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第五話 守護霊と勾玉

 帰り道。僕は学校から少し歩いたところのバス停からバスに乗る。うちの高校はバス勢が少ないのでこのバス停で待つ高校生も僕くらいしか居ない。

 バスから降りればもう家なのだが、今日は甘いものでもなぜだか食べたくなったので1つ前のバス停で降りて、コンビニに寄る。買ったのはアイスだ。バニラソフト。特に思い入れはないが、手軽なアイスはこれくらいしか無かった。150円をゆうに超えるから少し躊躇ったが、美味いならまあ文句は無い。……? なんだあれ。

 近づいてみると、道上に緑色の石が落ちていた。

「石というか、勾玉だな」

 数字の9の形の石。なんか、綺麗だから拾っとくか。

 勾玉をポケットに入れてアイスを食べる。ソフトクリームは舐めるより食べる派だ。舐めるってなんか、汚いじゃん。

 家に着く頃にはコーンまで食べきっていた。

 さっさと自分の部屋に行き、さっき拾った勾玉を見る。

 緑色で透き通ってとても綺麗だが、軽い。本当に石ならばもう少し重くても良いはずだ。……多分これはどっかのお土産屋で売っている勾玉ストラップとかその辺だろう。

 別に取っておく必要は無いが、折角拾ったので置いておくことにした。

「……遺失物等横領罪」

 バレなきゃ大丈夫だろ。

 呟いて、自己解決。

 さて、僕は久山を見習って少しは夏の課題を終わらせますかね。


 その日の夜。

 僕はそんなに夜に起きていられない体質なので直ぐに寝る。今日は11時就寝だ。やや、遅め。

 寝付きも良くて、すぐに眠りにつけた。

「とは言っても寝つきが良すぎると今度は真夜中に目が覚めちゃうんだよね」

 時計は午前3時を指していた。

 別に身体を起こしてまでしたいことも無いのでベッドの上でぼーっとしておく。すぐに寝れるだろ。

 ……。

 寝付けないな。あー、やだやだ。めんどくさいなぁ。こっちはさっさと寝たいんだから。

 しかし、寝付けない。

 夏なので起きられるから起きておく。電気は付けない。暗がりの中で部屋を1周して、ベッドの上に座る。3時10分。

 長い戦いになりそうだ。

 こういうときって寝付けないんだけど、いつの間にか寝てるよね。今日はいつ寝るのだろうか。

 机の方を見る。上にはまだ勾玉が置いてあった。

「おいおい、まさか、この勾玉が霊的なパワーで僕を起こしたなんて言うなよ?」

 何の気なしに手に取ると、いきなり光りだした。

「う、眩し、なんかスイッチとかあったのかよ」

 急いで色々押したり叩いたりするがまだ光っている。

 あー、めんどくせ、明日にしよ。

 光ったままの勾玉を机の上に置こうとしたとき、

「若者よ。聞こえるか若者よ」

 声がした。

 え? なんだなんだ?

 初めは理解が追いつかなかったのでただただ不気味だった。

「だ、誰?」

 僕は虚空に向かって問う。

「儂か。儂は所謂、守護霊という者じゃ」

 あー、これは夢か。なるほど、明晰夢ってやつだ。今日の降霊術があんまり期待はずれだから夢を見てんだな。それなら愉快だ。

「へぇ、守護霊さんがなーんで僕の所に来たんだ? もしかしてあの降霊術で呼ばれたのか?」

 と問う。夢の中とはいえ、大きめに独り言を言うのは奇妙だ。

「降霊術? なんの事か知らぬが、若者よ、おぬしはなぜ、あの勾玉を拾ったのじゃ?」

 え? ん? 降霊術は関係ないのか。

「なんでって綺麗だったから」

「綺麗、か。なるほど、儂には解せぬが、これは定め故、儂は今からおぬしの守護霊となろう。おぬしにはまだ誰も憑いておらぬからな」

 と言うと目の前に青く仄かに光る狛犬が現れた。

「一応、言っておくが、これは儂の仮の姿じゃ。おぬしを守るために都合の良い姿がこれだったのじゃ」

「い、犬が喋ってる」

「ふむ、やはり驚きを隠せぬようじゃな」

 隠せぬっていうか、そもそも驚いても無いのだが。

「まあ、儂のことはなんとでも呼べ。あまり横文字らしいのはよしてくれよ? 儂が覚えられん」

 名前……。

「ポチ」

「馬鹿にしておるのか」

 怒られてしまった。

「じゃあ、ギョクシュ」

「ギョクシュ? 横文字か?」

「いや、玉に朱と書いて玉朱(ぎょくしゅ)

「なるほど、まあ、ここ最近で付けられた名としては良い方か」

 そんなに悪い名前を付けられていたのだろうか。

 勾玉の玉と守護霊の守から取った簡単な名前なんだけど。まあ、気に入られたのならいいや。

「では、おぬしも寝たいようだし、儂は消える。呼ぶときは玉守と呼んでくれたらいつでも来よう」

 そう言って消えた。

 ふーん、成程。中々面白い明晰夢だった。よし、これは明日話そう。

 僕はいつの間にか眠りについていた。

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