Ⅰ.帰還
「えーっと…」
馬も陸竜もいないのに高速で目の前を通過する鉄の塊。
人びとは薄い板を持って忙しなく通り過ぎて行く。
教会などよりはるかに高い建造物。
間違いない、俺は地球に戻ってきたのだ。
「帰って…来た…のか?」
俺はあまりの嬉しさに声が震える。無理もない、異世界にほっぽり出されてはや3年、途方も無い時間だった。
「しゃあぁぁぁぁぁ!!!」
俺は喜びに声を荒らげる。と、同時に俺に視線が集まる。当然だ、向こうの世界では声をあげたって魔物が集まるだけだったが、ここは地球。コスプレをした頭のおかしいやつにしか見られないだろう。
と、不意に俺の肩を叩かれる。
俺に殺気も出さず近づき、あまつさえ俺の肩に触れるなんて何者だ!
俺は咄嗟に戦闘態勢に入る。
「困るんだよ、こんな街中で騒がれちゃ」
「こっ、ここここれは、お巡りさん、すっ、すみません。今やっと異世界から帰ってこられたもので」
地球のお巡りさんにそんなこと言って信じてもらえるはずがないだろ。馬鹿か俺は。
「そうか、やっぱり君もそうなのか」
「そうですよね、すみません、嘘、嘘デスゴメンナサイ、べ、別に頭おかしいわけじゃ…ちょっ…いまなんて?」
「君も異世界帰還者なのかって聞いたんだ」
あーこれは俺じゃなくお巡りさんが頭おかしいんだろう。それかあれか?神対応ポリスってところか?
「俺が、異世界から帰って来たことを信じてくれるんですか!?」
「当たり前だ。って言っても君は知らないのか」
「なにをですか?“貴方、死んだのよ’とでも言うつもりですか?」
「何を言っているかわからないが…」
そう言うと、ため息をひとつつき語り出した。
「今から3年前のことだ、あの日は7月7日七夕の日だった。嵐の前の静けさというのかよく晴れとても平和な日だったんだが、東京では太陽の光が見えなくなった瞬間に悲劇は始まった。暗くなった空が突如として明るくなって金色の光の中から、今まで空想の産物とされてきたドラゴンやら魔物が、出現し、あっという間に東京の街を火の海にかえてしまった。皆、あの日のことを世界の終わりのカウントダウンが始まったとして、ワールド・エンディングと呼んだ」
「ちょっと待って下さい!それでもまだこの世界が、存在しているのは、」
お巡りさんは人差し指で俺の言葉を遮った。
「チッチッチ、話は最後まで聞くものだぜ」
どうしてこのお巡りさんは突然後から付け足すようにキャラクターを設定し出した?俺の中では今のひと言で物語の重要人物に急上昇しているんだが…
「で、そんな危機に現れたのが異世界帰還者だったのさ。それまで異世界のチカラを持ったまま地球に帰還し、それを隠していたものたちがチカラを合わせてモンスターの出現した光から半径10キロを封鎖して、結界でとじこめたんだ」
そんな、3年前の7月7日って言ったら俺が召喚された日じゃないか。
「その…ワールド・エンディングで亡くなった人は」
「それは世界各地で同時ににおこったのでね…身元がわかっているだけで9億1900万人だ」
なっ…
俺は言葉がでなかった。そんなに多くの人が亡くなったなんて…
「君、日本での名前は?」
「神崎大志です」
「では大志君に問題だ。今日本でも各地で12箇所が封鎖されていて、日本政府はその土地の奪回を目標としている。実はドラゴンやモンスターには現代の技術の産物である銃などは効かないんだ。自衛隊では太刀打ち出来ない。では、その戦う戦士をどのように育てている?」
「…学校…ですか?」
向こうにも人間には魔王を倒す、魔族には世界征服を達成するための戦士を育てる学校があったからな。
「正解だ。君は頭がいいな」
向こうでもこっちでも頭がいいなんて言われたことはなかったな。素直に嬉しい。
「そんな学校を、異世界から帰って来たものを集めて作ったんだ。そのうちクラスがあってね勇者がほとんどなんだ」
「へぇ、お巡りさんはとても、物知りなんですねぇ」
「もちろんだ。なにせお巡りさんってのは副業で、本業はスカウトマンみたいなものだからね。申し遅れてすまない。俺は、横溝奏太だ。よろしく」
はい、フラグ回収。重要人物確定。
「ところで大志君、君の向こうでのジョブを教えてくれるかい?みたところ術師のようだが…」
まぁその通り黒を基調としたものを身にまとっているから術師にも見えるだろう。が…
俺はこの3年間このクラスとして戦ってきた。俺はこのクラスにかなりの愛着がある。
「俺は…魔王です」
気のせいだろうか、急激に横溝さんの顔が蒼白したように見えた。