た。そんなに早くも無いが、体感では早い。ま、寝坊しかけたんだが。

 持ち物は少なめにして、昨日当てすぎた駄菓子と、水、トランシーバー、替えの電池。それをナップサックに突っ込み、制服で出かけた。よく分からないが、今日は制服集合にした。本当にただの気まぐれ。

 運動靴を履き、沢下山へ向かう。もしかしたら着くのが早すぎるかもしれない。


 * * *


「玉朱、僕、君がいることにいつの間にか慣れているけど、これって相当、奇怪なことだよね」

「儂に言われても知らぬ。儂はその奇怪なこと、じゃからな」

 沢下山へ向かう道中、僕は玉朱と話している。玉朱自体は僕の好きなときに好きなタイミングで呼び出せる。そのせいで呼び出さない時間が増えて、玉朱のいる生活に慣れたのだろうか。ともかく、あの遅刻した日に諦めたとは言え、自分でもこの慣れるまでのスピードには驚いている。

「これから沢下山に向かうけど、何か起こるかなぁ」

「知らぬ。儂はおぬしの守護霊でしかない。言葉を話すことと、おぬしを守ることしかできぬ」

 言葉を話すこと……。

「玉朱ってこの勾玉から出てきたんだよね?」

「そうじゃ。じゃから肌身離さず持ち歩けと言った」

「じゃあ、もしこの勾玉を日本人じゃない人が拾ったら、玉朱は何語を話すの?」

「儂を舐めるなよ、小僧。英語くらいならお手のものじゃ。アーイムイングリッシュオーケーじゃ」

 本当かなぁ。

「沢下山で何か起こったら守ってね?」

「わかっとる。それが儂の務めじゃ」

 僕らは沢下山へ向かう。きっと何も無いと信じて。


 * * *


 沢下山、登山口。

 登山、と言うほど大きくはないと思う。とか何とか屁理屈を心の中で押し殺して、俺は2人を待った。どうやら一番乗りだ。

 10円ガムを1つ取り出し、フーセンを作る。この駄菓子らしい甘さに少しうんざりするが、フーセンは大きく出来た。あんまり大きいので途中でやめてまた作り直した。

「うーん。途中から味がしないのを噛むのはやなんだよね」

 俺はそんなことを軽く呟く。呟いたところで甘くならないので諦めてフーセンを作る。今回は穴が空いていて膨らまなかった。

 ガッカリしていると川村が来た。

「あ、久山君、珍しいじゃん一番乗りなんて」

 早速馬鹿にされた。

「部長だからな」

 俺はそう返した。その後は別に何か話題があるわけではないので、俺はフーセンを作り、川村は本を読んでいる。いや、単語帳を読んでいる。なんだこいつ。ここまで来て勉強かよ。

 英語はまあまあ出来るからいいや。志望校は国語を二次試験で出さないからどうでもいいや。

 フーセンにとうとう飽きてきた頃、榊山が来た。

「お、榊山。遅いぞ」

 と言ってもまだ時計は9時40分。

「まだ、10時じゃない」

 3人が集まった。

「よし。じゃあ、これから沢下山の集落跡に向かう。具体的な場所はよく分からないから取り敢えず登山道を行って返る。その間に見つからなければ、考えておく」

「えー、あんまり私、運動得意じゃないんだけど」

 と川村が反駁した。

「我慢しろよ。別に走って登る訳じゃないからさ。行きの間に見つければ山頂まで行かなくていいんだぜ?」

「そうか。なるほど」

 英語は出来ても理解力は皆無……。

 俺たちは登山道に足を踏み入れた。沢下山を登るのは……と言うより登山という記憶がそもそもない。多分、人生初の登山だ。

「涼しくてちょうどいいね」と川村が言った。

 緑が多いからな。

 小学校の記憶だけれど、ゴーヤを育てたことがあり、ゴーヤのつるが伸びて支柱を埋めつくしたことがあったが、その中はとても涼しかった。そんな記憶がある。なんでこう、しょうもない記憶は残るのだろうか。もっと、修学旅行とか、そういうのを明確に覚えておきたい。

「マイナスイオンって感じ」

「ここは水溶液の中なのか?」川村の言葉に俺はボケる。

「それじゃあアルカリ性だよ」

 ……。OH¯のことかな。別にマイナスイオン全てが水酸化物イオンとは限らないんだけど。

「なぁ、榊山。そういえば、お前、化学は出来るの?」

「半々」

 半々……。よく分からんな。


 まあまあ歩いてきたつもりだが、まだ集落跡は見つからない。

 当時の高校生に見つかるなら俺たちも見つけられるはずだが。

「無いな」

 榊山の声は暗い。というか、不機嫌だ。そりゃそうだ。中々見つからないのだ。

「いや、あるよ」と川村が言った。

「え?」

 俺はそっちを見ると確かにそこに集落跡があった。

「おぉ、本当にあるんだな」

 朽ちた家や小屋が何軒かある。

「これに入るの?」

 集落跡までの道は繋がっていない。道でないところを少し歩く必要がある。

「なーんか、死角に穴が空いていてそこに落ちてしまいそう」と川村が言った。

 その例えはよく分からないが、どこか不安を煽るような雰囲気は頷ける。

「行こうぜ、それが僕らの目的なんだから」

 榊山が登山道から離れて集落跡へ向かった。俺と川村もそれに続く。

 登山道と集落跡まではそこまで遠くない。どちらからでももう一方を見れる距離だ。迷うこともあるまい。

 1つ目の小屋に着いた。ここはどうやら物置小屋のようで今は腐った木材とか、紙切れとか蛇の抜け殻があった。

「あ、蛇の抜け殻だ。財布に入れるか?」

「入れない」

 榊山の誘いを俺は断る。病原菌とかが凄そうだ。

 次の建物はやや大きく、窓とかもあったが、やはり、朽ちていて、めぼしいものはない。

「おーい、見ろよこれ。なんかの本だぜ?」

 と榊山が言った。

 表紙には何かが書かれている。「物語」と読める字が書かれている。

「物語? なんの?」

「中を見れば分かるだろ」

 榊山が本を開く。

「……読めない」昔に書かれたものだからか分からないけど、字はほとんど消えかかっていて何とか読んめる程度だ。

「えーっと、未来から来し、若者、……ナントカとカントカと呼ぶ。ナントカは……ナントカして、カントカは……」

 文系の榊山でも読めないらしい。当たり前か。普段読んでいる古文は綺麗に印刷されたものだからな。

「帰ってから読むか」

 そう言って榊山は本を取り上げて、鞄に入れた。

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