41話 今後の予定
陽が暮れる前に里民たちがゾロゾロ戻ってきて、遊んでいた子供たちと家路にむかう。
透子も里長の家で一息ついた頃、里民の何人かが集まってきたので夕食を頂きながら一部始終を語った。
ワイバーンのくだりでは大分驚かれたり、王の卵の件では感謝の意が示された。
スパーニ様と温泉の話は大いに期待され、今日は地魔法や土魔法の獣人が整地に行った話があった。
やがて解散し里長の家の客室に入ると一休が言った。
「トーコよ。明日からのことじゃが、話があるんじゃが・・・」
一休は言う。
「ん? なあに?」
「クーリンとお主は、精霊様の指示の通り、ノアキネー村に向かうのじゃろう?
里長の話によるとノアキネー村はタッキー様のおる滝の支流ではなく、別の川沿いになるそうじゃ。
川沿いから離れて山道をクマ獣人の足で2日程先のところにあるそうじゃ。
ワシはのう、ある者に会うために海からこの川を上ってきたのじゃ。
そしてトーコのあの魔法に巻き込まれてのう、今に至るのじゃが、この先もお主らと一緒にいたいと思うておるのじゃが、まだ本来の用が済んでおらんのじゃ。」
「あー、一休は何か用があって、その人?に会いに行きたいのね?」
「そうじゃ」
「私たちも一緒に行けばよいのかな?」
「いや、それには及ばん、逆行することになるしの。
滝の支流とノアキネー村の湖から出る支流はやがて下流で合流するそうじゃ。
フットサイド町の近くだそうじゃ。」
「フットサイド町って、ワグマさんたちが言っていたワイバーンを売れるギルドがある町よね?」
「そのようじゃな」
「もしかして一休は、ここで私とクーリンと分かれて別行動して誰かに会いに行って、フットサイド町で合流というか待ち合わせをしたいと思っているの?」
「フム、話が早いのう、そうじゃ。」
「えっ?えええぇー、ちょちょっと待ってよ!」
「なんじゃ?」
「爺さんいないと、俺困るよ!」
「・・・どういう意味よ!」
「えええぇぇー、ストッパーいなくなると大変なことになりそうじゃん」
「はぁ? 何行ってるの?」
「・・・クーリンよ、従者とは付き添うだけが役割でない。
お主の身を守り、助言をし、時にはやらかしたことの後始末をするのじゃ」
諭すように一休が言う。
「後始末ってトーコ相手じゃ、尻拭いのオンパレードじゃんか!」
イヤそうにクーリンが言い返す。
「はぁ? クーリン!尻拭いなんかさせた覚えはないわよ#」
不満そうに透子が言う。
「・・・クーリンよ、トーコの場合は尻拭いというよりも、巻き込まれたというほうが正しいであろう? 特にお前さんはトーコがやらかした結果巻き込まれまくっておるしのう」
諭しながらも、笑いを潜めて茶化す。
「・・・確かに」
クーリンは思い返すように遠い目をした。
「・・・んなことないとおもうけど・・・」
(いや、あったかも?・・・)
バツの悪そうな顔をした。
「まあ、トーコはクーリンだけじゃ手に余るような気がするしのう、里長に相談したらノアキネー村まで道案内を出してくれるそうじゃ。
村にはギルドがあるからそこで登録をして、村に来る商隊かハンターのパーティーに同行させてもらい、町に行ければどうにかなるだろう?とのことじゃった。
町には他の町とを繋ぐ乗り合い馬車があるそうだから、それでフットサイド町まで行けるじゃろうと教えてもらったのじゃ。
それで、どうかのう? トーコ? クーリン?」
「ふーん、なるほどね。私はそれでいいよ」
あっさりOKした。
「・・・・・・」
うつむいたまま、返事ができないクーリン。
「ん? クーリン?・・・どうしたのじゃ」
一休が伺う。
「・・・俺、嫌だ! 爺さんと一緒がいい」
泣きそうな顔をして言う。
「クーリン・・・」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一休がクーリンによくよく話して、漸くクーリンが渋々同意して、就寝し翌日の朝を迎えた。
「里長さん、みなさん、いろいろとお世話になりました」
「いや、世話になったのはワシらのほうじゃ、里にきてくれて感謝しておるよ」
「そうだ! トーコさんがいなければ、スパーニ様の祝福が得られなかったかもしれない」
マックが奥さんと仲良く並びながら言った。
「そうだよ、ばあさんの膝も治してくれてありがとう。君には本当に感謝している」
ビルが満面の笑顔で言った。
「ああ俺もだ、魔力があってもほとんど使えなかった精霊魔法を導いてくれて・・・ホットミネラルウォーターで湯が流れ出した感動と感謝は一生忘れないだろう、ありがとうありがとう」
でかい体のエルトが言葉を詰まらせてぐずりながら言った。
広場で見送りを受けていると、フータスさんとコータスさんが荷車を引いてきた。
「これらは、おれら里からの感謝の気持ちだ。持って行ってくれ」
「えっ、そんな! 申し訳ないです」
「硬貨を全く持ってないんだろう? これらはノアキネー村のギルドで取引できるものだ。ワイバーンの素材に比べれば些細な金額かもしれないが、町に行くには役に立つと思う。遠慮せず持って行ってくれ。そのマジックバッグに全て入るだろう?」
透子はチラッと一休を見ると、僅かにうなづいていた。
「ありがとうございます、大変助かります」
透子は荷車に触れて詠唱を唱える
『収納』
荷車とその上に載っているもの全てが跡形もなく、マジックバッグに収納された。
「あっ! すまんが荷車だけは返してほしいんだが・・・」
フータスさんが申し訳なさそうに言う。
「そっそうですよね、『荷車だけ搬出』」
透子は慌てて詠唱して、荷車を戻した。
「・・・いつも思うんだが、なんだか締まらんのう?」
一休はおどけたように言うと、周りで含み笑いがこぼれて、場が和んでいた。
「おーい、ちょっと待ってくれー!」
「おーい、ちょっと待ってくれー!」
「おーい、ちょっと待ってくれー!」
「そうだ、ちょっと待ってくれー!」
「そうだ、ちょっと待ってくれー!」
「そうだ、ちょっと待ってくれー!」
森の向こう側から声がした。
見ると昨日会ったワグマさんが6人やってきた。
透子の前で背負子を下すと、木箱を6個並べた。
「これらは、おれら夜里のもんからの餞別だ。この2つはノアキネー村で硬貨に換えてくれ。これは肉が入っている。道中に食べてくれ。この2つは大きい街のギルドに持ち込んでほしい。そしてこれは、旅で使えそうな道具が入っている、皿とかカップとかあと棍棒と杖と木槌もだ、使ってほしい。」
(はっ? 棍棒と杖と木槌?? ・・・いや、そっちじゃない!)
「ええー、あっあの、昨日いただきましたよね? なんかせっかく運んできて言うのも何なんですが、こんなにたくさん持ってきて、ほんとにいいんですか?貰っちゃって?」
透子はとっても申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
「もちろんだぞ、王の卵を持っているんだ。できるだけの事をしたいと思って用意したんだ」
「そうだぞ、遠慮はいらん」
「そうだ、来たばかりの渡来者は着の身着のままだとも聞いたからな。」
「硬貨に換えて村で必要なものをそろえるんだぞ」
「一応里のメスにも聞いて、いりそうな小物も詰め込んだから、宿で確認してくれ」
「全部持っていけるだろ? さあバッグに入れて持って行け」
ワグマ獣人が口々に言った。
「ありがとうございます。本当に助かります」
透子はお礼を言って詠唱した。
『木箱6個中身込みで収納』
「トーコ殿、ノアキネー村への案内はニールがするのじゃが、こやつらもい一緒に連れて行ってくれ」
ホータンが言った。
「俺は案内のニール、おまけの連れはマリーの甥のラートンとエリクの甥のコークだ」
ヒグマのお兄さんが言い、白ヤギ少年とヒグマ少年を合わせた。
3人は旅装らしい姿で背嚢を背負っていた。
ニールさんはガーディアンで、里に休暇で帰っていたがこれから町に戻るのでちょうどいいだろう?ということで、透子とクーリンの案内兼ガードをしてくれるそうだ。
ラートンとコークは町の学校に入るため、ニールさんに同行するそうだ。
そうして、透子達はアリク里のみんなに見送られて出発した。
里を出て、少し歩くと川沿いにでた。
「では、トーコ・クーリンしばしの別れじゃ。フットサイド町で再会しおうぞ」
「うん、気を付けてね。一休が来るまでフットサイド町で待っているからね」
「爺さん、ちゃんと来るんだぞ、ボケて間違えるなよ!」
「ふぉふぉふぉふぉー、ワシは大丈夫じゃ。大丈夫じゃないのはその方らじゃな、特にトーコよ、あまりやらかすとクーリンが途方に暮れるじゃろうて、自重せよ」
「うっうん、分かっているよ」
「爺さん・・・」
「そうじゃ、トーコにはこれを預けておこうかの」
一休は青の結界石4つを甲羅から取り出した。
「魔力の透し方は覚えておるな? これがあれば野宿も安全じゃろう、持って行くがよい」
透子は結界石を受け取ってお礼を言った。
「一休、ありがとう」
「ではな、後ろの皆もよろしゅうに」
「「「おう」」」
一休はテクテクと進んで川に入って上流を目指して泳いで行った。
一休を見送った5人は、川沿いを離れて山林を降りながら南へ村道を目指して獣道を行く。
ノアキネー村までは、1泊2日の旅が始まった。




