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39話 ワグマ獣人たち


マーとクリーンをのせたローが、透子と一休とワグマ獣人達のいるこの場所に降り立った。


「ト―コ大丈夫か?」

クーリンがへばっていたのを見て心配そうに駆け寄ってきた。


「うん、なんとか大丈夫、ちょっと着地に失敗した」

透子はえへらと笑った。


「ちょっとじゃないだろ! ちょっとじゃ!」

「イヤ、失敗したと言うレベルじゃないと思うが・・・」

「・・・何をしていたのか?と思っていたが、着地だったのか!」

ワグマさん達は思い思いを口にした。


気絶中のダーの様子を診ていたマーが言った。

「トーコ殿、ワシは貴女に聞きたいことがあるんじゃが・・・」


「ん、何でしょうか?」


「後ろから見ていた様子じゃが、墜落したのはダーの首を絞めたからのように見えたのじゃが?」

マーが厳しい視線を透子に向けながら言った。


「うっ」

透子はバツが悪そうに目が泳いだ。


「そうじゃ、ワシもそのように見えたぞ、何があったのじゃ!」

ローも鋭い視線を向けて言った。


追及された透子は一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、観念し頭をさげて謝罪するように言った。

「・・・・・・すみません! 実は、居眠りしていて一休が起こそうとペチペチしていたんですけど寝ぼけていて起きなかったせいかいきなり脇腹をつねられまして、痛みと驚きのあまりとっさにダーさんの首を強く掴んでしまったんです! 締めるとかそんなつもりはありませんでした! 本当です。・・・失速してマーさんとローさんが追い越した時、風圧で煽られてバランスを崩して背から落ちそうになったので、掴んでいたところに力が入ってしまったんです! そしたらダーさんが落下し始めて・・・慌ててシールドを張ったんですけどそのまま落ちたら衝撃で痛いだろうなと思ったので、バルーンにして反発するようにしたんです! けど、ちょっと張り加減を失敗したようなんです! ・・・そそれで、着地した時にバウンドが大きくなってしまって、止まれなくなったのでそちらの黒クマ獣人さんたちに止まるのを手伝ってもらったんです!」


「「・・・そっそうか・・・」」

マーとローは脇腹つねりのくだりのあたりで一休を胡乱な目で見たが、次第に熱を帯びてくる透子の力の入った説明に押されて、タジタジになっていた。


一休は我関知せずとマーとローの視線を飄々と流している。


「そうなんです!!」

そして透子はコブシを握りしめて力説した。







一段落がついて、円を描くように一同は車座に腰を降ろした。

マーとローを交えて、ミミズクの神殿での一部始終を交代でワグマの皆さんに語った。



「・・・・・・そうか、王の卵は貴女に預けられたのか」


「そうですね。御覧になりたいですか?」


「いや、このような場所で何かがあっては良くない。そのマジックバックに安全に入ったままのほうがよいだろう」


「問題になっていたあのワイバーンも退治してくれたとは・・・ありがとう。 ハンターギルドに討伐の依頼を出す予定だったのだ。」


「そうだ。これを持って行ってくれ」

黒クマ獣人は、バックから青茸を取り出した。


「これは?」


「川の底に生える青茸だ。日中は陽の光に溶けて見つからないが、夜は月の光に反射して見つけやすくなる。特に丸い月の夜は。ヒューマンでは採集が難しいのでギルドで高値が付く、俺たちはこれを集めて売ってハンターに依頼するつもりだった。今はこれだけしかないけど、俺たちからのお礼の気持ちだ。受け取ってくれ」


「えっ、いや・・・そんな、もうミミズクの巫女さんたちからお礼を頂いてますから。それは皆さんたちで使ってください」


「それは巫女殿達のお礼で、これは俺たちの気持ちだ。受け取ってほしい」


透子は困って一休とクーリンをみるとうなづくので、受け取った。

「ありがとうございます。助かります」


「ところでつかぬ事を聞くが、貴女はヒューマンの使う硬貨をどれくらい持っているのか?」


「えっ? えー なんでですか?」


「これから領都に向かうのだろう? 硬貨が足りなくては宿も泊まれないだろう?」


「あーそうなんですけどね。今まで野宿だったし、何とかなるかな? 精霊魔法でお礼をすれば何とか泊めてもらうこともできそうだし・・・」


「里と村はそれでも良いだろうが、町に行くと宿にしか泊まれないぞ。治安の問題もあるから見知らぬ人を泊める家はないし、仕事はギルドを通すのが基本だぞ!」


「そうだ! ちゃんと言ってみろ、いくら持っているんだ?」


「えー、大丈夫ですよ。なんとかなりますから」


「なんとかなるとか、言ってるやつが一番なんともならなくて詰むんだ! 王の卵を預かっている以上安全な場所で過ごしてほしい」


「そうだ! だれか一緒について行くか?」


「心配だな? そうするか」


「いえ、本当に大丈夫です。ワイバーン討伐したのは私ですから! クーリンと一休もいますから戦力は十分です。 ちゃんと王の卵は守りますから!」


「そうだったな。 渡来者の精霊魔法は規格外だ。 俺たちよりもずっと強いんだ。」


「そうだ、かえって足手まといになるんじゃ?」


「・・・・・・」


「俺たちにできることは、旅に必要なものを持たせてやるくらいか」


「そうだ、で、いくら持っている? 正直に言ってくれ!」


「食べ物は足りているのか? どんなものを食べるんだ?」


「えっ、いえ、あのぅ・・・」


「おい! そこのカメ爺! 硬貨は大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないな。硬貨は持っていない。トーコはワイバーンをギルドに売って硬貨を得るつもりじゃな。

あとは赤茸をたくさん採取したから、まずこれを売って硬貨を得る予定だ、茶茸と薬草もいくらか採取したのがあるな」


「ちょちょっと、一休!」

あっさり暴露する一休を透子はギョとして、咎めた。


「「「「「・・・・・・」」」」」

ワグマたちは顔を見合わせて渋い顔をした。


「ワイバーンは一番近くてもフットサイド町のギルドまでいかんと売れないだろう?」

「そうだな」

「へたすれば、その先の街都市まで持っていかないとダメかもしれん」

「赤茸ならノアキネー村のギルドで売れるか?」

「赤茸も貴重だから量は引き受けられないと思うぞ、うまく商人がきていればよいが・・・」

「茶茸と薬草じゃ厳しくないか?」

「入門税はなんとかしても宿代は厳しいんじゃないか?」

「足りないな?」

「ああ足りないだろう?」

ワグマ獣人たちはゴソゴソと言い合いをしはじめた。


「巫女たちは何を渡したのだ?」


「えっ? 羽と精霊小石と薬草と干しワーム?だったと思う。あとリーア姫が焼き菓子とか。」


「「「「「「・・・・・・」」」」」」


「なんか問題あります?」


「「「「ありすぎだろうが!」」」」


「あのぅー、ギルドで売れないんですか?」


「・・・ギルドも村と町や街都市じゃ、規模も資金力も違うのだ。ワイバーンは大きな町か街都市ギルドに行かないと売れないだろう。青茸もだ。赤茸も厳しい。」


「精霊小石はどこでも売れるが、小さいところだと流通量規制で売れる量が調整されている。」


「薬草は種類による。近場で採れるのは見習いの硬貨稼ぎで安いし、貴重なのは薬師がいない村じゃ取り扱えないから町になる。鮮度がおちれば更に安くなる」


「羽は高級し好品なので、街都市か領都だ」


「町や街都市や領都に入るには入門税で硬貨がいるぞ、税金が払えなければ門限払いだ!」


「村のギルドでできるだけ売れるものを持って硬貨に変えないと町には行けん」


「村で買い取りできるレベルの物じゃないとダメだろう?」


「そうだ! 君らが持っているのは村のギルドでは手に余るものだ。」



(貴重過ぎて売れないなんて・・・ ヤバい、マジで詰んできたかも。 クーリンと一休の助言受けて硬貨に換えられそうな物を頂いたりいろいろ採集したけど・・・やっぱり世の中は(かね)だね、村でなんとか単発でいいから仕事見つけて硬貨稼ぎしないと先行き不安だ。 金があればどうにかできるけど無いと悲惨だ、少なくても街や都市じゃ暮らせない!・・・というか、入ることもできないじゃないか!?)




車座に座る森の一角は朝の柔らかな陽射しがさしこまれ始めて、朝靄(あさもや)の漂う幻想的な背景の中、ワグマ姿そのままの獣人にリアルに説教されるというシュールな状況で、透子は思いっきり現実を突きつけられていた。






10月からまた通常ペース投稿に戻すと思います。

いつも読み来てくれている方、ブクマしてくださった方、ありがとうございます。うれしいです!

今後もよろしくお願いいたします。


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