40話 一部の人にしか理解されないどうでもいい話
「お~い! トーコ殿ー」
「お~い! ダー長老ー」
「お~い! トーコ殿ー」
「お~い! ダー長老ー」
「お~い! トーコ殿ー」
「お~い! ダー長老ー」
透子達が車座で話し合っていると、アリク里の方から探索の声が響いてきた。
「あー 探しにきたな」
「墜落したのを夜番が見てたんじゃあないか?」
「あぁ~ 思いっきり見られていました、はい」
「ここだー」
「ここにいるぞー」
四方からビューッと風を纏って滑るようにやってきたのは、獣化したヤギ獣人とウサギ獣人が三人ずつだ。
(わっ! 真っ白なウサギとヤギだ! ロップイヤーな耳が風に揺れてミョンミョンしている!可愛いぃー もふりたい!)
透子は等身大ぬいぐるみのような白ウサギに釘付けになって、手をワキワキさせていた。
リーダー格らしい大ヤギが爆走して、車座の中に飛び込んできた。
土埃が立ち上がるのを見て、木コップに入らないように、ワグマさんが持ち上げたり立ち上がったり、長老が羽で後ろに隠したりしていた。
大ヤギは獣化を解いて2足で立ち止った、その顔はフータスだった。
「ト―コ殿、無事だったか?」
フータスは透子の姿を目にして、ほっとしたように言った。
「ケガは? 大丈夫か?」
白ウサギが心配そうに言いながら、獣化を解くとビルの人化顔が現れた。
「あーっ、ああぁぁ~」
次々と獣化を解くウサギ獣人を見て、透子はガッカリして声をあげてしまった。
(あーおっさんだー、わかってたよ!わかっていたけど! みんなおっさんだ!! )
萌えてメルヘンチックな朝靄な背景に押されてテンションがガッツリ上がっていただけに、急降下させたおっさん人顔に心底愕然とした。
クーリンは呆れたようなしぐさをし、一休はスルー。
ワグマ獣人とフクロウ長老は、透子とウサギ獣人の間で視線を行ったり来たりしていた。
落胆した声を聞いている一同はわけがわからず、顔を見合わせながらハテナを浮かべていた。
「「「「「「???・・・」」」」」」
「あー、あの、大丈夫かい?」
ビルは戸惑いながら、心配そうにもう一度声をかけた。
「はぁ~、何でもないです。大丈夫です。・・・ケガもないです」
萌えライフを削った透子は、肩を落として言った。
「そっそうか、それはよかった」
ビルは戸惑いながら返した。
「ダー長老は、どうしたんだ?」
フータスが気絶したままのダーを伺いながら、マーとローに向かって問いかけると、マーが透子から聞いた墜落に至る一部始終を語った。
その後、昼里と夜里の獣人たちが挨拶をしながら情報を交換して解散となり、透子たちは昼里に戻ることになった。
「ダー爺は、俺らが担いで連れて帰るから、ロー爺がトーコ殿を、マー爺がカワウソ従者を乗せて行けばいいか?」
ワグマ獣人が言った。
「あのー、里も見えたことだし空の移動はもう十分かなって思いますので、歩いていきます。」
透子は遠慮がちに断った。
ワグマ獣人たちは顔を見合わせてから口々に言いだした。
「・・・・・・まだ、歩くなら結構あるぞ」
「そうだな、ヒューマンの足じゃ、半日くらいかかるんじゃないか?」
「大丈夫なのか? 飛んだほうが早いだろう」
「一晩寝てないんだろう? ここは飛んで行ったほうがいい」
「飯だって、食べてないんじゃないのか?」
「早く着いて休んだほうがいい」
「精霊魔法だって結構使っただろう? 途中で寝落ちしたら危ないぞ」
「そうだ、寝落ちする寸前だから、墜落したんだろう?」
「そうか、飛ぶのはイヤになったのか!」
「なるほどな、それならわかる、また落ちたくないだろうよ」
「「「俺らが送って行こう!」」」
「「「そうだ! 担いでいくぞ!」」」
ワグマ獣人は閃いたように一斉に透子の方に向いて身を乗り出して言いだした。
ギョッとした透子は、後ずさりしながら、しどろもどろに言い返した。
「いやいやいいや、大丈夫ですから!、フータスさんやビル差さんたちが迎えに来てくれましたから!」
(担いで行くって? 荷物じゃないんだから! あれっ?もしかしてだけど、あのワグマのモフモフにお姫様抱っことか??『妄想中』・・・いいかも♡)
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
ワグマ獣人たちは残念な子を見るような視線で透子を見た。
そこへフータスが入って言った。
「トーコ殿はこちらに戻る途中だった。だから俺らがお連れするから任せてくれないか」
「空を飛ぶのが嫌ならフータスさんの背に乗せてもらうがいいんじゃないかな?」
クーリンが言った。
「えっ、フータスさんの背?」
(白ヤギさんの背に乗る『妄想中』・・・Aルプスの少女みたい・・・いいかも♪)
「はい! 乗ります! フータスさんに送ってもらいます!」
「・・・・・・」
フータスはたじろいて微妙に困惑し、本能的な忌避感による一筋の汗が線を太く引いていた。
一休は周りの様子をうかがいながら、ボソッと言った。
「ワシは、長老の背に乗って飛んで行ったほうがいいと思うんがのう?」
そして、透子は獣化したフータスの背に、クーリンは別の白ヤギの背に乗り、マーとローは上空で伴走し
てアリク里に戻ることになった。
「うっ・・・うわぁーあああああーーー!」
フータスは風を纏い全力で疾走していく。
「まっ、てぇえええーーー! はぁ~・・・うっおおおおおーーー!」
岩場にくると、大跳躍してビョーンビョーンビョーンスタッスタッスタッビューンビューンビューン!
「ぎっ、げぇええええええええーーー! はぁ~・・・うっああああああぁーーー!」
ジャンピング&ステップ&スタートダッシュダッシュー!
「うぉつ! ひぇええええええーーーー!」
フータスは獣道を無視して、木々の間を山林の起伏に合わせて、ジャンプしたり滑走したり、障害物をよけながら左右に振れたり上下運動を繰り返しながら、最短距離を疾走していく。
透子が妄想したような【牧歌的な白ヤギさんとお散歩】であるはずもなく、フータスの背にしがみついてジェットコースターもどきの体験をすることになった。
里の入り口では、墜落を見た里民たちが心配そうに出迎えて、無事を喜んでくれていた。
透子はフータスコースターで疲労困憊していたが、里民たちは透子のグッタリゲッソリ姿を見て労りの声をかけながら、長老たちに厳しい視線を投げていた。
フータスさんの奥さんコリーさんが、夜番明けのフータスさんと一緒にどうかと朝食に誘ってくれたので、ご相伴にあずかることにした。
ポトスとナンのようなパンとヤギミルクだった。
しっかりとした量があって、十何時間ぶりにちゃんとした食事をして、すっかりまぶたが重くなった透子は、進められるままコリーさんお子さんのベッドを借りて寝落ちするように仮眠した。
次に透子が意識を取り戻したときは、陽は反対に傾き始めた頃だった。
「コリーさん、食事とベッド、ありがとうございました。お礼に水を給水したいのですが、ご希望ありますか?」
「あら、起きたのね、・・・お水ね、昨日満水で入れてくれたからまだ大丈夫だけど、せっかくだから足して貰おうかしら? こちらにお願いね」
透子は言われたように給水した。
「ご苦労様、さっき伝言が来て、『今日の出発は見合わせて、明日にするなら今夜も里長の家に泊まってください』って、言っていたわよ」
コリーが言った。
「あっそうなんですね。じゃあそうさせてもらいます。お世話になりました。」
「お世話になりました」
「世話になったのう」
3人はフータスさんの家を後にした。
3人でブラブラと広場の方に向かって歩いていると
「あー、クーちゃんだ!」
スノースライダーの近くにいたミナちゃんから、指差しで声がかかった。
ミナちゃんと一緒にいた子供たちも一斉にクーリンを見た。
子供たちはワラワラとやってきて、クーリンをあれよあれよという間に連れて行った。
「あらあら、クーちゃん人気ものねえ、もてるイケメンは違うわねぇ」
ヒグマのお母さんが言った。
「えっ?えええ?」
「やっぱりぃ? あのカワウソ君、可愛いよねぇうちの子もお気に入りでねぇ、ウサギ族じゃないのが残念よね」
ウサギのお母さんが言った。
「えええええ?」
「あんな可愛い系イケメンのカワウソの君、初めて見たもの。うちの子も夢中になっているわ」
別のヒグマのお母さんが言った。
「えええええぇ~」
「そうよねー、将来人化したら、すごくかっこよくなりそうよね」
タヌキのお母さんが言った。
「はっ? いや?、ええぇ~」
「あと、10年若かったら立候補するんだけどねー」
別のウサギのお母さんが言った。
「・・・・・・」(まじすっか?)
「あら、私も立候補したいわぁ~」
別のタヌキのお母さんが言った。
「・・・・・・」(ショタ?ショタなの?)
「何言ってるの、ダンナに聞こえたら大変よ」
「うふふふふ、冗談よ、冗談! でもスタイルも良いし、目の保養だわ」
「わかる、わかる、そうよねぇ」
「オオカワウソ族って、強面ばっかと思っていたけど、クーちゃんは全然違うのよね」
「あら、知らないの? クーちゃんはコツメカワウソ族だそうよ。うちの子が昨日言ってたわよ」
「「えっ? そうなの?」」
「そうよ! うちの子もそう言っていたわ」
「なるほどねぇ、コツメカワウソ族ってあんなにイケメン揃いなのかしら?」
「どうもそうみたいよ、クーちゃんが『自分は普通で平凡なタイプだ』って言ったらしいわよ」
「えー、ほんと? 基準間違ってない?」
「あー、大人のコツメカワウソ族に会ってみたい!」
「「「そうそう」」」
「可愛い系イケメンって、見ているだけで幸せにするわ」
「トーコさんあんなイケメンと一緒で幸せよね~」
「そうよねー、羨ましいわ」
「・・・・・・」
(獣人のお母さん、皆さんが獣化してくれたほうが私は幸せです。・・・特にウサギのお母さんを希望します。・・・あー、もふりたい!)
一休は半目で首をくすめて聞いていたが、やがて甲羅に潜った。




