第四話 降霊術 ②
「具体的にはどうやるんだ? 久山」
僕は久山に訊いた。被験者なんだからこれくらい訊く権利はあるだろう。
「ああ、まあ、魔法陣みたいなのを描いたりするからまず模造紙を買ってきたい」
「床に描く代わりってこと?」
「そう。ホムセンには川村がもう行ってるから、俺たちは方法の確認」
はあ。荷物持てるのか?
「荷物とかは大丈夫なのか?」
「ペンキとハケ。模造紙1枚だからどうにかなるだろ。ちなみにこのおつかいには俺が出費した。釣り銭が駄賃になる」
なんか、僕達、川村を金で使い過ぎでは?
まあ、いいか。
「方法は?」
「えっと、模造紙に赤のペンキである魔法陣を描く。」
「血の代わり?」
「いや、元ネタにもペンキだった。赤ければ何でもいいんじゃないか?」
んなアホな。これは成功しないな。
「その中心に榊山が立つ。んで、俺が呪いをかける」
「覚えたのか?」
「カンペ」
本格的に失敗する気満々だな。流石、形だけ。
「それだけ?」
「まあ、生贄とか無いみたいだし、ほんとに形だけかも知れない」
知れないって言うか、本当に形だけだな。
なんちゃって降霊術。オカルト部としてはなんとも言えないが、まあ、夏のお遊びとでも考えれば中々のものになるだろう。
「しかし、なんで降霊術なんだ? ネタが無いのは仕方ないけど中々浮かぶ様なもんじゃないぞ? もしかして前からやりたかったのか?」
「いや、別に。魔法陣を描いてみたかっただけだよ」
本当だろうか。
「別にいいけどよ。これからはあんまり大層なことしないようにしようぜ?」
「それじゃあ、スリルがない」
おいおい、エレベーターを避けてるやつがなにを言う。とは言えないので代わりに
「スリルだけがオカルトじゃねぇだろ? 都市伝説とか、未解決事件とか」
「例えば?」
「例えば……」何かあったっけな、なーんか、少し前位に何か見たんだよな……。あ、そうそう、百物語のときだな。えっと、なんだっけか。
「まあ、あれだあれ。未解決事件は未解決事件だよ」
「おいおい」
えー、なんだっけなぁ。
「というかさ、宿題終わったのか?」
「宿題ってなんだよ」
「夏休みのだよ」
「まだ始まってねぇよ」
「俺は終わらせたぞ」
え。
というか、去年もこいつすぐに終わらせて無かったか? 部活もいつも来てたし、一体いつ終わらせたのだろうか。
僕が驚愕しているときに川村が帰ってきた。
「1000円持たせてペンキ、模造紙、ハケ合わせて873円。女子に全て押し付けて駄賃が127円ってのは無いんじゃ無いの?」
「お、5枚入りか。4回までミスれるな」
ミスるな。
「ミスなんてどうでもいいの。もう少し給料弾んでもいいんじゃないの?」
「じゃあ、俺のドーナツ6個のうち2つをやろう」
「それじゃあ足りない」
「文句言うな。榊山の財布も考えてやれ」
いつの間にかまた増やしてるし。いい加減奢らなきゃな。
「まあ、良いんだけどさ、ありがとうだのおかえりだの言ってもいいんじゃないのー」
文句を言う川村を無視して久山は模造紙を広げていた。だから僕も無視した。
「でもさ、魔法陣を描くのは僕らなんだから、そこは役割分担ということで」と、久山は言っていたが、僕としては均等に分担できている気がしない。
「榊山、糸持ってこい」
「糸? 何に使うの?」
「下描き用のコンパス」
時折、この久山のことを頭が切れるやつだと思うときがある。機転が利くというか、大きい丸を描く時に糸というのは常套手段だが、すぐに出てくるアイデアでは無い、気がする。
糸は実はこのオカルト部部室にある。別に魔法陣のために用意してあるのではなく、一応、という感じだ。
この部屋は実は何でも置いてあって、裁縫道具、工具など本当に何でもある。調理器具だってあった。だから家庭科で忘れ物したらここから借りていく。部員以外でもそうしてるやつもいる。(許可済)
「ほいよ。」
裁縫糸を久山に投げる。
「何それ?」と川村が聞いた。
久山はペットボトルの蓋の上に棒を立てている。棒の先は丸くなっていて、ペットボトルの蓋よりもやや、細い。
「コンパスの針。手で押さえるとズレる気がする」
なるほどな。やはりこいつは頭がいい。
「この棒の先に鉛筆を括り付ければ、2人で立って円が描ける」
「じゃ、こっちの棒はコンパスの鉛筆ってことか」
「そりゃ、鉛筆を括りつけてんだもの」
何で反論されたんだ?
言われた通りに鉛筆を括り付ける。棒と鉛筆をセロテープで固定する。立って作業するからガッチリと固定しないと鉛筆がズレるからな。気をつけることはあんまり鉛筆を長く出しすぎないことだな。棒から2ミリくらい飛び出てる位がちょうどいい、
気がする。
ほとんど憶測で作業してるからなんとも言えないが、多分正しい。最後にさっきの糸で繋げれば終わり。
「上手くいくかな」
「さあ、まあ、このペットボトルの蓋がいい仕事するはずだよ。」
榊山が「針」を押さえて僕が「鉛筆」を持って回る。糸がピンと張るのを保ちながら回るのは結構大変だが、なんとか1周できた。
「まあまあ、綺麗なんじゃない?」と川村が評価した。
確かに。多少の歪みはあるが、下書きとしては87点くらいの出来だろう。
「はい、もう1個円書くよ」
「え、まだ描くの?」
「榊山、お前、円が一つだけの魔法陣なんて見たことあるか?」
無いけど、これはもう失敗したくないな。
もう一度円を書く。さっきのよりは半径が大きいのでやりやすく、今回のは92点くらいの出来だ。
「ここに六芒星を描く」
「五芒星じゃなくて?」
「まあ、宗教じみてくるけどそうやれ、とあるんだからそうやるんだ」
しかし、五芒星に比べて六芒星は中々描きづらいのでは?
「六芒星って描くの難くないか?」
「難しいけど、コツがあるから」
コツ?
「外円に内接する六角形を描くんだよ」
「それが難しいだろ」
「いや、榊山、内接六角形のある特徴を思い出してみろ」
そんなこと言われても僕は文系なんだよなぁ。
「知らないよ」
「その六角形の1辺は半径に等しいんだよ」
あー、なんか、そういうのあったなぁ。
「だから、この糸を1辺にして六角形を描けばいいんだ。あとはその頂点を1個飛ばしで三角形を2つ描けば出来上がり」
「はー、久山、お前凄いな」
「伊達に数学で学年18位取ってないから」
伊達に出来る順位ではない気がするのだが。せめて上位10位に入ってから言えよな。かく言う僕は256位なのだが。
「川村は数学、何位だったの?」
ふと気になったので聞いてみる。
「やだよ。18位とか聞いたら私の順位霞むじゃん」
そんなにいい順位なのだろうか。
「じゃあ、理科」
「83位」
「国語」
「47」
「社会……世界史の方」
「世界史は58」
なんだこいつ。上の下みたいな順位じゃないか。
「どうでもいいけどよ、早く六角形描くぞ」
うるさいな国語最下位め。
「そこ押さえてて」
結局は数学18位にこき使われるのか。




