第七話 集落跡ってワクワクしない? ①
とうとう終業式が終わり、夏休みの始まりである。
高校生活で最後に遊べる夏休み……留年しなければ。
「今日の終業式は良かったなぁ。熱中症対策のために、体育館ではなくて放送で行ったってのは」
「本当に良かった。おかげで宿題が終わったんだもの」と榊山が言った。
それは多分褒められたことでは無い。
「でも、校長先生がいい話をしてたよね。」
「え? どんな話?」
川村の言葉に榊山が反応するが「終業式に宿題やるような人には教えませーん」と返した。
正直、校長先生の話なんてまともに聞いたことないからなぁ。なんというか、中学の卒業式でさえ脳内で問題解いてたからなぁ。解いていたのはなぞなぞだけど。
懐かしいな。中学の卒業式。
喋ったり、クスクスしたら体育会系の正に体育の先生に怒鳴られるだろうからといって俺と隣のやつはモールス信号を覚えた。確かに卒業式3日前くらいの事前練習ではクスクスしてた奴らがやっぱりあの先生に怒られていたので2ヶ月ほど前から高校受験の勉強と並行して覚えたモールス信号は功を奏した。
トンは咳払い。ツーは鼻で強めに吸う。実際、隣同士だったのでそこまで目立つ音も出さずに出来た。目立つ音だとしても声では無いので咎められることはない。
あとは国歌を歌わなかったり。中学の社会の先生が「俺は国歌が嫌いだ。だから立つだけで歌わん」と言ったので俺達も真似して歌わなかったりした。別に国歌は嫌いじゃないけど歌いづらいし、歌う気にもならなかったのでそうした。
馬鹿だったんだな、俺。
そう、感傷に浸っていたら、
「なぁ、明日はいつ集合するんだ?」と榊山が聞いてきた。
沢下山突撃は明日だ。
「あぁ、えっと、朝10時がちょうどいいんじゃないか?」
「そう。というか、まだ決めてなかったんだな」
「まあ、前日に決まることは前日に決めるんだよ」
我ながらいい加減な性格だ。
「あ、レシーバー」
「お、忘れてた」
引き出しからトランシーバーを取り出して2人に渡す。1人2台だ。
「2台もレシーバーは要らんだろ」と榊山が言った。
「予備だよ、予備。あるものは使わなきゃ」
「無くしたらどうするんだ?」
「無くすということは俺たちの身にそれ以上の何かが起こってる」
榊山は納得したようだ。
「でも、これ繋がるの?」と川村。
「じゃあ、試してみるか」
3人でトランシーバーの電源を入れる。周波数とか、そういうのはダイヤルで調節。
「あ、あーあー、聞こえる?」
「聞こえる、聞こえる。案外ハッキリ聞こえる」
確かにハッキリ聞こえる。そこまで安いものでもないのだろうか。全員、2台とも繋がったのでヨシだ。電池式なのでそれぞれ百均かどこかで電池を買ってくることになっている。
「単三なのも便利だね」
使う電池が単三なのは本当に嬉しい。
「それじゃ、明日に向けてもう、帰るか」
「うん。また何かあったら連絡する」
そうして、俺達は帰路につく。途中までみんな同じだ。
「トランシーバーがどこまで聞こえるか知りたいからあの分かれ道からトランシーバーで会話しながら帰ろう」と川村が言ったので、分かれ道からはトランシーバーで会話しながら帰る。
傍から見ればとんでもない光景だ。
トランシーバーではたわいのない話をした。まぁ、3人が同時に話すともはや何を話してるか分からなくなるけど。でも結構長い間話せた。
榊山は途中からバスに乗るので俺と川村で話すことになった。
「今どの辺?」
そう聞いたが言われても分からない気がする。
「うーん、上手く言えないけど自販機が3つ」
それで分かれば俺の地理感覚は凄まじいものになる。
「ごめん、わからん。俺はあの、えっと、駄菓子屋がある」
「つる屋?」
「そう」
行ったことは無いが、確かにつる屋という看板がある。
「あぁ、そこまで繋がるのか。なら大丈夫じゃない? もう切っても」
「そんなに遠いの?」
「まあまあ」
そのまあまあを聞いているのだが。でも川村がそう言うなら大丈夫だろう。
俺は通信を切った。
このトランシーバー、中々だな。無くさないようにしよう。うん。
しかし、駄菓子屋か。久々に入って見ようか。
……。
当てすぎた。
当たり付きを予算100円のうち、50円だけ買った。つまり、元手は50円。変えたのは250円分。当たりが当たりを呼んで連鎖したため10分くらい駄菓子屋に居座ることになった。高校生が駄菓子屋に長居したくないので150円分くらいになってから当たるのを拒み出した。
悪運とはこういうことを言うのかもしれない。
明日の食料にでもしよう。
10円ガムを1個口にほおりこみ、フーセンを作りながら歩いた。意外と体はフーセンの作り方を覚えているものである。




